5_見たこともない鉱石と目的地の噂
「おう、でてきたな」
「じゃあ、話すとするか」
昴と
「P-8517ってのは、この町から北に三つ先に行った町だよ」
「北ですか!」
「行ったことあるの?」
倉鍵の言葉に昴と南斗が身を乗り出す。
三人の頭上を飛んでいたトンボも倉鍵に詰め寄る。
「えっ、あぁ、北だよ。それに行ったこともある。一年前までの話だがな」
「一年前まで、ですか?」
倉鍵の言葉に昴が聞き返す。
「あぁ。それより期待しているお前たちには悪いが、『楽園の入り口』なんてもの、P-8517にはないと思うぞ」
「噓でしょ!」
「まぁ、そうだよなぁ」
倉鍵の言葉に今度は南斗とトンボが真逆の反応を示す。
「ちょっと待ってよ! ないと困るのよ!」
そう言って詰め寄る南斗の勢いに倉鍵がのけぞる。
「南斗、落ち着いて! 倉鍵さん、ではなぜあなたは楽園の入り口の話を知っているんですか?」
倉鍵から南斗を引き剝がして、昴がたずねる。
「そうだよ。無いって言うなら、そんな話はどこからでてきたんだ?」
南斗を宥めるように頭上をくるくると回りながらトンボも疑問の声を上げる。
「P-8517は質の良い鉄が採れる町でな。採掘だけじゃなく、腕のいいパーツ屋もいくつかあったから、仕入れに行っていたんだよ。燃料を入れるついでに修理用のパーツを買う客も多いからな。ただ、少なくとも俺が行っていた頃までは、楽園の入り口なんて話はなかった」
「なるほど。では、一年前までというのは?」
「一年前、急にP-8517への道が急に封鎖されて、町に行くことも、町から人が来ることもできなくなっちまったんだ」
「えっ? どういうことだよ?」
「P-8517の採掘場で今まで見たことのないような鉱石が取れたって噂が流れてな。そのすぐ後さ。街道が封鎖されたのは」
「今まで見たことないような鉱石って、まさか……」
倉鍵の言葉に昴がトンボを見上げる。
「ねぇ! いい加減、この手を離してくれない?」
「あっ、すみません」
南斗の言葉に、昴は彼女を押さえたままでいた手を慌てて離す。
「はぁ、痛かった。じゃあ、P-8517には今は行くことすらできないってこと?」
昴に抑えられていた腕をさすりながら、南斗が倉鍵にたずねる。
「いや、半年前に封鎖は解除されたから行くには行けるぜ。その頃からだよ。P-8517が楽園の入り口の町と呼ばれ始めたのは」
「どういうことよ? 楽園の入り口はあるの? ないの?」
「正確なことはわからん。ただ俺はないと思う。何よりP-8517は止めとけ」
「何それ!」
倉鍵の言葉に南斗が抗議の声を上げる。
昴も南斗の反応はもっともだと言う顔で倉鍵を見つめる。
「お前たちより前に何人もの人間がP-8517に行った。この町の人間も、うちに来た旅人もな。そりゃそうだろ。俺たちみたいな庶民にとっては『楽園』に住むなんて夢のまた夢だ。その入り口が目と鼻の先にあると言われりゃ、そりゃ行くよな」
「そりゃそうだろうな」
トンボの言葉に南斗も大きくうなずく。
「でも、誰一人として帰ってこなかった。旅人はまだしも、この町の人間もだ。おかしいだろ」
「みんなが楽園に行けたってことじゃないの?」
南斗の言葉に倉鍵は首を振る。
「楽園に行く条件を知らないわけじゃないだろ? あれだけ厳しい条件があるのに、ただP-8517に行っただけの人間が全員行けると思うか?」
「確かにおかしいですね」
「それにP-8517は管理局が目を付け始めているって話だ」
その言葉に昴とトンボだけではなく、南斗も黙り込む。
「悪いことは言わねぇから、止めておきな」
その姿を見て、倉鍵が昴たちに諭すように言うと、そろそろ寝ろよ、と席を立とうとする。
「……でも、あたしは行かないといけないの」
「おい、南斗。だから、止めとけって言ってんだろ」
南斗の言葉に立ち上がりかけた倉鍵が呆れた顔で声を掛ける。が……
「管理局が目をつけているってことは、少なくとも何かはあるのよ! ちょっとでも可能性があるなら私は行く!」
「……確かにそうですね」
自分の言葉を遮られた倉鍵は、南斗と昴の言葉を受けて、おいおい、と声を上げながら、もう一度、椅子に座り込む。
「お前たちわかっているのか? 管理局はガキだからって大目に見てはくれないんだぞ」
南斗と昴を止めようとする倉鍵にトンボが返事をする。
「わかっちゃいるけどさ。俺たち、少しでも可能性があるなら諦めるわけにはいかねぇんだわ。な? 」
「もちろん!」
「そうですね。P-8517に何があるのか。確かめないわけにはいきません」
「お前たち、馬鹿なのか?」
呆れた顔で見つめる倉鍵を三人が真剣な顔で見返す。
「……まぁ、決めるのはお前たちだ。とりあえず今日はそろそろ寝ろ。一晩よく考えるんだな」
そう言うと今度こそ椅子から立ち上がった倉鍵は作業場を後にした。
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