闇に光を照らす者たち 後編
「その方式っつーのは、一体何なんだ!?」ハーヴィは、エドワードに近づく。
「まずNo.25組織は、ここ中心都市の医療法人団体の一つ。病院や診療所等の開設を目的とする団体組織です。」エドワードは、第一にNo.25組織の説明をする。
「ああ。彼らのおかげで、かなり救われた市民は多いだろう。」デイヴィッドは、椅子の背もたれに寄っかかる。
「兄さんの言う通りです。労働者失業率減少に貢献した内の1つですから。色々引っ掛かる点もありますが、注目すべきところは、事件現場の数字です。」エドワードは、まだ完璧に推理ができていた訳ではなかった。
「事件現場の数字?」ハーヴィが、訳がわからず聞き返す。
「25人共、とある方式において、各場所で襲われています。その方式というのは、すべての事件現場に、5の倍数の数字が関わっているということです。」
「「「?!?」」」3人共、予想外の事実に目を見開く。
「5の倍数だ?!どういうことだよ、そりゃあ。」ハーヴィは、余計訳わからず、頭を掻きむしる。
「最初の事件現場は、ここから数キロ離れた、第五地区。そして、次の事件現場は、
西方10丁目のように、全事件現場は、5の倍数になっているわけです。」
エドワードは、事件現場の共通点を皆に説明する。
「それは分かったが、本当にNo.25組織が犯行に及んだと?」チャーリーは、エドワードを見る。
「・・・・先ほどあながち間違いではないと申しましたが、確かではないです。何か、僕が気付けていないことが、ある気がします・・。」珍しくエドワードは、全容が見えていなかった。
「エドワードにも、簡単に解けない事件とは・・。」ハーヴィも肩を下ろす。
「何しろNo.25組織に、悪い噂を聞かないのだよ。組織の中でも、稀に組織体制の全容を知らず、善行をなす者たちもいるからね。疑わしいからと言って、安易に行けない部分もある。」デイヴィッドは、目を伏せ、複雑な思いを口にする。
「そうだな。今までは、現行犯か被害者からの証言で、どこの組織の奴か確証はできたが、今回は、まだ憶測でしかねえからな。」チャーリーは、タバコに火をつける。
「何か・・・気付けていない何か・・。」エドワードは、窓の外を見て、考え込む。
────
「フイ!ついにやりました!」ディランは、例の”アレ”が届き、早速、”私の子達”と呼ばれる昏睡状態の市民達に何かを投与している。
「おお!!すっご!!ディランさん、さすがですよ!」フイは、ディランの行為に感動して興奮していた。
「これですよ!私たち組織が成し遂げたかったファーストステップ!!
素晴らしいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」ディランは、最高級に狂って興奮していた。
「マジですげぇ。この薬で、ナイフで刺した痕も銃で撃たれた痕も、超スピードで治癒されてる!!!」フイ達は、とある薬で市民達に実験をしていたのだった。
「そう!マイロードが長年成し遂げたかったものが、今やっと一歩を踏み出したのです!これから、この国だけでなく、ロードは世界を支配するお方になる!!この薬があれば、その夢も遠くない!!」ディランは、実験の成果を心底喜んでいた。
────
「そういえば、こんな風に昔、私たちは市場を歩いていたな。」デイヴィッドとエドワードは、市場まで夕飯のための食材を買いにやってきていた。
「そうですね。懐かしいです。」エドワードは、幼少時の平穏な生活を思い出す。
「あんた気をつけなよ。ここ最近市民達が襲われたって噂しかないよ、この街は。」
「でも、もう被害は収まっているんでしょう?」
「それはそうだが、巷じゃ新薬か何かが、急ぎで港町からたくさん運送されて来たって聞くよ。運送業者の爺さんが言ってたよ。何かまた別の事件が起きなきゃいいけどさ。」
「きっと医療法人団体組織様たちが、私たち市民のために他国から取り寄せてくれたのよ。数年前の感染病で大変だったじゃない。」
エドワードが果物屋で何を買おうか悩む時、通りすがりのお婆さんと若い女性の会話が聞こえてきた。
「・・・」エドワードは、その会話の内容が頭の中を占める。
「(港町から運送された、新薬・・?中心都市ともあろうところが、最近感染病も何も流行っていない時に、急ぎでしかも大量に新薬が運ばれるのか?そんなはずはない。No.25組織は、医療法人団体として数年前から安定して機能している。それに、ここは、今では国内随一の医療機関が揃う都市だ。新薬なら、敢えて国外と取引せずとも、ここで十分開発できるはずだ。)」
