運命の悪戯
「それで、謎の仮面の男というのは、誰なのだ。」
「それが、まだ検討もついてないようで。ですが、組織についてかなり詳しい者らしく、恐らく組織内にいるかと。」
「・・組織の裏切り者か。イーサン。早急にあの計画を始めよ。」
「仰せのままに、マイロード。」
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「ええ!今日行くの?!」オリヴィアの大きな声が屋敷内に響き渡る。
「仕方ないですよ、オリヴィアさん!半年に1回の組織内会議ですから。」ベンは、今日の郵便物を整理している。
「そんな、会議で中心都市まで行くなんて。今まで隣町だったじゃない。」オリヴィアは、1人嘆いていた。
「そんな落ち込まないでください!今回、僕は留守番なので、オリヴィアさん1人じゃないですよ!」ベンは、自分もいるから安心してと促すが、オリヴィアの顔は一向に晴れない。
「エドワード兄さんに、デイヴィッド兄さんまでいないなんて…。」
「…ぼ、僕じゃ、ダメみたいですね…。」ベンは、気まずそうに分かりやすくへこんだ。
「さ、準備も整ったところで、出発か?」ハーヴィは、ジャケットを羽織る。
「エドワード、俺たちは準備万端だぞ。」チャーリーは、タバコに火をつける。
「僕も準備はできています。ですが、お2人は本当によろしいのですか?別にここに留まってもいいのですよ。」エドワードは、懸念した顔で2人を見る。
「何度も言っているだろ?俺たちは、万が一に備えてだ。」ハーヴィは、エドワードの背中をバシッと軽く叩く。
「そうだ。もしかしたら、俺たちが動かなきゃいけない事件が起きるかもしれねえだろ。」珍しくチャーリーとハーヴィは、張り合っていなかった。
「・・分かりました。それでは、出発しますか。」エドワードは、少し考えてから、自身の鞄を持ち上げる。
「それじゃ、ベン。オリヴィアと留守番を頼んだよ。」デイヴィッドは、ベンに念を押すように伝える。
「任せてください!デイヴィッド様たちが不在の間は、僕がしっかり仕事をしておきます!」ベンは、やる気満々で得意そうな顔をしている。
「気を付けて行ってください。それから、お土産待ってますからね!」オリヴィアは、心配な目を向けるが、最後は笑って皆を見送った。
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「今日は、わざわざお集まりいただきありがとうございました。今日参加された組織は、特に問題なく事業ができているとのことで、安心いたしました。しかし、くれぐれも組織の規律を乱さぬよう心がけてください。」
組織内会議は、2時間ほどで終了した。各組織の成果を報告する会議であった。
「エドワード、デイヴィッド。お疲れ様。」ハーヴィが、建物内から出てきた二人を待ち受けていた。そこには、相変わらずタバコを咥えたチャーリーもいた。
「待たせてすまないね。特に何も問題はなかったよ。」デイヴィッドは、階段に注意を払いながら降りる。
「ええ。普通の会議でしたね。」エドワードは、書類やらを綺麗に鞄にしまう。
「それで、これからどうするよ。」チャーリーが、口を開く。
「そうだな・・。もう用はないから、帰るだけだが、・・買い物でもするか?」デイヴィッドは、珍しい提案をする。
「・・そういや、オリヴィアがお土産欲しがってたな。」ハーヴィが、オリヴィアの言葉を思い出す。
「ベンには仕事も任せちまったしな。あいつにも土産ぐらい買ってやった方がいいか。」チャーリーは、火のついたタバコを靴で消して拾い上げる。
「エドワードは、どうする?一緒に行くか?」デイヴィッドがエドワードの方を見る。
「いえ、僕は遠慮しておきます。少々疲れたので、あそこのカフェにでもいます。」エドワードは、右方向にあるお洒落なカフェを指差す。
「そうか。じゃあ、ちょっと俺たち行ってくるなー。」ハーヴィ達は、エドワードと別れて買い物しに行った。
「お客様。ご注文は何にしましょう。」エドワードは、先ほど言ったカフェに入って、窓際の席に着く。
