りんご飴
しかしこうして夏祭りに出向いてみると、やはりいいものだ。
焼きそばやたこ焼きの匂いが食欲を煽り、射的やおめん、くじ引き屋などに、大小さまざまな宝箱を見上げる子供たちが群がっている。
通りに目を向けると、棒に刺したわたあめを共有して、ひとくちひとくち啄む初々しいカップル。
広場に設置してあるベンチには、もうだいぶ飲んでろれつが回っていない中年の男性たちが談笑している。
何十年たとうとも、変わらない夏の風物詩がここにある。
場の雰囲気を楽しみながら、ぐるりと一周してみようと混んだ道を練り歩く。
既に年老いてしまっていても、なんだかむず痒いような気持ちがしてきて、今すぐ駆けだしてしまいたくなる。
心は少年のころを追憶して、好奇心の対象から既知の残骸へと成りはてた、ガラクタどもが光り出す。
魂が躍ると身体も踊る。遠くで聞こえる太鼓の音に合わせて歩みを進める。
半分ほど回ったほどだろうか、近くで少女の泣き声が聞こえてくる。
少女の足元には食べかけのりんご飴が地面に転がっている。
両親らしき二人がまた買ってやるから、とあやしている。
その瞬間、奥底でうずくまっていた記憶が途端に噴き出した。
母にねだって買ってもらったりんご飴。貧乏な家で滅多に甘いモノなど食べられなかった。
大事そうにひとつ舐め、またひとつ舐め、口の中が甘味で唾液が止まらなかった。
前をよく見ていなかったのでドンとだれかにぶつかり転げる。りんご飴は溶けた飴に砂がついていた。
膝を擦りむいた痛みと合わさって泣いてしまいそうになったが、ぐっと堪えてりんご飴を拾って、また舐めた。
砂利が口に転がって不快だった。母が叱ってりんご飴を取り上げた。母もなぜだか泣きそうだった。
―――りんご飴をひとつ買って、ブラブラと散歩道に戻る。舐めながらゆっくりと、夏の祭りを回ってく。
とうとう一周してしまっても、手には丸々りんご飴が残っている。
おもいきり噛みつくと、パリッと音がして中にあるりんごの酸味が広がっていく。
幼少のひと時、目に見えるもの全て、輝いて、眩しくて……
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