そこまで、エドワードは推理すると、事件解決への一本の糸が見えた。
「エドワード。何の果物にするか決めたか?」野菜をたっぷり買ったデイヴィッドが、エドワードのところへ来る。
「兄さん。市場というのは、やはり情報が多い場所ですね。」エドワードは、デイヴィッドに微笑む。
「どういうことだ?まさか!今回の事件の完璧推理ができたというのか?」デイヴィッドは、エドワードの満足そうな顔を見て確信する。
「はい、もう明確です。」エドワードは、いつものように断言をする。それは、自信に満ち溢れている顔であった。
「どういうことだ!?そりゃあ!」宿に帰って、エドワードが完璧な推理を伝えると、ハーヴィは困惑していた。
「つまり、エドワードの推理をまとめると、No.25組織を犯人と見せかけた事件で、しかも、何かは知らねえ新薬を市民達で実験している、ってことか?」チャーリーは、エドワードの話の要点をまとめる。
「はい、その通りです。」
「そんな新薬が運ばれる場所の目星はついているのか?」ハーヴィが尋ねる。
「とあることを思い出したんだが、組織の中に特に数字について五月蝿い奴がいると聞いたことがある。しかもそいつは、個人的に様々な薬の取引をすると聞く。」デイヴィッドは、組織内の情報に詳しい為、記憶の中から情報を引っ張り出す。
「数字に五月蝿くて、薬の取引を頻繁にする奴か。確かに怪しいな。」ハーヴィは深く考え込む。
「彼の名は、ディランです。兄さん程ではありませんが、僕もよく組織の会合に参加するので、彼の噂を聞いたことがあります。」エドワードは、デイヴィッドの言葉から、男の名を思い出す。
「そいつの居場所は?」チャーリーが尋ねるが、デイヴィッドの顔が曇る。
「それが、分からないんだ・・。彼は、滅多に顔を出さないし、さっきの特徴以外の素性は然程知られていない。」デイヴィッドは、苦し紛れに言う。
「それなら僕に良い案があります。」エドワードが、人差し指を一本あげる。
────
「奴の居場所が分からないから、通常通りのやり方じゃダメなのは分かってるけどぉ、なんで俺たちは、こんな格好しなきゃならねえんだ!!」ハーヴィは、エドワードの作戦に不満を漏らす。
「ハーヴィ。うるさい黙れ。エドワードの作戦は絶対だ。」チャーリーは、ハーヴィに軽蔑した目を向ける。
「てめえは、数字野郎と一緒かよ!そりゃ分かってるけど、こりゃあんまりだぜ・・。いくら居場所が分からないからって、運送業者に成りすましだなんて?!?」ハーヴィは、エドワードの今までにない単純明快な作戦に戸惑う。
「それしか方法がなかったんです。彼の居場所が分からないなら、運送業者に成りすまし、同業者の方にディランの居場所を教わるのが手っ取り早いです。」エドワードは、ハーヴィに作戦の成り立ちを再度説明する。
「ハーヴィの気持ちは分かっているさ。君は、不安要素を残したくないと誰よりも考えるからね。でも、彼らは私たちが誰かなど知らない。そして、僕たちがディランを抹殺したとしても、彼らは私たちの仕業だとは夢にも思わないだろう。」デイヴィッドは、ディランのいる場所まで行く馬車の中で、ハーヴィに説得するように言い聞かせる。
「ああ、分かっている。分かっているが、今までのエドワードの努力が無駄になりたくないだけなんだ。」ハーヴィは、誰よりもエドワードの腹心であった。
「あと、お前、派手に乗り込みたいタイプだからだろうが。」チャーリーが、一言ボソッと呟く。
「てめえ、俺を何だと思ってやがる。」
「ただの暴れん坊だな。」二人は、いつものように喧嘩が始まる。
「喧嘩はそれくらいにしておいて、もうすぐディランのいる場所へ着くぞ。」デイヴィッドの声で、皆の表情が引き締まる。
──────
「それで、この実験は成功だったんですか・・。」フイは、さっきの表情とは真逆の暗い顔をしていた。
「そんなはずは・・・ない、です・・」ディランの顔も、この世の終わりみたいな顔をしていた。
二人がかなり落ち込んでいる時に、建物内で何か物音がし始めた。
「何の音だ。フイ、ちょっと上を見に行ってもらっても、よろしいですか。」ディラン達の研究所は、建物の地下にある。
「りょーかい〜。侵入者がもし入ってきたなら、僕の仕事だもんね♪」フイは、嬉しそうにその場を後にした。
「おいおい。何だよここ・・。」ハーヴィは、気味悪そうに辺りを見渡す。
「趣味悪りぃ野郎だぜ・・。」チャーリーもその気色悪さに流石にタバコを吸うのをやめる。辺りは、人骨のようなものが転がってあったり、水晶の中に実験台にされていたのか、もはや人間の形かも分からない腐敗した死体もある。