「・・そうですね、・・アールグレイを。砂糖なしでお願いします。」エドワードは、好物であるアールグレイを頼む。
「・・・」そして、しばらくエドワードは、読書したり仕事の書類を見たりしていた。
「・・・はあ。」エドワードは、ずっと目を酷使していたせいか、眉間に手を当てて顔を少し下に向ける。そして、出されたからしばらく経っている紅茶を一口飲む。
「なあ、あんた、そんな冷めた紅茶飲んで美味いか?」焦げ茶色の髪をした若い男が、エドワードの向かい席にドカっと座る。
「・・。まあ冷めた紅茶が美味しいかと言われれば、熱々の紅茶の方が美味しいのは明確です。」エドワードは、知らない男に一瞬驚きながらも質問に答える。
「ははっ!あんたさっきから面白いと思って見ていたが、やっぱ話してみるともっと面白えな!」その男は、嬉しそうにエドワードに笑顔を向ける。
「それはどういうことでしょう。」エドワードは、冷めた紅茶をもう一口飲む。
「あんた、さっき、そこの推理小説を読んでいたみたいだが、ずっと同じページを読み込んでいたな。」男はテーブルに置いてある小説本を指差す。そして、男の言葉に一瞬目を開くエドワード。
「あんたが一ページを読み終えるのに、かかる時間は、約15秒。早けりゃ10秒も経たずに読んでいる。だが、あんたはとあるページに1分もかけて読み込んでいた。俺も、その小説を読んだことがある。だから分かる。お前がどのページで止まって、何を考えていたのか。」男は、確信の目をする。
「128ページ。16行目。『ジャックは、友人宅のテーブルを見て不思議に思う。なぜ、”彼は研究者でもないのに、多数の謎の瓶がテーブルに置いてあるのだろう。”と。その瓶には、”ジャイアント・ホグウィード”と書かれていた。』」
男が的確に当てたページ数と行数は、まさにエドワードが1分ほど見つめていた箇所であった。
「それじゃあ、なぜその文で止まったのか、1分も使って何を考えていたのか。考えられるのは、二つだ。一つは、主人公ジャック側になって考えた。確かにジャイアント・ホグウィードは、この時代設定なら有毒植物として認知するに厳しい面もあるだろう。だが、天才と言われる主人公ジャックなら、その名を見たら一瞬で友人が事件の犯人だと見抜かなければならない。そして、あんたは確認していた。この事件が終了するページを。その有毒植物事件が解決するまで、後10ページもある。そこであんたは、こう思ったはずだ。”もし自分がジャックなら、後3ページも使えばこの事件の話は終了する”と。」エドワードは、顔色を変えずに、目の前の男の話を聞くが、全くその通りで内心驚きと喜びがあった。
「あるいは、犯人側になって考えた。」男は、エドワードの瞳をしっかりと見て、瞳孔の開き具合を確認する。
「犯人は、それが有毒植物だと知りつつも、人を殺害できるものだと勘違いしていた。だから、”もし自分が犯人ならば、ジャイアント・ホグウィードなど使わない。もっと有毒なジキタリスを使って、確実に殺れて絶対に捕まらない方法を考える。”あんたは、どっちかの側に立って、1分もそのページに止まっていたんだ。どうだ?当たったろ。」男は、得意そうにエドワードに指差す。
「なるほど。貴方の仰る通り、大方当たっています。確かに、貴方が指摘した箇所で、僕は1分ほど考え込んでいました。」エドワードは、素直に彼の観察眼を認める。
「”大方”ってのが引っかかるな。何か誤算でもあったか?」男は、少しワクワクしながら、エドワードを見つめる。
「ふふ。僕は、両方とも考えていたのですよ。1分間で。」エドワードは、軽く微笑む。
「ははははっ!!まっじであんた面白えよ!!!俺の観察力は100%で狂いがないと思っていたが、ここまでの奴がいるとは思わなかったぜ。で、あんた名前は?」男は、嬉しそうにゲラゲラと笑う。
「エドワード・ジョン・ホワイトです。」エドワードも、心の中では、こんな興味深い男と出会ったことはないと思っていた。
