第1話 Flower Language of Mimosa前編③

 それからすこし時間が経って。

 ミモザとリゲルは七歳になり、小学校へ入学した。二人は比較的近場だったので、小学校も同じである。その頃には、ミモザがリゲルを頻繁に孤児院へ連れて来るので、リゲルも孤児院の人達とよく顔見知りになってしまう程だった。

 小学校には、孤児院以上に多くの人種が入り交じり、ミモザはそこでも少し退屈した日々を送っていた。もちろん大切な友人は何人かいてくれたが、その分それに嫉妬したり妬んだりする人から、ちょっかいを受ける事も多かった。それでもミモザはそんな事は、まるで気にしないといった風な態度で過ごす。

 他方リゲルはクラスの中でも運動神経も良く賢かったので、一躍クラスの人気者となった。友人もかなり多かったが、リゲルはそれでもミモザの事を忘れなかった。入学後もリゲルはミモザと度々孤児院を訪れ、そこでいつものように遊んだり、よく話たりした。そうしていくうちに、ミモザとリゲルは、お互いが、一番の理解者になっていた。

 そんな日々が過ぎていく中、ある日、聖母子大聖堂にとある訪問者が訪れた。ミモザとリゲルが、学校生活にも大分慣れた日の事である。

 木枯らしの吹く中、子供たちは各々自分たちの好きな遊びをしていた。リゲルとミモザも、いつものようにボードゲームで遊んでいる。その子供たちを見ていたシスターは、ふとノックの音に気がついた。

「はーい」

 シスターは、いそいそとドアへ向かう。

「すみません」

 声に応えて小窓を見ると、シスターはドアを開けた。

「ごめんください、シスター」

 ドアの向こうに姿を表したのは、二人の青年だった。

 長い特徴的な耳と整った顔である。二人とも森林種のようだ。どちらも少し長めの髪である。 しかし一人の青年は、髪の毛が明るい栗毛で、目の色も黒から茶色に近く、もう1人は、どこか紫がかった黒の髪色をして、目は紫色の綺麗な瞳だった。表情も、栗色の髪の青年は明朗快活そうで明るく、黒い髪の毛の青年はとても真面目そうだった。

「少し遅くなりまして、大変申し訳ありません」

 黒い髪の青年が話す。透き通った低い声だ。

「いいえ、とんでもありませんわ」

 シスターは愛想良く返す。

 二人の青年はお互いに名乗った。

わたくし、火星府軍の地域偵察部隊に所属しております。ギエナと申します。以後お見知り置きを」

「初めまして。同じく火星府軍地域偵察部隊所属の、エニフと申します」

 二人はシスターに、互いの腕につけられた星の印の腕章を見せた。そしてギエナが代表して喋る。

「本日よりこちらの地域を担当させて頂く事となりました。どうぞ宜しくお願い致します」

 シスターは労いの言葉をかける。

「これはまあ、どうもご苦労さまです。お待ちしておりました。さあ、どうぞこちらへ!」

 シスターが二人を先導する。どうやらシスターを含めここの職員は、彼らがここへ来る事を知っていたようだ。

 ミモザは彼らを不思議そうに見やると、小さな声でリゲルに聞いた。

「なあリゲル、あいつら誰?」

 リゲルは驚いてミモザを見る。

「はあ?お前孤児院にいてそれ知らないのか?」

「いや何となく分かるけど……なんか同じ感じの奴らが何回も来るなと思って」

 そう言うミモザにリゲルは説明をする。

「彼らは国王軍や火星府で働く、地域を見守る仕事を担当している地域偵察と呼ばれる人達だ」

「軍の人なの?」

 リゲルは頷く。

「軍の剣士だよ。あの人たちは、色々な場所や地域の様子を観察したり偵察したりするのが仕事なんだ。色々な地域を見た方が良いから、二、三年したら他の場所へ移動して、別の地域の人と交代する」

「ふーん」

 その説明を聞き、納得したのかミモザは呟く。そしてこんなふうに呟いた。

「何年かに一度変な奴らが来て、変わるなとは思っていたけど、また来たんだ」

 リゲルは小さな溜め息をついた。

「お前なあ、変な奴らなんて言うなよ」


 それからというもの、例の地域偵察部隊の二人は何回か孤児院を訪れるようになった。

 なんでも最近火星府の方針で、人工人間の孤児の多い孤児院を集中的に調査し、今後の政策に備えるらしい。この聖母子大聖堂孤児院も、集中的に調査される事となった。

 そのため聖母子大聖堂の人々は、地域偵察部隊の二人と顔を合わせる事が多くなった。ミモザやリゲルも、時々ギエナやエニフと顔を合わせては、少し挨拶をするようになった。時にはミモザが歩いていると、エニフやギエナが廊下を歩いていたり、またある日は、シスター達と何か相談をしているなんていう時もあった。しかし、ギエナとエニフでは、アクルックスへの接し方が少し違っていた。エニフからはミモザに快く挨拶をするのだが、ギエナはミモザを見やると「ごきげんよう」と儀礼的に返し、そのままそっぽを向いて去って行くだけで、ほとんど話をする事が無かった。ミモザはそれでも挨拶はしてくれるので、きっとなにか機嫌が悪いのだろうと思い、その事を気にかける事は無かった。

 

 エニフとギエナはその後も調査のため、毎週三度ほど、孤児院を訪れるようになった。

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