「孤児院放火事件の時に、疑問がずっと残っていました。No.40組織が、スコットさん夫妻に提案していた、”この国の未来のために孤児達を実験台にする”という言葉。」エドワードは、この事件もその一環だと考えていた。
「それは私もだ。恐らく、この事件も、罪のない市民たちが、組織の実験とやらに利用されてしまったのだろう。」デイヴィッドは、やるせない気持ちで苛まれていた。
「ええ。そんなのは許せない。先へ行きましょう。悪には、同じ悪による制裁を受けさせましょう。」エドワードは、拳に力を入れて、皆と建物内に進んでいく。
──────
「あり得ない・・あり得ない・・・あり得ない・・・」一方、ディランはずっと頭を抱えたまま、絶望していた。
「なぜなんだ・・。新薬は、私の子たちに、確実に効力があったではないか・・。なのに、再起不能となったのは、今現在22だと?!?!残りも3というのは、どういうことだ!!!!??切りの悪い数字は、嫌いだというのに!!!!」ディランは、イライラしているせいか、机の資料をバサッと手で払いのけてしまう。
コツコツ・・
すると、どこからか遠くの方で、誰かの足音が聞こえる。それも、どんどん近づいてくるような。
「・・・フイか?」ディランは、少々怪しむも、その足音の主はフイだと思った。
そして、ディランは奥の部屋で残りの3人の様子を見に行った。
「・・・・」
「・・フイ、ところで、何の物音だったのですか?」ディランは、さっきの部屋に戻ってくると、フイがそこにいると思って話し始めた。
「・・そうですね。悪魔の足音、とでも言いましょうか?」そこにいたのは、フイではなく、仮面をつけたエドワードであった。
「だ、誰ですか?なぜ、ここに・・。」さすがのディランでも、驚きが隠せなかった。なんせ、ここの建物は、自分達以外誰も入れたことのないエリアであるからだ。
「しかし、これは酷いですね。新薬による実験だとは、大凡予想はついていましたが、ここまで未知なものを人に飲ませるとは・・。」エドワードは、先ほどディランが払いのけた資料を手にしながら話す。
「私は、貴様に誰だと尋ねています。それに、フイはどこなのでしょう。」ディランは、少々苛立ちながらも、冷静に対応しようとしている。
「・・・あなた、チェス、したことありますか?」エドワードは、少し考え込み、ディランの顔を見る。
「はい?チェス・・、そんなのは嗜む程度は・・。」ディランは、エドワードの質問の意図は分からないが答えた。
「そうですか。ですが、あなた弱いですよね?」エドワードは、かなり見下した目つきでディランを見つめる。
「何だと?!?貴様、何を話し出すかと言えば、今置かれている立場を分かっていないようだな。」ディランは、蔑む言葉に激怒して、銃を手にする。
「ほら、そうやって感情的になられるご様子だと、あまり心理戦に向いていないようですね。貴方、平常心を装って、頭の良い振りをしていますが、僕には通用しないようですよ?」エドワードは、さらに追い討ちをかけるように、ディランを貶す言葉を投げかける。
「貴様っ!!!」ディランは、顔を真っ赤にして、銃口をエドワードに向ける。
「・・っ!」すると、エドワードの背後から、ディヴィッドがスッと出てくる。そして、ディランの頭部に銃口を当てる。
「さて、雑談はここまでして、捕らえている市民の方々を解放してください。」エドワードは、恐怖で冷や汗をかくディランに微笑む。
「な、なんだと・?き、貴様らに、私の子たちを渡すとでも・・?」ディランは、デイヴィッドに当てられる銃に怯えつつも、正気を失ったのかニヤニヤとする。
「クククっ‼︎‼︎・・この国は、この”新薬”で新たな一歩を踏み出す!!そう、この実験は、我々の未来を変えてくれる!!・・ハハハっ!!・・それなのに、貴様ら如きに、私の子たちを渡す??ククククククっ!!!ふざけるんじゃない!!!!!」
ディランは、本性を出し始めたのか、狂気に笑っている。
「確か、貴方、切りの悪い数字がお嫌いでしたよね?こちらの資料を見ますと、22名の方が、新薬の副作用によって再起不能。そして、残りの3名は、未だ昏睡状態・・。この実験自体、非人道的ですが、随分と、”切りの悪い数字”ですね?」エドワードは、最後を強調して話す。
「なっ!!貴様!!!!!!!!!」ディランは、銃の引き金に手をかける。
「どうです?試してみますか?貴方の銃と、彼の銃、どちらが速いか。」エドワードが、ニヤッと口角をあげると、ディランは奥歯を強く噛み締め引き金を引く。
バンッ!!!!!!!
