孤児院放火事件 後編



窓の外から聞こえる激しく鳴り響く雷に土砂降りの日の夜。

「・・・・それで、どうするんだ。」

「・・・・っ。・・どうしても、何ですか・・。」

黒ずくめの男とひ弱な男性は、どうやら交渉しているらしい。

「それが、正義なんだ。組織の為に、子供達を渡せば、貴方はこの国の為に

貢献した事になる。」黒ずくめの男は、ひ弱な男性の耳元で囁く。

「・・・子供達は、・・どうなるんですか・・」

「我が国のために、実験台になってもらうだけだ。これからの未来を、より良くするためなのだよ。」黒ずくめの男は、ニヤニヤと不気味に微笑む。

ガタン!! 二人以外の誰かが、物にぶつかる音がした。





──────




「明日、スコットさんの所へ行くのですか?!」ベンが激しく驚いていた。

「ああ。エドワードの提案だからね。」デイヴィッドは、椅子に座って本を読む。

「だから、ここの町の宿に泊まったのですね。」ベンは、エドワードが先の先まで読んでいることに、気づいた。


「だけど、エドワードは教えてくれなかったよな。なぜ院長が犯人なのか。」ハーヴィは、自分の銃の手入れをしていた。

「それは、明日になれば分かることだと思うよ。」

「オリヴィアさんは、僕たちが今日帰ってこないことに驚かないのでしょうか。エドワード様は、オリヴィアさんに伝えてないですよね?」ベンは、心配そうな顔でデイヴィッドに尋ねる。


「お?オリヴィアが心配かい?まあ、エドワードのことだから言っていないとは思うけれど、それは昔からだ。エドワードは、肝心なことをいつも言わない。そして、私たちはいつも事後に気付かされる。」デイヴィッドは、窓の外を見つめて言う。


「それは同感だな。エドワードは、いつも何でもかんでも自分で解決したがる。まあ、それが可能な頭脳だからってのもあるがな。」ずっと黙っていたチャーリーは、ワインをグラスに注ぐ。


「そうだね。」デイヴィッドはどこか儚げに言う。

「「「・・・」」」その場にいたハーヴィもベンもチャーリーも皆どこか寂しげだった。



────


翌朝。


「!これまた、デイヴィッド様にエドワード様、どうかなさいましたか・・?」院長は、エドワード達が次の日も来るとは思わず、少々驚いていた。

「朝早く訪ねてしまい、申し訳ありません。」デイヴィッドとエドワードは、脱帽してお辞儀する。

「い、いえ。今日はどういった用件で?」院長は、二人とお付きの者役であるハーヴィ達も家の中に招いた。


「・・早速なのですが、どうやら孤児院放火事件の犯人が捕まると警察から聞いたものですから。」エドワードは、偽の情報を院長に伝える。


「え!?!」院長は、驚きのあまり紅茶の入ったカップをテーブルにこぼしてしまう。

「おっと。スコットさん、お怪我はありませんか?」エドワードは、テーブルにこぼしてしまった紅茶を自身のハンカチで拭くと共に、院長の手を取った。

「あっ、はい!大丈夫です。・・・お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。」院長は、わかりやすく動揺している。

「・・おや、両手に火傷を負われてますね。・・ですが、今ではないようだ・・。」エドワードは、院長の両手の火傷を指摘する。

「「「!!」」」エドワードの言葉に、ハーヴィ達が反応する。

「え!?い、いえ、ちょっと・・不手際が生じて、タバコで火傷を・・。」院長は、嘘の供述をする。


「それは嘘ですね。あちらにある薬瓶は、肺炎を患う方が飲む薬です。貴方は、まずタバコを吸うことは”できない”ということです。」エドワードは、院長の後方にある棚の上の薬瓶を指差す。

「な!!・・」院長は、エドワードの観察力に驚愕する。


「・・・それから、こちら。昨日、興味深い物をゴミ箱で見つけたのです。失礼も承知で、思わず取ってしまいました。」エドワードは、微笑みながら、とある紙をテーブルに差し出す。


「こ、これは・・っ!!!!」院長は、その紙の正体を知り、冷や汗が止まらなかった。

「何ですか、これは。」ベンは、テーブルの上に出された紙を見つめる。

「これは、領収書です。スコットさん、1週間程前に大量に油とマッチを購入していますね?そして、孤児院放火事件が起きたのは、これらを購入した日から三日後です。」エドワードは、スコットさんが目を泳がせ動揺している姿をしっかりと見つめる。


「・・・っ。私は・・私は・・っ。」院長は、全身が震え言葉が発せなかった。

「・・もうやめてください!!・・主人は、何も悪くないのです!」すると、院長の妻がやってきた。


「そうですか?”食事も喉が通らず、少々やつれてしまった。”」エドワードは、院長に追い討ちをかけるような言い回しをする。

「!!!」院長は、さらに驚きの目をエドワードに向ける。

「もちろんスコットさんは、ご存知ですよね?”ご自身”で話された内容ですので。新聞の記事を読んだ時、少々引っかかったのです。新聞に載る貴方の姿が、食事も喉が通らない程やつれた様子ではなかったので。」

