6_朝食と三人の決意
翌朝
「おい、そろそろ起きろ! ……ってなんだ、
両手に白いプレートを両手に持った
「おはようございます。泊めていただいてありがとうございました」
そう言って頭を下げる昴に合わせて、トンボもホバリングして一度下がって上がる動作をする。
どうやら、トンボなりのお辞儀のつもりらしい。
「大したことはしてねぇよ。それより、よければどうだ?」
「えっ? これ、倉鍵のおっちゃんが用意したの? すげぇ、うまそう」
倉鍵の持ってきたプレートを覗き込んだトンボが驚きの声を上げる。
そこには温かなオムレツに、カリカリのベーコン、新鮮なレタスとトマトと、軽くローストされた丸パンが綺麗に並んでいた。
無骨な見た目に反した完璧な朝食に昴も驚きの声を上げる。
と、寝ていたはずの南斗がガバッと起き上がる。
「なんかいい匂いがする!」
そう呟いたキョロキョロと辺りを見回した南斗は、倉鍵の持つプレートを見て歓声を上げる。
「うわ! すごい! えっ? 食べていいの? お金そんなに持ってないよ!」
プレートごと食べそうな勢いで倉鍵に詰め寄る南斗に、昴とトンボが呆れた顔と声をあげる。
「金なんてとらねぇから、とりあえず座れ! 今、オレンジジュースも持ってきてやるから。ほら、昴、お前も座りな」
倉鍵にそう言われて、南斗はソファから飛び出ると早速作業台の丸椅子に腰かける。
そんな南斗と倉鍵を見て、昴が申し訳なさそうに言う。
「すみません。私は朝食は済ませてしまったので」
「そうか。じゃあ、ジュースだけ持ってくるな」
すでに起きていた昴の様子から想像はしていたのか、倉鍵はあっさりうなずくと一旦作業場から出て行こうとする。
「あっ、いえ、ジュースも結構です」
「ガキが遠慮するんじゃねぇよ」
慌てて答える昴に倉鍵が返す。
その様子を見て、一瞬間を置いた後で、昴が気まずそうに口を開く。
「……実はリキッド、それもノーマル味のリキッドしか受け付けないんです。体質的な問題でして」
「えっ?」
「うわぁ~! だから昨日のシチューも食べなかったのね。リキッド、しかもノーマル味限定って、きっついね」
そんな話は初めて聞いた、と、思わず驚きの声を上げてしまったトンボの声が、丁度よく発せられた南斗の言葉にかき消される。
「そりゃ、また……難儀な体質だな」
お気の毒と言いたげな顔で倉鍵も昴の顔を見る。
「じゃあ、昴の分も私が食べる~」
神妙な顔もそこそこに、南斗はそう言うやいなや作業台に置かれた二枚のプレートを抱え込もうとする。
「おいおい、二人前も食ったら腹壊すぞ」
「やだ~食べる~! 絶対美味しいもん!」
「こんなのでよければ昼飯用に弁当にしてきてやるよ。ほら寄越しな」
駄々をこねる南斗を見て倉鍵が呆れた顔でそう言うと、南斗が、やった~、と歓声を上げた。
オレンジジュースと一緒にランチボックスにしまわれたそれを受け取ると、南斗はご機嫌で朝食を開始。
そんな南斗を見て一瞬目を細めた倉鍵が真剣な顔で三人に問いかける。
「お前たち、本当にP-8517に行くのか?」
倉鍵の言葉に昴はトンボと南斗を見つめる。
「「もちろん」」
二人の返事を聞いて、昴は倉鍵を真っすぐ見つめて答えた。
「はい。心配していただいたのにすみません。私たちは自分の目で確かめないといけないんです」
「そうか。……昴、ルートを教えてやるからこっち来な」
倉鍵は南斗に朝食を続けるように言うと、昴とトンボを作業台に呼び寄せた。
教えてもらったルートをトンボに登録し終えた昴と朝食を終えた南斗は、旅支度をして燃料屋の店先で倉鍵に深々と頭を下げた。
「本当に何から何までありがとうございました」
「ご馳走さま……じゃなかった。ありがとうございました」
「大したことはしてねぇよ。気を付けて行って来いよ」
そう言うと、倉鍵が真面目な顔をして続けた。
「もし、面倒なことになったら、P-7707の倉鍵の使いでパーツの仕入れに来たっていいな」
「えっ?」
「まぁまぁ長いことP-7707で燃料屋をしてるんだ。ここいらじゃ多少は顔が利くはずだ。まぁ、管理局の奴らにどこまで通用するかはわからねぇがな」
「そんな……」
「すまないな。恩に着る」
倉鍵の言葉に思わず返答に詰まってしまった昴の代わりにトンボが倉鍵にお礼を言う。
「「「本当にありがとうございました!」」」
「気をつけろよ! 気が向いたら帰りも寄りな!」
倉鍵の言葉を背に昴はスクーターにエンジンをかけた。
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