雑多な小山
——違いは何?
落ゆく夕日と同じ目。燻される様な赤黒い目をした隻眼の少女。
仲間達と一緒に作った本日の成果である彼女自身をゆうに超える高さの小山にその気怠そうに燻された目を向けて問う。
小山の多数の視線は虚ろに方々を静かに見るのみ。自身も兎や鳥、人間に魔物、エトセトラの死骸達から何か回答を得ようとは思ってはいない。
既に夜風に変わりゆく冷たい風に胸元まであるエメラルドの様な髪を委ねながら、面倒臭そうに見つめ、一つ大きな欠伸。
夕日に照らされて辛うじて生きていると呼べる青白い肌を死骸の山へ差し出す様に見つめ————
「早く終わらせてくんね?」
破れたつま先から金属が覗く革靴。そのくせクセがついている訳でも無く、傷が無いわずかな部位は下ろしたての様な滑らかさを示す。
その革靴こそ我が心と言わんばかりにバタバタと靴裏を床へ叩きつける。
「……大いなる力ってのはいつ、どこで、何のために使うのかってのが大事なのよ」
「——御託が聞きたいんじゃ無いんだよ。
今、ここで、明日から居なくなるお前の穴埋めの為に、
早くやってもらえませんかね?」
「…………自分のためじゃない—— 」
ブツブツと文句を言いながら死骸の山へ手を向ける少女。
すると、赤い光が彼女の両手から優しく虚ろな目をした死骸に纏わり付いてゆく。
方々を見ていた目が虚ろなまま彼女へ集まってゆく。
カタカタなりだす小山。
痙攣する様に、久方ぶりに体を動かす様に不器用に、四肢に首にと動きだす。
自壊し崩れて平らに広がってゆく。
個体が液体へ変異する様に。
端まで至った死骸は集まり整列してゆく。
小山があった所はいつの間にか一小隊とも言える数の雑多な隊列が現れ、出来立ての兵は墓所を守る為に作られた像の様に、硬い、閉じた目で彼女を見つめる。
穏やかな一つの溜息。少女は一つ、二つと小隊へ事告げる。
指向は男へ。少女の隊は男の隊へと成り果てた。
一層気怠そうに男へ少女は腕を拡げて見せた。
帰ってくるのは満足そうな男の短い吐くような溜息一つ。
「これだけあればなんとかなるかな……」
「満足そうで何よりよ」
「あぁ、俺たちはこれで大丈夫だ。いつもみたいな無茶は出来ないけどな。
……
「ええ、そのつもり」
「じゃあそれまで君みたいに緊急依頼が入らない様に祈らないとな」
——貴方でも祈るの?
街中でも鋼を仕込んだ靴を履き、人の首なら簡単に撫で落とせる直刃で片刃の独特な短剣を腰に差した用心深い男。
半眼に絞られた瞼の奥に座す琥珀色の瞳からは信じるって心が欠落している様にしか見えず————
少女の髪がクシャアと無造作に踊った。
「今日は終いだ。飯食おうぜ」
手櫛で直す少女を残し男は歩きだした。
漸く纏まったと歩き出す少女を夜風に成り果てた寒風が襲った。
抑えた手を離す。ふと掌から漂う腐卵臭に顔を顰め男を追った。
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