今を生きる君へ

春野みらい

第一話 さようなら

遺書


ごめんなさい。


もう無理…もう嫌だ…限界…


何で学校に行かないといけないんだろ。


何で私なんかが生きているんだろう。


平気で人を傷つけ、平気で嘘をつく。

人が嫌がってるのを見て悪魔のようにけらけらと笑う。


本当、狂ってるよ。この世の中。


困ったことや相談事ごあったら先生に言ってって言われたけど、言ったところでなんもなかった。

「だから何」みたいな目で私のことを見ていただけ。


先生も信用出来なくなった。


先生を信頼していた。


先生に言うことでいじめが終わる、そう思っていた自分が馬鹿だった。本当に馬鹿だ。

先生に言って良くなるどころかひどくなっていった。


そして今日、車道に向かって突き飛ばされた。

その時思い知らされた…

私って周りから"◯んでほしい"って思われている人間なんだってことを………


明日も明後日も、明明後日も、こんな日常が続く。


そんなの嫌だ。


早く楽になりたい。


早く◯にたい………


お母さん、お父さん、ごめんなさい、本当にごめんなさい…


ごめんなさい、こんな子で

ごめんなさい、いつもわがままばっかり言って

ごめんなさい、きつくあたって

ごめんなさい、怒られてばっかりで


それと…


ありがとう、こんな子を育ててくれて

ありがとう、いつも美味しいご飯をつくってくれて

ありがとう、私のために働いてくれて


ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう………


それとごめんなさい………本当にごめんなさい………


お母さんとお父さんにはたくさんの謝罪と感謝がここには書けないほどたっくさんある。


お母さんとお父さんと一緒にいた時間は確かに楽しかった。

だけどやっぱり、あんな日常が続くのはもう嫌。


お母さん、お父さん、さようなら…


それと、


───いってきます




吉岡 優音



──────ね、優音!聞いてるの??ほら、早くお風呂入っちゃいなさい」


お母さんね呼ばれてふと我に返る。

適当にはーいって返事をしたら、さっき書いた遺書を私の机の上にそっと置いた。

返事したんだけどさ、私はお風呂には行かない。

行く必要ももうないし、早く飛び降りたい。

◯ぬことなんて怖くない。

むしろ、こんな日常から解放されると思うとすごく気持ちが軽くなる。


ふとベランダを見た。

こっから飛び降りて、◯殺しようと思う。

だってここは高層マンションの10階だから。

10階から飛び降りれば即死。

こんな腐った世界から解放されるんだ。


私は躊躇うことなくベランダへと足を運ばせた。

風が体に当たると寒くて体が小刻みに震える。

ふと空を見上げるとどんよりと雲っていて星も月も全く見えない。


…………………

そういえば、私が小さかったとき寂しかった時に今と同じように空を見てたなー……

お父さんが社長になった時だったわかな?

仕事が忙しくなったらしく、帰りがいつも遅かった。

当時五歳だった私はその事がとても寂しくて、悲しかった。

そんな時、ベランダで空を見上げてたっけ…

けどいつの間にか"お父さんがいない"ということは私の中での当たり前になっていた。


なんか、今思うと懐かしいなぁ…

そんなことを思いながら私はフェンスをまたいだ。

よし、飛び降りよう。そう思った瞬間、

「優音!遅いけど何してるの?…ねぇ優音!返事しなさい!」

ガシャリと聞き慣れているドアの開いた音がした。


───お母さん……………


「……………っ……」


瞼がじんわりとあつくなってくる。

振り返りたかった、お母さんの顔見たかった。

けど、振り返ったらもう飛び降りれなくなる気がする。

だから私は、お母さんに背を向けてこう言ったんだ。


「お母さん、……っ……!ごめんなさっ……」


私は嗚咽と共にひとことの謝罪を吐いて飛び降りた。

「優音!」


─────赤ちゃんだから、生まれた時皆泣くでしょ


     けどお母さんはね、優音の泣き声が歌声みたいに聞こえてきたんだ  

                  

     優しい優しい、ひとつの音色


     泣き声の感想から"優"と"音"をとって 優音 って名前にしたんだよ


     お母さんから優音に渡した、いちばん最初のプレゼント



お母さん、ごめんなさい………………


強い衝撃がしたとたん、私の意識が遠ざかっていった。



それが私の最後になる、はずだった。

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今を生きる君へ 春野みらい @20211119

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