「エディだな!俺は、アルフレッド・ウィルソンだ。気軽にアルフィーって呼んでくれて構わない。」アルフレッドは、立ち上がって名乗る。そして、愛称で呼ばれたことのないエドワードは、一瞬困惑する。
「・・・」さらに差し出された手の意味の理解に苦しんでいた。
「・・ったく。なんだよ手を出せよ!ほら、握手だ!」痺れを切らしたアルフレッドは、エドワードの手を取って握手を強要する。
「なぜ、握手なんか・・。」エドワードは、疑問符でいっぱいだという顔をする。
「なーに言ってんだよ!友達の証だろ?」アルフレッドは、当たり前のようにその言葉を口にする。
「・・・友達。」エドワードは、友達などという単語とは、ほど遠い存在だと考えていた。ずっと、世界変革のために悪への道へ進む彼には、無縁な言葉とさえ思っていたのだ。
「そうだ、今日から俺たち友達な!エディは、ここから随分離れた町にいるみてえだけど、また会えるだろ。これ、俺の住所な。」アルフレッドは、エドワードの鞄から少しはみ出る、帰りの切符を見て言う。そして、自身の住所が書かれた紙切れを渡す。
「はは、君はさすがだね。だけど、次会う時まで、君がその住所に住んでいられたらね。」エドワードは、アルフレッドが座っていた、2個先のテーブル席を指差す。
「ふっ、エディもさすがだろ。あそこのテーブルにある紙切れが、よく家賃滞納の催促状だとわかったな。」アルフレッドは、エドワードの観察力に驚きを感じる。
「君が僕の席に座る数分前、君は忙しく鞄から紙を取り出し、ペンで何かを乱雑に書いていた。催促状と分かったのは、さっき立ち上がった拍子に見えたからだよ。そして、恐らく君は、僕のところへ来る前から、僕に住所を渡すつもりだったんだね。」エドワードは、アルフレッドに負けないほどの観察力を持って話す。
「やっぱ、エディ最高だわ!俺の目に狂いはねえよ!こんなに話してて楽しい奴いねえ!」アルフレッドは、エドワードのことをすっかり気に入ったようだ。
「僕なんかと話すことで、楽しんでくれたなら嬉しいよ。」エドワードは、今までにない楽しい気持ちになっていた。
「なんかじゃねーよ!エディ”だから”楽しいんだろうが!」アルフレッドは、ニッと笑う。
「・・・っ!」エドワードは、目を見開いてアルフレッドの顔を見つめる。
「・・じゃあ、僕はそろそろ行かないとだから、失礼するよ。」エドワードは、片した書類やらを鞄に詰めて、鞄を手にもつ。
「ああ!じゃあな、エディ。また会おうぜ!!」
エドワードとアルフレッドは、カフェの前で別れた。
「面白え奴と友達になれてほんと今日はついてたな。しかし、あいつ・・。あんだけ頭良くて貴族なのに、仕事が郵便配達って何だよ。」
アルフレッドは、エドワードが貴族だと見抜き、さらにテーブルにあった書類が郵便関係のものだと密かに気づいていた。
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「エドワード!」エドワードは、不思議な男と出会ったと考えて歩いていると、前方にデイヴィッド達が立っていた。
「買い物は済みましたか?」エドワードは、3人が手に持つ紙袋を見て尋ねる。
「ああ!十分に買ったぜ!ちゃんとあいつらの土産もな!」ハーヴィは、嬉しそうに紙袋をかかげる。
「はあ?お前が買ったのは、自分だけの物だろうが。二人の土産は、俺が買ったんだよ!」
「何言ってんだよ!お前も自分のばっか買ってたじゃねえか!!」
チャーリーとハーヴィは、相変わらず喧嘩をし始めた。
「何か良いことでもあったか?」デイヴィッドは、エドワードのいつもと違う顔つきに気づく。
「いや、世の中、少し面白い人もいるなと思いまして。」エドワードは、フッと笑って天を仰ぐ。
「悪くない顔だ。」デイヴィッドは、エドワードが誰と会ったのかは分からなかったが、きっと何かかけがえのない体験をしたのだろうと感じていた。
決して巡り合ってはいけない二人は、運命の悪戯なのか、不運にも出会ってしまったのだった。
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