7_揃いの食器と色違いの毛布

「いい人だったな」

「そうだね、朝ごはんもすっごい美味しかったし」


 フロントバスケットにトンボ、後ろに南斗なんしゅを乗せたスクーターがのんびりと街道を走っていく。


「ねぇ、もうちょっとスピードでないの?」

何度目かわからない南斗の言葉にすばるが眉間に皺を寄せながら答える。


「重量オーバーなんです! あなたが降りてくれれば、もう少し早く走れるのですが!」

「それにしても、なんであんなに良くしてくれたんだろうねぇ~」


「話を聞きなさい!」

自分の言葉を華麗に無視されて、昴の眉間の皺が更に深くなる。


「だって、不思議じゃん。子どもとは言え見ず知らずの人間だよ? あそこまでする? ……あっ! あたしの美脚のお陰か!」

「確かに不思議だよな」


「おい! あたしの美脚に感謝しろ!」

「ちげぇよ!」


「なんだって~」

「だから、あと十年してから、出直してこいっつってんだろ!」


「うるさいですよ」

トンボと南斗の不毛なやり取りに昴が呆れた声を上げる。


「だって気になるじゃん」

口を尖らせる南斗にため息をつきながら昴がポツリと言った。


「……朝食が載っていた白いプレートは二枚が同じものでしたね?」

「えっ? あぁ、そう言われればそうだったな」


 それがどうしたんだ、とフロントバスケットからトンボが昴に聞き返す。


「貸していただいた毛布の色は?」

「色? あたしのがピンクで、昴のは水色だったよね?」


 南斗も不思議そうな顔で答える。


「揃いの白い食器に、色違いのペアの毛布。男性の一人暮らしにしては珍しいですよね」

「まぁ、言われてみれば確かにそうかも」


「でも、燃料屋には倉鍵のおっちゃんしかいなかったよな?」

「ええ、そうですね」


 トンボの言葉にうなずくと昴はそれっきり黙り込む。


「……あっ、まさか」

「えぇ、恐らくは」


 しばらくして何かに気付いた様子のトンボに昴が静かにうなずく。


「えっ? 何、何?」

話が見えてこない南斗が後ろから昴とトンボにたずねる。


「わかんねぇかな。もしかしたら倉鍵のおっちゃんには、かみさんがいたかもしれねぇってことだよ」

「えっ? だから、燃料屋には倉鍵しかいなかったじゃん」


「だから、そういう事だよ。もしかしたら、子どもも……ってことだよ」

「……えっ。倉鍵には家族がいて、でも今はいなくて。だから、あたし達に子ども達の姿を重ねてて、だから親切にしてくれたってこと?」


 南斗の言葉に昴は首を横に振る。


「わかりません。全ては私の勝手な想像です。たまたま家族が泊まりで出かけていたのかもしれませんし、単に食器も毛布も貰い物で、たまたま揃いのものだったとか、そんな話かもしれません」


 昴はそれ以上何も言わなかった。でも、気が付いていた。

倉鍵しかいないはずの作業場に椅子が複数あったこと、そして、その中に明らかに大人が座るには小さすぎる椅子があったことに。


 少し急ぎますよ、と声を掛けると、昴は話はここまでだと言いたげにスクーターのスピードをあげた。

トンボも南斗もそれ以上何も言わなかった。

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