魔王の贈り物
「 ……久々やったから声が出てなかったかの?
我こそは明星のサ!ル!マ!ドーレ!!魔!王じゃ!!」
少女は叫びながら跳びシタッとポーズ。
遅れて緑色の長髪がローブの様にフワリと小さな体を隠す。
鼓笛隊のファンファーレが聞こえそうな程に仰々しい。
少女の声は洞窟をひとしきりビビらせた後、余韻に包ませ、そして消えた。
残るは遠くの轟音。虚ろな巨人の足音の様に響きコダマするのみ。
「ハーハッハッ!なあんか寂しいのぅ。せっかく我が出てきたのだから、何か反応位見せんか?
ハーッハッ。さては我が魔王故恐縮しておるのか、それは無理も無い。
だけど、つまらぬのぉ」
村を荒らす魔物。何も無かった所に現れた牢屋と自称魔王の少女。
押し黙る僕を縦長の瞳孔が開き自称魔王は少し物足りなさそうな顔で見つめる。
「まぁ良い。我もヌシと会うために起きたわけでは無し。
…………ウゲッ、誰かと思えばアヤツか。
……なぁ、アレがなんでここにいるか知らんか?」
そう言えば魔物は同胞を探していると言ってた。
コイツがアレが言う同胞なのだろうか……。
心の底が掴まれた様な気がした。
コレのせいで、僕はここに居る。
独りで僕はここに居る。
コイツがここにいるせいで魔物が村にやってきた?
そう思うと村で見た炎の蛇が腹の中に巣食いだす。
「 …………お前のせいだ。お前のせいで母さんは死んだんだ」
「? 、解らんが解った。
……はぁ、やっぱりアイツは我に用事があるのかぁ」
また腰を落とし腹の前で腕を組んだ魔王は『面倒じゃのぉ』『気付いているよのぉ』とブツブツと独り言。
ふと、こっちを見た。
アノ魔物と同じ意地汚く大口を開けニヤリと顔を歪める。
「ハーハッハッ!
ワシは決めた!旅に出る!
居心地の良いこの城も廃墟に成り果てるのはちと寂しいが……
愉快な出会いに甘美な飯!それに冒険!
ワクワクが勝る!
ヌシ!ついては一つ頼みを聞いてくれんかの? 」
突如笑い出す少女。
お構い無しに急かす様に少女はトーンと立ち上がる。
呆気に取られる僕は追いつけず……。
彼女自身の髪も僕と同じ様だ。
上に放られ元の位置に戻るまでに体と大きなラグを生む。
「もうちょい叩けば響いてくれてもええんじゃがな……
まぁ良い少年、この扉開けてくれんか?」
「……なんでそんな事しないといけなんだよ」
「ハーッハッハ!さもならん!褒美が欲しいか?
我は魔王ゆえ、なんでもええぞ?お前の望みはなんじゃ?
——っあ、けどワシは急いでいる故、時間がかかるのはダメじゃぞ」
急いでますと言わんばかりに、コイツは裸の小さな足をバタバタと地面を叩いている。
けど、表情は全然焦っている風も無く、なんとも楽しそうだ。
——お前が死ぬ事。
そう言おうとして止めた。
外からはまだ阿鼻叫喚と高笑いが聞こえる。
父さんは戦っているのだろうか?
アイツは強いだろう。父さん達では勝てないだろう。
これはチャンスなのだろうか?
忌々しいと僕は苦虫を噛んだ。
「……アイツを殺して」
「それはダメじゃ」
「なんでもって言ったのはお前だろ?」
「アイツを倒すのは時間がかかる。
それにアイツに会いとう無い!
だからダメじゃ」
何も思いつかない。
少女は次点の望みを言わせようとパタパタと急かす。
胸の前で組んだ腕から覗く小さな指で二の腕をトントンと叩く。
足と指の拍子が止まった。
「そうじゃ、お前が倒せば良いじゃないか!」
「……は?出来るわけが無い」
「ハーッハッハッハ!それは今のお前ではだろう?
我が力を授けよう!すればアイツを退かせる事など容易い。
——容易いは言い過ぎかもしれんが。
けど出来る。
力じゃ、そうパワー!何を授けようかの、面白いのがええの 」
指の拍子がまた始まった。また楽しそうにブツブツと呟き出した。
思いもしなかった。アイツは強大で恐怖の塊で僕は10歳にも満たない子供なのだ。
けどコイツのお陰だろうとも、自分のこの腕でアイツを倒せるのなら…… 、それはそれは大層甘美な提案。
魔王の考えも纏まった様だ。僕も受け入れる準備は出来た。
僕は蹲るのを止め格子の前に立っていた。
魔王は垂れる髪の間からゆったりと腕を突き出した。
掌にはコレが魔力なのだろうか、血の様に赤いボール上の何かが漂う。
僕は取ろうと腕を出した。
けど、指が冷たい格子に当たった。
サーッと優しく撫でられた竪琴の弦の様に淡く震え消えた。
魔王は解き放たれた。
「ハッハーッハッ!急ぐな少年!
口を大きく開けて、我が力を受け入れよ!」
言われるままに口を開ける。
少女はニヤリと口を歪めた。
そして、赤い何かは圧縮される様に萎み合わせて少女は拳を握る。
弓を引く様に後方に拳が振り絞られる。
パッ!と力は反転、僕の口に少女の小さな拳が飛び込んだ。
嗚咽が混じる。だが拳は止まらぬ。
魔王の白い二の腕が唇に付いた。
僕は間違えたのかもしれない。
けど妙に落ち着くのは何故なのだろうか。
外の喧騒も静まっていく様な気がした。
「ハーハッハッ!じゃあワレは行く、少年も達者での」
テラテラと輝く腕を振り、大股へ歩き出そうとする小さな魔王。
何度も流した涙のせいか目が染みて窄める目、お腹の底で何かが蠢く、嗚咽がまだ治らず蹲った僕はまだ大事な事が聞けていない。
「……待って……どうやって使うの? 」
「ハハッ!そうじゃ教えておらんかったわ。
こう……力を込めるんじゃ……そして力を相手に投げつける感じ?
……まぁやってみたらわかるんじゃが」
さっきまで牢屋みたいになってた洞窟の壁へ掌を向けた魔王。
少女の腹にキュッと力が入った。
同時に手から赤い稲妻の様な光が解き放たれた。
光が壁に当たる。
壁は轟音を発し、土煙に包まれた。
土煙は消えた壁。
壁には穴が空いていた。
穴は大きく、穿った岩の残骸だろう砂が僕の身長の4倍程の高い山を代わりに作っていた。
「まぁ、こんな感じじゃ!ハーハッハッハッ!じゃあ今度こそ達者でな少年!」
こんなんじゃ解らないと、追い縋る僕を無視して少女は大股で去った。
『ハーハッハッハ』と洞窟に高笑いを残して……。
▲▲▲
「ファーハッハッ! 我は魔王! 魁のエルドラドである!
我が同胞、明星のサルマドーレを救いに参った!!
……⁉︎ 、さっきの小僧では無いか? 」
小さな魔王が先ほど去っていった洞窟の入り口から大きな高笑い。
僕の3倍以上もある大きな体が腕を組む。
肩からは蝙蝠の様な大きな羽のシルエットが広がる。
黒い影みたいな姿から愉快そうに大きく開く口だけが白くテラテラと光っていた。
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