第2話 おぎゃあ!と生まれ変わって、俺、女の子。



         第二話

おぎゃあ!と生まれ変わって、俺、女の子。



 エスタエンデさんに促されるまま入った球体で意識を完全に途切れさせてから、どれほど経ったのか?


 最初に少し意識のようなモノが戻った時に居たのは水?の中のようだった。ただ、息苦しさや不快感などは一切なく、むしろ不思議な安らぎを感じた。


 そして、安らぎのままに意識は途切れ、再び意識を取り戻した時。


『おぎゃあっ!おぎゃあっ!!』


 やたら近くで赤ん坊の泣く声が一番最初に耳に響いた。


 全く、うるせーな。誰だよ?ぎゃんぎゃん泣いて。


 「はーい。良い子ですねぇ。お父さんでちゅよーっ。あぶぶぶっ、ばあーっ!」


 微睡みのような状態である俺の視界に最初に飛び込んで来たのは、綺麗な金髪に優しげな顔つきの優男だった。かなりのイケメンである。


 そんなイケメンが眼前に現れるなり、いきなり『あぶぶぶっ。ばあーっ!』だぞ?そんなんされたら、こうなるわっ!


 「・・・・・・」


 「あははっ!ほら、シャーリー。泣き止んだ、泣き止んだよっ!可愛いなぁー♪僕の天使だっ!!」


 いやいや、待ちたまえよ、イケメンさん。泣き止んだんじゃない、イケメンがする変顔が齎(もたら)すあまりの衝撃に素でドン引きしただけですよ?真顔になったよ、俺。お目目パチクリパチクリ。


 「もう、あなたったら。そんなに過剰にしたらこの娘が困ってしまうんだから。ねぇ〜?」


 そう言って俺の視界に新たに出没したのは、亜麻色の髪に深紅の瞳を持った美女、いや、美少女と呼ぶべき可憐な女性だった。さっきから俺はどうもこの美少女の腕に抱かれていたみたいだ。


 つまり?


 眼前に映る二人の美男美女こそ、乙女ゲーム『にじいろプリズム』の世界へ異世界転生を果たした俺の新しい両親という事になる。


 マジかっ!?今世は見た目だけなら既に人生勝ち組路線確定だろっ!


 これは、もしかしたらもしかして?ヒロインちゃんと出会いさえすれば、なみいるイケメン猛者な攻略対象を押しのけて俺にもワンチャンあるかも!だ、などと思っていた。


 「あはは!いやしかし、本当にありがとう、シャーリー!初産で大変だったのに、僕はほぼ何もできなかったし。それどころか行商してた有様で」


 さっきからすごい勢いで様相がコロコロ変わるな、俺の親父殿は。そういえば、エスタエンデさんが確か両親は商家とか言ってたし、行商人も大枠では商人で間違いないか。・・・あ、もう流石に様付けした方が良いか。確かゲームでも創世十二神と呼ばれて、宗教まである信仰対象なんだし。


 「うふふ、あなたは私たちのために商売を頑張ってくれているのよ?喜びこそしても、文句や不満をぶつけるのは筋違いじゃないかしら?出産だって、ご近所の皆さんが手厚く手助けしてくれて、すごく安産だって言われたくらいなのよ?」


 俺を優しく抱きかかえたまま、新しい人生の母さんは夫である親父殿へ愛らしくも愛情しか篭っていない柔らかい笑みを浮かべている。有難い事に今世も俺の両親の夫婦仲事情は大変宜しいようだ。


 「本当にありがとう、シャーロット。僕の子供を産んでくれて!僕はこれからも女性は君一人だけを愛し、産まれてくる子供達に沢山の愛と幸福を届けられるように精一杯頑張るよっ!」


 「もうっ!昔から、こうと決めたら頑固なんだから。でも、私こそありがとう、クローシュ。あなたの子供を産めて私は世界一幸せよ。愛しているわ♡」


 ふむふむ。俺の両親は父親がクローシュで、母親がシャーロットか。美男美女夫婦らしい名前な気がする。ていうかさ、パパ上、ママ上?まだ赤ん坊の俺の前で甘〜いいちゃらぶな雰囲気作ってんじゃねーぞ、ごるぁっ!!


