映画

 全米熱狂大興奮。そんな誇大広告がずらずらと並べられて、それを幾度となく眺める。

もう見ずともソラで描けるほど見つめていても、一向に列は前へ進まない。

スカイウォーズは連部作で、僕も過去作を全部見たが確かに面白い。しかし休日の大半をこの退屈な待ちに費やされるのは苦痛だ。

誘った友人が何度も携帯を開け閉めして時間を確認する。上映時間が迫っていると告げると、彼は大きく伸びをした。

ようやく列は動き出し、手続きを済ませようやく席に座った。棒になった足を休めて、映画のことについて友人と話していると、

次々に入ってくる人だかりの中に見知った顔がやってきて、こちらへと舞い込んできた。

上村恵、同じクラスメイトだが、滅多に話したことはない。大人しいがよく笑う、そしてその笑顔が愛嬌があって可愛らしい、そんな子だ。

向こうもこちらに気づいたのか、お互い気まずそうに会釈をして、彼女が右隣に座る。こんな偶然があるものか。と胸の内で独りごちた。


 照明が暗闇へと消えていき、身体を震わせる轟音へと変わり魂を揺らす。一瞬で映画の世界へと入り込み星間の戦争に心躍らす……はずであった。

胸中は上村のことでいっぱいで、ちっとも内容が入ってこない。彼女がいる右側が見れない。

眼を横に向けて、それに彼女が気付いたら、そう思うと視野が狭まって集中ができない。

しかし流石は全米熱狂、激しい銃撃戦に目を奪われて、交わされる剣技に夢中になる。

そのうち戦闘が終わり、旧作の登場人物が語り合う。

緩和した身体は無意識に寄りかかる場所を求め、ひざ掛けに手を置いた。そこに上村の手がのっかっているとも知らず。

「あっ」

素っ頓狂な声が彼女から発せられて、映画への意識がこちらに向けられる。

映画は旧友が静か見つめ合うシーンで、そのあっ、という音がより大きく周囲の耳に届いた。

彼女の顔を見ると、みるみるうちに耳が、ほおが、赤い果実へと染まっていく。そのうち前身にまで広がりそうなほどだ。

恥ずかしそうに俯いていた彼女は、ちらりとこちらを見て、また俯く。

そしてまたちらりと見ると、今度は目が合ったまま離れない。

じっと見つめられていると、むず痒くなるとともに次第に顔も赤くなる。

恥ずかしさでたまらなくなって、正面を向いて映像を見つめる。

しかし流れていく画像の羅列ぐらいでは、彼女の赤面が頭から離れない。

そうして幾ばくか、長い長い糸を何度も結って太く短い塊にしたような時間ののちに、手にもぞりと彼女の手が動いた。

今度は僕があっ、と言う番であった。緊張の末に鋭敏となった感覚が、小さく柔らかい彼女の手に触れて、重なって、

皮膚と皮膚が連なっている手の平の喜びは、腕を通って肩を抜け、首から脳へ行く前に、口からあっと声が出た。

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