「それで、あの手の質問を・・。」チャーリーは、エドワードが昨日院長にしていた謎の質問の意図に気づく。


「・・・そうです、私です。私が犯人なのです。」院長は、もう観念したのか全てを話そうとする。

「あなた!!」院長の妻は遮ろうとするが、院長はもう良いと言って話し始める。

「・・私が、全てを企てて放火しました。・・・・。」院長は、青ざめた顔で顔を伏せる。


「スコットさん。まだ何か隠していますよね?誰かにやらされた、のではありませんか。」エドワードの鋭い視線に、院長の瞳を大きく揺れる。

「「「「・・・」」」」デイヴィッドさえ予想していなかったエドワードの推理に、

一同エドワードの方へ視線を注ぐ。


「・・・・・そ、そんなことは・・」院長が誤魔化そうとした所、エドワードがすかさず話し出す。

「貴方は、大量の油とマッチを購入してから犯行までに三日を要しています。本来、犯罪者というのは、時間をかけ十分に計画を立てます。仮に何かを購入してから犯行に及ぶのであれば、犯人の心理として、それなりに犯行への筋道が立ってから購入するものです。」エドワードは、ついに椅子から立ち上がり、院長へゆっくりと近づく。

「つまり!大量の油とマッチを購入したら、すぐにでも犯行に及ぶのが通常なのですよ。」エドワードは、院長が座る椅子の真横に立つと、少し屈んで微笑む。


「・・っ!!・・あなた達は、何者なのですか・・。ただの貴族ではないようです。

確かに・・私は、ある者から命じられて犯行に及びました。ですが、それは、私の責任でもあるのです!!」院長は、真実を話し出し、必死にエドワード達に訴えようとした。

「・・よければ、詳しくお話しいただいても?」デイヴィッドが、深刻そうな表情をする。

「はい・・ごほっごほっ!!」話そうとすると、院長の咳が止まらなくなった。

「あなた!!薬を!」院長の妻は、院長に薬を飲ませる。


「・・・主人はエドワード様が仰られたように肺炎を患っています。ですので、私が代わりにお話ししても?主人は今体調が良くないので・・。」院長の妻は、院長を落ち着かせてから、エドワード達に代わりに話す許可を求める。


「もちろんです。」エドワードは、椅子に座る。


「あれは、悪魔のような提案でした。実は、No.40組織の方が、私たちにとある提案をしてきたのです。”グリーン孤児院の孤児達を、私どもに渡してくれ”と。何の目的かと聞けば、この国の未来のために孤児達を実験台にすると仰ったのです。」院長の妻は、顔を歪めながら苦しそうに話す。

「何ですか!それは!!」ベンは、驚きのあまり大きな声を出してしまう。

「No.40組織・・。確か、孤児支援団体とする組織ですね。」デイヴィッドは、各組織が行う事業について詳しかった。


「私たちはもちろん最初はお断りしました。・・・ですが、何度も何度も彼らは、私たちの元へ訪れました。そのせいで主人も私も精神的にかなり参っていました。そして、雷が鳴り止まないある晩の日でした。孤児院にまだいた主人の元へ、彼らが最後だと言って訪れました。しかし、主人と組織の者との会話を、まだ寝ていなかった5人程の孤児に聞かれ、彼らは”孤児院ごと燃やす。今の会話を聞かれたのはまずい。不安要素は全て消さなければ。”と言い出したのです!!」院長の妻は、大粒の涙を流し出す。


「「「!!!」」」エドワード達は、組織の非道さに怒りが抑えられなかった。


「主人がその提案も断ると、私たちの娘を殺すと言いましたっ・・。私たちの娘は、病弱でずっと病院で入院していましたっ!・・それでっ・・私が・・自分の娘を守りたいが・・ために・・孤児院の子達を!!犠牲にしてしまったのです・!!!!」

院長の妻は、咽び泣きながら、自身の過ちを語る。


「恐らくスコットさんは、組織の者に大量の油とマッチを購入させられたのでしょう。それで、犯行に及ぶまでに躊躇いが生じて、時間がかかってしまった。そして、スコットさんの両手の火傷は、孤児院に放火してから、孤児達の泣き声などを聞き、

必死に助けようと考え、負ってしまった傷なのでしょう。」エドワードの言葉で、院長は涙を静かに流しながら、口を開く。


「・・・はい・・・。本当に・・許されないことを・・っしてしまった!!火を放った後に、聞こえてくる子供達の悲痛な声で・・・助けなくてはと・・自身でやっておきながら、思いましたっ・・。そしてあろうことか・・私共の娘が・・殺されずに事が済み、安堵する気持ちが、事件後にわずかにありました・・・本当に、犯してしまった罪の重さが・・・殺してしまった子供達に・・申し訳なくて申し訳なくて・・・!!!!」院長と院長の妻は、自責の念に駆られていた。



「お二人とも、お顔を上げてください。確かに貴方方は、罪なき子供達を殺めてしまいました。罪を償わなければなりません。ですが、それよりも重罪を負うべき者たちがいますね。その方々の処理は、僕たちにお任せいただけませんか。」エドワードは、立ち上がり右手を左胸に当てる。