 「おぎゃあっ!」


 「あらあら、ごめんなさいねー、クラリッサちゃん。構って欲しくてぐずっちゃったのかしら?」


 「いやぁ、どうなのかな?案外、僕らが良い雰囲気になっちゃったから、イチャつくな!って怒ったのかもね」


 すげえ。大当たりです、パパ上。にしても、俺の名前、クラリッサっていうのか。まるで女の子みたいな名前じゃん。


 まあ?某ガ●ダム作品にもカミーユって女の子ネームを付けられた男主人公とかいたし?とやかく言う奴いたら、彼みたいに、そんな大人、修正してやるー!すればいいか。


 にしても、クラリッサ、クラリッサねぇ・・・?どっかで聞いた覚えがある名前なんだけど、どこだったかな・・・。


 「はあー!しかし、クラリッサは、髪の色だけは僕似だけど、他の要素は全部、シャーリー似だよね。この愛らしすぎる目元とか特に!瞳も紅玉みたいに深紅だしさぁー!はぁー!本当に可愛いすぎて天使すぎるよ!」


 フフフ、美男子路線確定とか!これはモテモテが予測できて堪りませんなぁ〜!ぐへへ・・・おっと。


 父さんが俺を母さんの腕から抱え上げる。


 「クラリッサ!君はきっとシャーリーに勝るとも劣らない絶世の美女に育つよ!可愛い可愛い、僕達の愛娘っ!!」


 はっはっはっ!やめてくれたまえよ、パパ上。そんな困るじゃないか、絶世の美女だなんて・・・ん?絶世の美女?ンン?確か・・・僕達の、『愛娘』?


 !?


 お、女の子だとぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!?


 この日最大のおぎゃあー!?が部屋に響き渡ったのは言うまでもない。



          ◆



 どうも、俺です。


 エルファーラムという異世界に転生しました。

 

 前世は男だったのに、生まれ変わったらまさかの女の子。


 両親共に美男美女なもので、きっと生まれ変わった俺は、それはそれは絶世の美少女に育つのだろう。


 ていうか、アレだな。乙女ゲームのモブキャラ♂に生まれ変わったじゃなくて。


 乙女ゲームの超絶美少女(巨乳)主人公♀に生まれ変わりました。


 っていうね。


 あの愛娘!宣言の直後に思い出しましたよ。


 俺が生まれ変わった、クラリッサ・クラムベリルという少女は、正しく、俺の前世で人気を博した乙女ゲーム『にじいろプリズム』主人公のオフィシャルデフォルトネームだという事実を。


 この世界に産まれ落ちて、あれから半年経った。


 父親であるクローシュは、幼い赤ん坊である俺と愛妻シャーロットの側から離れすぎないために行商を辞め、新しく商会を立ち上げた。


 俺たちが暮らす港町があるこの地はハインスリン侯爵領の領都、名前はハインレージュという。グラスリンド王国で三番目の規模を誇る都市であり、王国と他国との海上貿易の拠点の一つでもある。


 そんな日々、数多の品物が活発に行き来する貿易商都市で我がパパ上が起こした商会は、簡単に言えば生活雑貨と食料品を主力とした商会だ。例えば、他国から輸入されるが、まだまだ品数が少なく、商取引もさして活発ではない品々を掘り起こし、新たなビジネスチャンスを開拓する。そんな感じだった。


 元行商人らしく、割と見聞きがよく商才もあったらしい父クローシュは、ゆっくりとだが着実に商機を見抜き、立ち上げた商会を母シャーロットと共に夫婦二人三脚で営んでいる。


 そんな新興弱小商家な我が家だが、堅実さと真っ当な商道が評判を呼び、着実に成長しているようだ。


 そして、そんな我が家の天使こと最早近隣の商店街における一大マスコット的な存在となったのがー。


 「「「かっ!可愛い〜っ♡」」」


 何を隠そう、転生して半年の元体育会系オタク男子。そう、俺、クラリッサである。


 「はぁー、毎日毎日見ても全然見飽きないわよね、クラリスちゃんはっ♪」


 いま、この愛らしすぎる俺に目が♡になっている女性は、隣で下町食堂を経営する若夫婦の若奥様である。その隣にて同じく目が♡状態で、鼻息すら荒い少し危ない気配漂うおば様は、この商店街組合会長の奥様であらせられる。


 全く、俺は、


 「あいっ!」


 「「「可愛い〜♡」」」


 自分の美しさが我が事なれど申し訳がない。


 ふっ。美しさとは罪なのだよ、諸君!


