【19】3日目(月)
目が覚めると朝だった。
確か昨夜、一樹さんがお風呂に入っている間にお母さんのところに電話を掛けようとして――いや、ベッドの上で少しだけ休もうとしたのだったか。
何れにせよ、そのあとは覚えていない。
お風呂に入った記憶はなかったので、恐らく寝落ちしてしまったのだと思う。
よく見ると身体の下にあるのは掛布団で、身体の上にも掛布団が掛けられている。
多分、一樹さんが私を部屋まで運んでくれたんだ……。
ドアをそっと開けてリビングに行く。
彼はまだ起きていないみたいだった。
とりあえずお風呂に入らせて貰うことにする。
一旦部屋に戻り、昨日買ったお風呂セットと着替えを持ってきて急いでお風呂に向かった。
脱いだ服を洗濯カゴの中に入れてすぐにシャワーで身体を流すと、何だかまた眠くなってしまう。
普段使っているものより少しだけ良いシャンプーとコンディショナー、それにボディーソープも買ってしまった。
雑誌で紹介されていて気になっていたやつだ。
確かにいつも使っているものに比べて泡立ちも泡切れも良くて、何よりも匂いがとても甘くてすぐに気に入った。
浴室で身体を拭いてから洗面所ですぐに服を着て髪を乾かしてしまうと、やっと一日が始まったという実感が湧いてくる。
リビングに戻ると一樹さんが背をこちらに向け、ソファーに浅く座ってテレビを見ている姿があった。
「おはようございます。昨日、お風呂に入らないで寝ちゃったみたいで。勝手にシャワー借りました」
そう言った私に彼は一言「うん」と言ったきりでこちらを振り向こうともしない。
テレビでは私が毎朝見ている占いのコーナーがちょうど始まるところだった。
彼の隣に腰を下ろして自分の星座が何位なのかを確認する。
私の星座、双子座は……一位だった!
『気になるあの人との距離がグッと縮まるかも?』だそうだけど、私が気になるのはお母さんと、そして今まさに隣にいる一樹さんくらいなもので、距離が縮まるとはどういうことだろう。
お母さんは距離どころかどこに居るのかもわからないのだが、もしかして予定より早く戻ってきてくれるとか?
一樹さんは……手を伸ばさなくても触れられるような距離にいるけど。
そんなことを考えていたら何だか少し恥ずかしくなってきた。
そうえいば彼は何座なんだろう?
「一樹さん」
「はいっ」
ものすごく元気な返事が返ってきて、ちょっとビックリしてしまった。
それなのに彼はこちらを見ようとしないでテレビに釘付けになっている。
彼もこの占いコーナーが好きなのかもしれない。
「一樹さんって何座ですか?」
「……牡羊座」
お母さんと同じなんだ。
えっと、牡羊座は……。
『ごめんなさい! 今日のアンラッキー星座は牡羊座の人です』
「……」
朝からアンラッキーを宣言されてしまった彼になんと声を掛けるべきか。
そう思い悩んでいた、その時だった。
「ごめん!」
一樹さんが突然私の方に向き直ると頭を下げてくる。
全く身に覚えのない謝罪に私が何も答えることが出来ないでいると、彼は顔を赤くしながら続けた。
「……あの。さっき歯磨きをしに洗面所に入ったら、その。沙百合ちゃんがシャワーを浴びてて……。えっと……見ちゃいました」
「え? 見ちゃったって……下着とかですか?」
「……シャワーを浴びている姿を……です」
絶句。
会ってまだ二日にか経っていない男の人に裸を見られてしまった。
それはでも事故だし、私にも責任があるのだから彼を責めることは出来ない。
「どうでしたか?」
自分でもなんでそんな事を言ったのかはよくわからなかったが、私は彼に自分の裸の感想を求めていた。
「……」
彼は下を向いたまま何も言わない。
「私の裸、どうでしたか?」
彼を責めることは出来ないといいながら完全に矛盾しているのはわかっていたが、私はなぜだか執拗に彼を問い詰めていた。
「……すごく」
すごく?
なんだろう?
すごく子供っぽかったです?
すごく変でした……だったらやだな。
「……すごく、綺麗だった……です」
「……!」
思ってもみなかった答えに今度は私が下を向いてしまう。
綺麗だった?
私の裸が?
自分の顔が真っ赤になっているのが鏡を見なくてもよくわかる。
「……だったらいいです」
自分でも何がいいのかわからないけど、今はとにかくそれ以外の言葉が思いつかなかった。
そのあと二人でご飯を食べたのだが味がまったくしなかった。
何を食べたのかもよく覚えていないが、会話が全然なかった事だけは覚えている。
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