【22】4日目(火)

 あまり朝は強い方ではないのだが、ここに来てからは自然とアラームよりも早く起きられるようになっていた。

 目が覚めてすぐに布団から出てカーテンを開けると、空からは冷たそうな雨粒が降り注いでいた。


 部屋から出てリビングに行くと一樹さんが起きていたので、朝の挨拶をしてから洗面所で身支度を整える。

 今に始まったことではないのだが、私の髪の毛は毎朝一箇所だけ必ず寝癖が付いてしまう。

 まるでカブトムシのツノのようなそれをお湯とブラシで直してからリビングに戻ると、一樹さんがご飯の支度をしてくれていたようで、そのままダイニングの椅子に座るとお弁当を二人で頂いた。


「沙百合ちゃん。悪いんだけど洗濯物を畳む係、お願いしていいかな?」

 すまなそうな顔でそう言った彼に、逆に申し訳ない気持ちになった。

 もしかしたら迷惑になるかもしれないけれど、今日からは掃除とか食事も私に出来るだけのことはやらせて貰おう。


 彼は部屋でお仕事をするそうなので、早速お洗濯物を畳んでしまおうと洗面所に向かった。

 大きなドラム式の洗濯機の扉を開けると、彼のものと私のものの、それなりの量の洗濯物を中から取り出す。

 乾燥機能で乾かしたのであろうそれらはまだ少しだけ温かくて、すごくふかふかに仕上がっていた。


 私はお母さんとの二人暮らしなので家事全般は得意なのだが、今とても困ったことが起きてしまっていた。

 ……彼の下着はどうやって畳めばいいのだろう。

 女性のそれと同じように丸く畳んでいいものなのだろうか……?

 それともタオルと同じように四角くするべきなのだろうか……?

 こればかりは彼の部屋に行って「どうしましょうか?」と聞くわけにもいかず、結局は三つくらいに折りたたんで、彼の他の洗濯物の下に入れておいた。

 あとでどうするのが正解だったのかネットで調べてみようと思った。


 お洗濯が終わり部屋に戻ると少しだけ勉強をすることにした。

 今頃学校のみんなは授業を受けている時間だろう。

 火曜日のこの時間は多分数学だったはずだ。

 担当の先生は悪い人ではないのだろうが、自分の気に入った生徒に贔屓をすることで有名だった。

 私は贔屓をされる側だったのだが、あまり数学が得意でないクラスメイトにはわかりやすく冷たくする。

 そんなことを思い出したせいか、私は数学以外の教科の勉強をすることにした。


 一人でやる勉強はつまらない。

 二時間もするともう集中力が途切れてきたので、何か別のことをすることにした。

 リビングに行くと彼はまだお仕事中のようだったので、音を立てないで出来そうなモップ掃除をして時間を潰そうと廊下を一往復してみたのだが、モップのシートには全然ゴミがついていなかった。

 言い方はよくないかもしれないが、この家は男性の一人暮らしにしては綺麗過ぎるのだ。

 このモップのことだけでも彼の神経質さがよく分かる。


 そうこうしていると、彼の部屋のドアが開く。

「あ、ごめんなさい。うるさかったですか?」

「そうじゃないけど、そろそろお昼にしようかなと思って」

 壁の時計をみると確かにもうそんな時間だった。

「ご飯、食べ行こっか。ついでに買い物も」

 私は彼のその言葉に、まるで子供のように心が踊ってしまった。

 というのは、今日の夕御飯は私が作って彼に食べてもらいたいと思っていたのだけど、雨が振っていて買い物に出かけることが出来なかったから。

 それに、この前のショッピングセンターでの彼との買い物がとても楽しかったというのもある。

「すぐに支度してきますね!」

 急いでモップを片付けると部屋に戻って支度を始めた。

 どの服を着て行こうかと頭を悩ませていると、ふと思った。

 これではまるで彼氏とのデートに出掛ける時のようではないか。

 もっとも、今までの私の人生でそういった存在は一度もいたことがなかったのだが。

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