水たまり
雨宿りしていた場所から歩いてほんの数分、雨足穏やかになったのを見計らって出てきたものの夏の雨は強く泳いで来たと言っても疑われない程にあまねく濡れきった二人は、外界など歯牙にも掛けずに変わらない魔王の亡骸までたどり着いていた。
サナウは先へ、クーリンは立ち止まる。
「よくもまぁここまで茂るものね、どれほど強い魔王なのかしら。
クーリン君、私は先に行っているわ。早めにすましてね」
少年はコクリと軽く頷いた。纏わりつく衣服が足を重くするしているかに見える様に心とは裏腹に歩みは鈍い。サナウは励ます様に述べて進んでいく。この亡骸が見えてから数歩の内からもその兆候は有ったから解ってはいた事だった。
あぁ、笑い声が響く—— 、少年の内外から少年の体に鎖が撒かれていく中で少年は自分のすべき事をする。水筒の栓を抜いて赤い水たまりへ古く黒ずんだその革製の水筒を浸す。水筒の口から脱兎のごとく逃げる空気がボコボコと水面を賑わかす。クーリンは水筒が満たされている間、気をわぎわらす為に水たまりと地面の境へ視線を定めた。
草が嫌に茂っている。あの日々見ていた内では考えられない程に、焼かれて爛れて草木なんて一本も生えやしないと思える程に岩しかなかったのに…… 、まるで豊穣の神の物語を見ている様だ。神様が触れるとそこには楽園の様に多様な草木が生い茂げるんだとか—— 、クーリンの感じる重みが和らぐ中、草達が隙間なく育ったせいで見づらいが地面の茶色が少年の目に焼き付いた。
( 鳥の足跡…… )
小さな茶色い地面に3本指の細い小さな足跡が封印の様にくっきりと押されている。少年の心がまた沈む。独りぼっちで今より殺風景だったここを見ていた時の映像が脳裏に刻まれる。
( あの時の小鳥のなのかな?
なんであの小鳥は怖がらなかったのだろう………… )
雨がまた強くなりだした様で水たまりの周りを騒つかせる様に水の落ちる音が強く響く。水面を賑わかしていた空気が消えた。少年は呼応する様に身震いを覚え、重たい体を持ち上げて、近づく時とは反対にそそくさと急ぐ様にサナウの後を追う様に、水たまりから逃げる様に草木が生い茂った洞窟だった物の奥へと駆けて行った。
魔王の笑い声が響いていく——— 。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます