ボトルメール

 いつもの散歩、海岸線をなぞるように歩き出す。海が見える一軒家に住むと、衣服が塩臭かったり、

電気製品がすぐ壊れたりと入居時に描いていた理想像とは違っていた。

しかし毎日こうして誰もいない朝の砂浜を独り占めして歩くのは気持ちがよかった。

 砂浜はゴミ一つない。ビニール袋とトングを持って掃除をしている殊勝な人物がいたものだ。

そんな砂浜に瓶が届いていた。波打ち際に透明な瓶が朝日を反射させてキラキラ輝いていた。

このくらいのゴミなら捨ててやろうとひょいと持ち上げると、少し黄ばんで丸まった手紙があった。

何が書いてあるのか興味が沸いてきて、栓を抜いて手紙を取り出す。

短い文章、クスリと笑える。これがロマンチックな文章なら、私がもう少し若ければ、名も顔も知らぬ者に恋なんかをしたのだろうか。

すぐに家に帰って、一筆で書き上げる。読んだ手紙と書きあげた手紙の内容は、秘密だ。拾った者だけの特権なのだから。


瓶を携えて砂浜に出向き、陸と海の境界に陣取って、おもいきり瓶を放り投げる。

空へと飛ばしたボトルメールは重力に沈んで弧を描き、どぼんという音と共に柱を立てて、消えた。

両腕を目一杯広げても足りないくらいの、想像もつかないほど大きな海に身を隠して、見えなくなった。

あのボトルメールはどこにいくのだろう。案外と波に戻されて、ここに返ってくるのかもしれない。

太平洋のどこかに浮かんで、。言葉が全く違う、異国人に稚拙な文が読まれてしまうかもしれない。

妄想豊かにあの瓶の行先を思う。ボトルメールがなぞる物語は、送り出した者にはわからない。

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