真紅の海 後編
ロード率いるボス組織を始めとし、幾つもの組織が派生して支配する組織体制社会。
表向きは、治安維持にあたる組織や、貿易を行う組織など、国のために様々存在する組織だと認知されている。しかし実際は、そんな組織体制は荒んでおり、犯罪などの悪事が横行している事態である。
また、組織には、それぞれナンバーと呼ばれる組織名が存在した。
No.1ボス組織から順にナンバーが各組織につけられる。エドワード達が属す小さなNo.80組織といった田舎町に拠点を置く組織は、大役を任されるような任務はない。つまり、エドワードの組織自体の存在は、組織内ではかなり薄い。
それは、エドワード達とって好都合なことかもしれないが。
「それで!この3人の紹介をしてちょうだい!エドワード兄さん!」怒って出て行ったはずのオリヴィアの姿が、またリビングにあった。
「わかったよ・・。もう怒らないで。」エドワードは、小さい子を宥めるように、オリヴィアに微笑む。
「・・もう!」オリヴィアは、エドワードの優しく微笑む表情を見て、結局許すことにした。
「それで、まず一人目は、ハーヴィ・エバンズです。彼は、元警察官で、僕が13歳の時にとある事件で一緒に捜査したことがきっかけで出会いました。」
エドワードは、向かって左から2人に紹介する。ハーヴィは黒髪の短髪で、右目に眼帯をしており、ガタイが良く高身長なために、威圧感がかなりある。
「二人目は、デイヴィッド兄さんも一度見かけたことがあるかもしれませんが、孤児院出身のベン・ブラウンです。彼には以前、僕が勉強を教えたことがありました。」
ベンは茶髪のカーリーヘアーで、人懐っこそうな外見をしている。
「もしかして、読み書きができるようになったから、難題も解きたいと言っていた子かい?」デイヴィッドは、驚きの表情をエドワードに向ける。
「ええ、その子です。ですが、今はもう彼は優秀になったのですよ。」
エドワードが、ベンを褒めると、ベンは照れたのか頬がほんのり赤かった。
「そして、最後に紹介するのは、武器屋の息子であるチャーリー・モーガンです。
彼は、銃の整備だけではなく、実戦でも活躍できるほどの腕前も持っています。」
チャーリーは赤茶髪の肩につく程の長髪で、ハーヴィと同身長くらいでスラっとした風貌だった。くわえタバコで、右手の甲にはハートのタトゥーが刻まれている。
「今回の事件の為に、収集されたってわけ?」オリヴィアは、ずっと黙っていた口を開く。
「まあ、そんなところかな。だけど、前々から、彼らには個人的に出会っていて、僕が数年見定めて選んだ人たちだよ。」エドワードは、優秀な仲間をずっと探していた模様だ。
「それでよ、エドワード。俺たちは、こうやって集まったわけだけど、俺は、こいつが気に入らねえ!!」ハーヴィが、タバコをずっと吸っているチャーリーを指差す。
「はあ?俺こそ、お前が気に食わんな。」チャーリーは、片目を開けてハーヴィを横目に見る。
「ハーヴィさん、チャーリーさん・・また喧嘩しないでください・・」ベンは、二人の喧嘩の仲裁に入る。
「3人とも面識はあるみたいだね。」デイヴィッドがエドワードに尋ねる。
「え、ええ。何度か3人で行動させていますから。」エドワードは少し苦笑いをする。
「ったく、エドワードの頼みだから従うけど、こんな奴と誰がやりたいかよ。」ハーヴィは、ソファにどかっと座る。
「ちょっともう喧嘩はよしてよ!エドワード兄さんとデイヴィッド兄さんの顔が引き攣っているじゃない!本来の目的の話をしましょうよ!」オリヴィアの鶴の一声で、皆黙った。
「そうだね、オリヴィア。早速ですが、3人にやってもらいたいことがあって、正式に僕たちの組織に加盟してもらったんです。」エドワードが、本題に入る。3人は、エドワードの言葉一つで、顔が引き締まる。
「んで、やってもらいたいことっつーのは?」ハーヴィがエドワードを見る。
「僕たちの組織は、この町の郵便配達の組織として認知されています。それは、組織内でも同じ認識です。ですから、日中から晩まで郵便配達をしていただきたいのです。」エドワードは、事件解決のための作戦を皆に言い伝える。
「郵便、配達ですか?」ベンは、エドワードの意図が分からず聞き返す。
「うん。犯人達は今晩も子供達を狙う。だから、配達をしながら、町の中で怪しい人物がいないか見回ってください。もちろん僕も行きますが。」
「なるほど。僕たちは確かにこの町の郵便配達の組織だね。だから、町中に僕たちが配達をしていても、他組織の人間が仮に見てもそれを変だとは思わない。」
デイヴィッドは、エドワードの考えに納得していた。
「しかしエドワード、なぜ今晩も子供達が狙われると?」チャーリーがタバコを灰皿に押し付けて聞く。
『僕、天才なので。』いつかのセリフをエドワードは口にする。
「全く。」デイヴィッドはフッと笑う。
「自分で言ってりゃ世話ねえぜ。」ハーヴィもエドワードの言葉に呆れている。
「それでこそ、エドワード様だ!」ベンは、目を輝かせながら感心している。
「じゃあ、早速取り掛かるか。」チャーリーの言葉で、皆準備を始める。
「それでは皆さん、くれぐれも気をつけてくださいね。」オリヴィアは、皆の出発を見送った。
────
「デイヴィッドは、連れて来なくて良かったのか?」ハーヴィは、一緒に配達するエドワードに尋ねる。
「ええ。兄さんには、留守番してもらはなくては。」エドワードは、周囲を確認しながら、テキパキと郵便物を配達する。
「・・・」ハーