14_作業場とそこに待っていた結末
「それで金色の流れ星は?」
『太陽の神殿』から十分に離れたことを確認して博士が前を行く
もちろん悪目立ちする純白のマントは脱いで小銃を包んでいる。
「
「風雪さんはどうして?」
「
慌てる風雪に昴が首を横に振る。
「いえ、南斗の言うとおりです。風雪さんが来てくれなかったら逃げ切れませんでした」
「ありがとうね」
昴の言葉に博士も風雪にお礼を言う。
「とんでもない。さぁ、作業場まであと少しです。もう少し走れますか?」
風雪の言葉に昴と博士がうなずくと三人は作業場へと急いだ。
「おっ、戻ったな!」
作業場に戻るとそこにはすでに南斗と夏彦が待っていた。
風雪もそうだが、二人にも目立った怪我はみられなかった。
「無事でよかった!」
博士がホッとした顔で、南斗と夏彦に声をかける。
と、昴が辺りを見回して妙なことに気が付く。
「あれ? トンボはどこです? って、何を!」
「あっ、本当だ。トンボは? って、えっ?」
「昴君、ごめんね」
「風雪、何謝ってんだよ!」
気が付くと背後にいたはずの風雪が昴を羽交い締めにしていた。
博士も夏彦に捕まっている。
ブーン
と、昴は南斗が大きな麻袋を踏みつけていることに気が付いた。
麻袋はちょうどトンボが入るくらい。
中からはモーター音が響いている。
「南斗、まさか!」
「そう。トンボはこの中」
昴の声に南斗が顔色一つ変えずに答える。
「どういうことです? 博士とトンボを離してください!」
「ごめんね。手荒な真似はしたくないんだ。大人しくしていて」
そう言ってジタバタする昴を抑え込みながら、風雪が申し訳無さそうに声をかける。
「南斗これは一体……って、痛っ!」
「馴れ馴れしく呼んでんじゃねぇよ!」
南斗に声をかけようとした博士の腕を夏彦が強くひねり上げる。
痛みに顔を歪めた博士に南斗が目を向ける。
そこにはかつての陽気で溌剌とした南斗の姿はなかった。
ガシャッ
南斗は一度足を高く上げると、足元の麻袋を強く踏みつけた。
嫌な音を響かせてモーター音が途切れる。
「「トンボ!」」
博士と昴の声が重なる。
「南斗! なんてことを! 一体どうしたんです!」
「うるさい。風雪、黙らせて」
動かなくなった麻袋を放置して博士に向かって歩きだした南斗が、昴には目もくれずに言い放つ。
「ごめんね。少しだけ静かにしていてね」
そう言って風雪が昴の口を塞ぐ。
その姿に夏彦が呆れた声を上げる。
「風雪、気ぃ失わせるくらいしろよ」
「でもぉ」
風雪と夏彦のやり取りに南斗はチラリと目を向けたものの、すぐに興味のなさそうな目をして博士に向き直る。
「言ったよね。あんたの為なんかじゃない。
「どういう意」
博士の言葉は途中で途切れた。
「あんたが『楽園』を作ったんだろ? あんたの作った楽園が雨夜を殺したんだ」
冷たく言い放つ南斗の手に握られたナイフが、博士の体深くに沈み込んでいた。
「言っただろ? 相手が誰だろうと仲間のためなら、やることはやる。それが俺たちのルールだ。って」
ドサッ
ナイフの刺さった博士をそう言って夏彦が床に放り投げる。
博士を中心に真っ赤な血だまりが広がっていく。
「博士!」
「なぁ、こいつはどうすんの? って、へぇ、いい物持ってんじゃん」
風雪に羽交い絞めにされたまま叫ぶ昴から夏彦が博士の短銃を奪い取る。
そして、そのまま短銃を昴に向ける。
「おい、南斗!」
その夏彦の手から南斗が黙って短銃を取り上げる。
抗議の声を上げる夏彦を無視して、南斗が昴の前に立つ。
「南斗! どうして! 博士は『真実の天秤』を造ってしまったことをずっと後悔していたんです。ずっと自分を責めて、だからこうやって自分でけりをつけようと」
「バイバイ、昴」
ガツンッ
昴の言葉が終わる前に南斗が短銃の柄で昴を殴りつけた。
昴の意識が暗闇に落ちていく。
「行くよ」
その言葉に風雪が昴を床に横たえる。
一度も振り返ることなく南斗たちは作業場を後にした。
昴が目覚めた時、作業場に南斗たちの姿はなかった。
そこには放置されたままの麻袋と血だまりの中で横たわる博士がいるだけ。
「博士!」
慌てて博士に駆け寄ると手をついた先の血だまりがまだ温い。
どうやら気を失ってから、それほど時間は過ぎてないようだった。
博士に顔を近づければ弱いものの呼吸音もしっかり聞こえる。
昴は南斗たちを探すことを一旦諦めて博士を背負い、麻袋と博士の造ったアタッシュケース型の楽園製造機を抱えて作業場を後にした。
夜明け前の来訪にも関わらず、診療所の医師はよそ者の昴を迎え入れ、博士の治療をしてくれた。
刺された場所と刺さったままのナイフが幸いして、翌日の昼には博士は意識を取り戻していた。
一方、早朝からS-6086は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなっていた。
楽園の真実を告発するビラが町のいたるところにばらまかれたのだ。
それを見た町の人たちが管理局に押し寄せ、地下管理部の役人までもが制圧に乗り出す騒ぎとなっていた。
「今のうちに町を出よう」
博士の体調を考えて昴は一度は反対したものの、このままS-6086に留まっていては何より博士の身が危ないと最終的には町をでることを了承した。
まだ傷が塞ぎきらない博士と楽園製造機をサイドカーに乗せ、壊れたトンボを麻袋のまま抱え、混乱に乗じて昴たちはS-6086を後にした。
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