 フハハハハハッ!!


 ・・・・・そんなわけあるかぁっ!!


 ふざけんな!あのクソあまぁっ!!


 イザヨイのヤツ、転生したら、性別変わると分かっていやがったな!?それを忘れて伝えてないとか酷くね?ひどいよね?誰か同意してよっ!?


 大体、元男の俺が何が悲しくて、膜を貫く側から、貫かれる側にならにゃいかんのだっ!


 アレ、めっちゃ痛いらしいぞ!?いや、俺は体感してないから知らんけど、前世の幼馴染だった莉奈のやつが友人と話しているのを耳年増のように又聞きした知識にすぎないけど。


 別に転生した俺が、所謂(いわゆる)モブ娘とかならまだいいよ?


 でも、まさかの、乙女ゲームの超絶美少女主人公ちゃんよ?


 攻略対象を始めとした野郎どもが目を血走らせて(偏見)つけ狙ってくるんだぞ?


 壁ドンとかまったなしなんだぞ?


 こんちくしょおおおおぉっっ!!!


 「あぶぶーっ、だあっ♪」


 「「「可愛い〜っ♡♡♡」」」


 内心、これからのことに地団駄を踏む思いなんだけど、それはそれ、これはこれ。


 今の俺は、クラムベリル商会の愛娘である天使すぎるクラリッサちゃん(生後半年)なのだ。振りまける愛想は少しでも多く振りまいてくれるっ!


 つーか、問題はまだあるんだ。


 まずは諸君たちにコレをご覧いただきたい。


 『ステータスオープン』


 クラリッサ・クラムベリル

 性別:女

 年齢:生後6ヶ月


 Lv:99(年齢成長限界、以下同文)

 HP:99999

 MP:99999

 STR:9999

 DEX:9999

 AGI:9999

 VIT:9999

 INT:9999

 MND:9999

 LUK:9999


 ●保有魔法適正

 火:極大

 水:極大

 風:極大

 土:極大

 光:極大

 闇:極大

 時:極大

 無:極大


 ●保有スキル

 拳で全てを変える者

 魔法創成

 能力の最適運用

 全環境適正

 全言語自動翻訳

 絶対音感

 良妻賢母

 胃袋を掴む愛手

 神の舌を持つ女

 空を駆ける女

 水を得た魚(水中活動安易化)

 マナ超効率運用

 勝利の女神

 奇跡の導き手

 その微笑プライスレス

 リアルラックに乾杯


 ●保有加護

 一の神の加護

 二の神の加護

 三の神の加護

 四の神の加護

 五の神の加護

 六の神の加護

 七の神の加護

 八の神の加護

 九の神の加護

 十の神の加護

 十一神の加護

 十二神の加護

 ●●●の加護

 イザヨイの加護


 ●称号

 あまねく全てに愛でられる赤ん坊


 以上。


 なんぞ?コレ。である。


 赤ん坊からチート存在とかなんだよっ!?


 つーか、イザヨイの加護ってなんだっ!?おいコラ、イザヨイっ!出てきて説明しやがれっ!


 『システムメッセージ』


 『やあ(゚∀゚)w久しぶり、愛しい、ボクの処女を捧げたキミへ。プレゼントは気に入ってくれたかな?wキミが今世で困らないように、ボクらの権限をフル活用して、キミをその世界最強の存在に仕立てておいたよw

 ああ、感謝はやめてほしい。これも全ては愛しいキミのため♡ぷくくw是非是非、楽しい楽しい転生人生を送ってほしい。CIAO♪』


 『システムメッセージを終了します。クレームは一切受け付けておりませんので、あしからず。心を強く持って、わんぱくでも良い、逞しく育ってほしい』


 うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!


 あのクソあまぁーっ!!


 アイツのニヤけ顔が瞼の裏にハッキリと浮かぶようだ。間違いない、あのアマ、絶対に俺で新しい遊びに興じていやがるっ!