「え・・処理・・というのは・・」院長は、顔を上げて不思議そうに、エドワードの顔を見る。

「本当の悪は、悪で成敗しなければなりません。」エドワードの言う意味に気づいた二人の夫婦は、身の毛がよだつ。


「・・・エドワード様たちは、組織の人間ですよね・・。そのような方が、組織を討つというのは・・」院長は、恐る恐る聞いてみる。


「僕たちは、この国を変えたい。組織体制なんかという馬鹿げた世界に変革をもたらすのです。正直者が馬鹿を見て、悪魔のような者たちが蔓延り、彼らを嘲笑う。そんな世界は間違っています。それならば、僕たちはその悪よりも悪にならなければならないのです。」エドワードは、力強く答える。


「「「「・・・」」」」デイヴィッド達は、複雑そうに口を噤む。


「(・・!!彼らなら、この世界を変えられるかもしれない・・。)」院長は、エドワードの揺るぎない瞳の強さに、確信していた。






──────



「な!!!他の仲間はどうした!!!!!!」その後、No.40組織を襲撃しに行ったエドワード達は、リーダーであるジェイクという男を追い詰めていた。



「ふん!そんな鈍い動きじゃ、お前ら俺の銃弾から避けられねえよ。」ハーヴィは安安とNo.40組織の手下どもを撃っていた。

「こそこそと動き回りやがって。俺の手を煩わせるのも大概にしやがれ。」

「ハーヴィさん、チャーリーさん!こちら全員気絶させました!」

ハーヴィ達は、エドワードとデイヴィッドがジェイクの元へ行けるよう援護している。



「そうですね。僕たちの仲間が、今頃対処しているでしょう。」エドワードは、ジェイクに微笑む。

「それでっ、お前ら仮面集団が、組織潰しをしていると噂に聞いていたが、本当だったんだなっ!」ジェイクは、ビクビクしていた。

「私たちは、世界に変革をもたらしたいのですよ。組織などという悪い存在は、消し去らなければなりません。」デイヴィッドは、冷徹な瞳をする。

「はは、ははは、はははははははははっ!!!!!!!!!!!!!!」ジェイクは狂ったように笑い出した。


「貴方方は、孤児支援団体だと世間には認知されているようですが、とんだ大嘘ですね。そんな団体があろうことか、孤児達を実験台にし、挙句の果てには院長夫婦に孤児院を放火させるよう脅した。」エドワードは、冷静な態度でジェイクに告げる。


「それがどうした???!!!!孤児がいくら死のうが、誰が悲しむんだ????親のいない哀れな孤児を、未来のために使って何が悪い??!!!この世界には、犠牲が必要なんだよ!!!!お前らもよく分かってるじゃないか!!??組織を犠牲にして、世界を変革するなどと言っているではないか!」ジェイクは、壊れたように次から次へと残虐的な言葉を並べる。



「確かに、私たちもそうだ。しかし、お前達と決定的に違うのは、罪のない弱い者達を無惨に殺しはしないということだ。」デイヴィッドは、開いた手のひらをギュッと握る。


「それに、お前の原理に従うなら、お前もここで死ぬってことだ。」いつの間にか、ハーヴィ達がジェイクの元へ訪れていた。ハーヴィはそう言った後、引き金を引くと、一発の銃声が建物内に響き渡った。ジェイクは頭に銃弾を撃ち込まれ、その場で倒れたのだった。



「・・・さあ、行こうか。」エドワードは一瞬眉を顰めた。


エドワードは、No.40組織の今までの悪事や今回の孤児達の件の証拠書類を回収して、アジトに火を放つ。



「・・・」エドワードは一度振り返って、火の海となったアジトをじっと見つめる。


「エドワード・・。」デイヴィッドは、エドワードが微かに体を震わせていたことに気づき、エドワードの肩に触れる。



「・・僕たちは前を見なければならない。進まなければ。」エドワードは、そう言って前を向き、その場を後にする。







────




「もう!!帰ってこないから、びっくりしたんだからね!!」

翌日、エドワード達が家に帰ると、予想通りオリヴィアは怒っていた。


「ごめんね。でも、ずっと留守番してくれてありがとう。」エドワードは、オリヴィアの頭に手を置いて、優しく微笑む。


「エドワード兄さんは、狡いわ!!!!」オリヴィアは、頬を赤くしている。




「お、今日の朝刊だな。」デイヴィッドは、テーブルに置いてある新聞を手に取る。


「”孤児院放火事件まさかのスコット院長犯人!?院長自首して容疑を認めるか”

そして、”孤児支援団達組織No.40全滅、例の組織潰しの悪魔の仕業か?”だとよ。」

チャーリーはデイヴィッドが持つ新聞を覗き込み、一面に取り上げられた二つの記事を読み上げる。



「これは、まだ序章に過ぎない。」エドワードの表情は冷酷であるが、燃えたぎるような真っ赤な瞳は、魅惑的な美しさを放っていた。



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