建物内に銃声が響き渡る。
────
「お、前・・らは、例の・・仮面の男たちか・・!」一方、フイは、ハーヴィとチャーリーによって、息絶えようとしていた。
「お前は、ここで終いだ。今までの報いをここで受けるんだな。」ハーヴィは、倒れるフイを見下ろして言う。
「ふふっ・・お前らが・・僕たちを・・殺しても無駄だと言うのに・・この実験は、あらゆるものの・・一つに過ぎないんだよ・・ははっ。ロードは、きっと・・・成し遂げるさ・・僕は・・ここで終わりみたいだけど・・」フイは、力無く笑うと、チャーリーが、タバコを咥えながら、フイにトドメの一発を撃ち込んだ。
────
「ぐはっ!!!!!!!!!」ディランは、大量に口から血を吐き出す。
「エドワードっ・・」ディヴィッドは、驚きの目をエドワードに向ける。
「随分と乱心だったようで。銃弾は、かすりもしていませんよ?」エドワードは、ディランに微笑みかけた。エドワードは、ディランの銃を避けて、ディランの左胸に剣で一刺しした。ディヴィッドは、エドワードの素早い動きに目を奪われ、銃を発射できなかったのだ。
「おうぇっ!!!!!き、さま・・」ディランは、その場に倒れ込み、何度も口から血を吐き出す。
「・・・そうですね。貴方に良いことを、最期に教えてあげましょう。」エドワードは、血で汚れた剣を鞘に納める。
「・・・・」息をしているのもやっとなディランに、エドワードは近づき、しゃがむ。
「僕は、これまで幾つか組織を潰してきましたが、貴方で、めでたく”7つ目”です。」エドワードは、ディランにニコッと笑い、すぐにスッと立ち上がる。その笑顔を見たディランは、恐怖の表情で顔が歪み、体が震えていた。
「ですが、安心してください。7という数字は、ラッキー7と言われますから。」エドワードは、ディランに背中を見せてフッと笑い、その場を立ち去る。
その後、ディランはこれまでにない程の叫び声をあげたのだった。
────
ディラン達がいた建物は、エドワード達によって火が放たれた。
被害に遭った25人の市民達は、ハーヴィとチャーリーによって探し出され、火を放つ前に、近くの病院へと運ばれた。
しかし、その内22人は脳死と判断され、残り3人は未だ意識不明の重体だと、次の日の新聞で報じられた。
翌日、エドワードたちは、帰りの列車に乗車していた。
「しかし、こんな実験が組織内で行われているとはな。」ハーヴィは、珍しく新聞を広げ見ていた。
「だが、いつもの通り、組織の犯行だとは書かれていない。都合よく、”麻薬を使った者たちの末路か?”だとよ。チェっ。組織は、新聞社をも手玉にしているのが、在り在りと分かるぜ。」チャーリーは、椅子にもたれる。
「この事実は、今後のプランに影響が出そうだな。」ディヴィッドは、エドワードの方を向く。
「・・・・ええ、そうですね。」エドワードは、自身の鞄を見つめて、じっと何かを考えていた。
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