誰か私を見て
花山至
いつか、愛されていた
私は摩耗する消耗品だ。
繰り返される動作に擦り切れ、壊れる事もままある。
水害によって働けない事もある。
日光アレルギー持ちで日に当たり過ぎると目も当てられない。
皮より内容と言ってくれる物好きもいるが、そういう者は決まって懐が寒い。
私と同じ様によれて、草臥れたものを多量に手に取る。
しがないオールドファッションはそんな客を待つしかない。
遠い昔を懐古する。
折角、人目を引くようにとオーナーは私達に精一杯の装飾を施してくれたのに……。今日も私は誰にも見向きされなかった。一瞥くれた者はいたけれど、懐かしむ様に眺めて他の子を選んだ。
今隆盛しているのは負けん気の強い、泣かせ上手の新人らしい。従業員総出で祭り上げている。
思えば私も年を取った。
一昔前の流行は私だったのに、人は簡単に目移りする。
だから分かるのだ。あの子もあと数年経てば、廃れる。私と同じ様に。
擦り切れ、ゴミ屑同然に扱われ、必要ないと言われるようになる。
今着いている客も必然、若い子の方が好きだ。新鮮さに溢れた元気な子が。
「つまんな、なにこれ」
私の隣の子が物好きに手を出されたようだった。
最安値で置いてある彼は委縮し、疲れ切った様子で、でも触れてもらったのが久し振りだからか、少しだけ嬉しそうで。
彼はまた、私の隣に戻ってきた。
次いで私が呼ばれた。隣の彼に暴言を吐いた客だ。
私の皮を見ると客は
「割と好きかも」
と呟いた。
不謹慎にも私は少し嬉しくなった。
彼に申し訳ない思いで、私は客に私の事を話した。私の、中身の事を。
話始めは洋々と、話も半分した頃に、客はまた呟いた。
「皮は良いけど、中身がなー」
どうやら、今日も選ばれないらしい。私も自分の定位置に戻ってまた他の客を待った。
何日も何日も待った。
その間悪戯に触れてくる客はいたけれど、金を出してくれる素振りを見せた者は誰一人現れなかった。
皮肉な事に、この店に私を売りつけた人間が一番私を愛してくれていた。とても飽きやすい性質の人だったけれど、興味を持っている時は、私以外は見なかった。まるで私を道標かのように扱ってくれた。
今でもそれが頭を過る。またあんな風に、束の間でいいから、私が最上だと雄弁に伝えてくれる人に私を買って欲しい。
何日も何日も何日も何日も、待っていたのに。
最期に私を手に取ったのは、私に商品以上の興味を示さない従業員だった。そして私は今から商品ですらなくなる。無価値で無個性なゴミ屑同然の売れ残りの行き着く先は、勿論、廃棄処分だった。
何時かは誰もが通る道、それが早いか遅いか、それだけの違いだ。
頭で分かった気になっていても、心は決して着いていかなかった。
どうして、どうしてと自問自答を繰り返した。
私はもう一度、笑いかけて欲しいだけなのに。
もう誰も古きを顧みもしない。
誰か私を見て 花山至 @ITSKR
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