 こんちくしょうめっ!


 ぐぬぬぬ。


 悔しいけど、今の俺は赤ん坊。どうにもできない。


 どうするべきか、これが問題だ。


 まず忘れてはならない点が、今の俺は乙女ゲーム『にじいろプリズム』の美少女主人公であるという変えようのない事実。


 通常のシナリオ通りなら14歳から王都にある王立グラノリス魔法学園に通うことになる。これは決定事項だ。


 ちなみに確かー、そうそう、幼少期に魔法使いの最上位職である魔導使いに出会い、憧れて、クラリス自身も偉大なる魔導使いを目指すという夢を抱く。そして、件の名門学園の門を叩き、彼女の運命が開く。そんな感じだったはずだ。


 学園生活では、持って生まれたそのバイタリティの高さと母親譲りの可憐な美しさで注目の的となる。そんな彼女に興味を持ち、近寄ってくる攻略対象である六人の少年達。その全員、王族や高位貴族という、クラリスとは余りに身分が違う存在。


 一般市政で過ごしてきたクラリスにとっては、その常識がまるで通用しない彼等は興味本位からクラリスへちょっかいをかけてくる。


 憧れのお師匠様のような素敵な女魔導使いという夢に向かって一直線に進みたいクラリスの夢と恋と友情に満ちた学園生活がーって、このままいくとその渦中に巻き込まれるわけだ。主に、お、れ、がっ!


 真面目にどうしたものか。


 いっそのこと魔法学園に進学しないという方向でいくか?


 !?


 そうだ、そうだよ!行かなければ良いんじゃね?王立グラノリス魔法学園へ進学しなきゃ万事丸く収まるんじゃねーか?


 『システムメッセージ』


 なにぃーっ!


 『やあ(゚∀゚)!さっきぶり、元気かい?キミのクソアマ、イザヨイたんだよー?随分荒れているみたいだけど、大丈夫でちゅかぁ?』


 こ、こいつ!早速煽ってきやがった!?


 『キミがかつての世界で体験したように、生まれ変わったこの世界にも歩むべき歴史というものがある。それは後々世界に大きな影響を与えるものとそうではないものとに区分されるが。キミの存在に関しては、この世界に多大な影響を与えるんだよ。残念なことにねwだから、キミが美しく、おっぱいボイ〜ンでアッハーンに成長したら、かつての体験通りに王立グラノリス魔法学園への進学は絶対だよ?wぷくくっw頑張ってイケメン達から膜を守ってくれたまえよ?ぷくくくっwあーwダメだ!想像すると腹が捩れてたまら・・ブツッ!ツー、ツー・・・。現在、コノ回線ハ、使用サレテ、オリマセン』


 あー・・・ムカつくあまりプチンとしかけたけど、コレはアレだ。イザヨイのアホ、今頃、エスタエンデさまにお説教されてるな?


 ざまああー、みやがれぇー!!


 あの人は絶対に怒らせたらダメなタイプだと思ったんだよっ!


 『システムメッセージ』


 むっ?


 『クラリッサ・クラムベリル。我が主が失礼を働きました。今し方、お灸を据え、反省していただいております。さて、イザヨイさまが揶揄い半分でおっしゃられてはいましたが、残念ながら、貴女はこの世界の未来に必要なピース。いまの貴女が王立グラノリス魔法学園に進学するのは歴史上確定要素です。色々思うこともあるでしょうが、よろしくお願い致します。かしこ』


 ∑(゚Д゚)mjd?


 魔法学園行かなきゃなんねーの?つーか、俺が今後のこの世界の未来に必要なピースって、そんな御無体なっ!?


 『以上、システムメッセージを終了します。ご利用ありがとうございました』


 利用したくて利用してねーよっ!?


 はぁ、参ったな、どうも。・・・とりあえず、14歳までまだ13年と半年もある、のんびり考えよう、そうしよう、それがいい。


 そうして、まだ生後半年なのを都合よく解釈して俺は、全力でクラムベリル商会の天使になりきった。


 決して現実逃避したわけじゃないからなっ!!




          ◆



第三話は2022.01.03.正午公開

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