誕生日

 誕生日おめでとう、そういって娘に白い包装に赤いリボンで包んだプレゼントを渡す。

ありがとう、満面の笑みで娘は答える。幼いときから変わらない、純粋無垢な笑顔だ。

食卓に並べてあるホールケーキには13の色とりどりのキャンドルが立てられている。

彼女が喜んでいる理由はほかにもある。元嫁がやってきて祝ってくれるのだ。離婚した理由を娘は知らない。

いきなり離婚した事実を告げられたときには、暫く口をきいてくれなかった。


 

 娘は去年の歳暮に病院に運ばれた。何度読んでも晩御飯を食べに来ないので、嫁が部屋に行くと、床に倒れていたらしい。

脳血管疾患、医者にそう告げられた。手術をしている間ずっと手を組み無事を願っていたが、

現実は残酷で祈りなど何も意味がない。12歳の娘が唐突に死んでしまった。



 失意に沈む中、とある男がやってきた。彼の口ぶりで、最初は保険会社の押し売りと思っていたがどうやら違うらしい。

特殊技術填補制度。ぼかした言い方だが、出生時にクローン技術でもう一人を生成し、オリジナルが死亡した場合に脳死状態のクローンを蘇らせるというものだ。

今では金持ちしか使えない制度だが、娘が生まれた当時は倫理観の問題で世論から反対されており、格安でその制度を申請することができた。

継続的な費用を必要とされていたが、保険に加入するようなものと思い、契約していたのを思い出した。


 嫁は猛反対した。しかし娘を失っても強くあろうとする彼女とは違って、未だに私は、玄関や娘の部屋からふと、娘が顔を出すことを探してしまうのだ。

空いてしまった隙間を時間が埋めてくれるまで待つには、余りにも長い歳月だ。穴が開いた身体に風が吹いて熱を奪っていくのが耐えられない。

気が付いていたら、私は契約にサインしていた。嫁とは言い争うの末に離婚した。嫁は未だに今の娘とは会っていない。


 娘の死体は無くなっていた。恐らく新しい娘に必要なのだろう。笑顔で写る娘の写真が、哀愁を誘う。

数か月ほどして、娘のクローンはやってきた。娘とは違い、色白で身体は弱かったが、紛れもなく私の娘であった。

そして驚くべきことに、娘は私のことを覚えていた。死んだ直前の記憶まで。娘の遺体が回収されたことときっと関係があるのだろう。

彼女は嫁がいないことを気にしていた。娘には重い病気で数か月昏睡状態で、その間に離婚したと伝えた。

寂しそうな眼を少しだけ見せ、そう。と小さく言い部屋へと戻った。嫁に似て気丈にふるまう性格だ。何も変わらない。



今日は娘の誕生日、離婚して初めて元嫁がこの家に来た。楽しそうに娘と話している。

今の娘の誕生日は、一体いつなのだろう。この家で二人で過ごしていたら見ることのない曇りなき笑顔をみて、いびつな思考をしてしまう。

きっとこれからは大丈夫、うまく行く。そう思い込んで、娘の喜ぶ姿に笑みをこぼす。



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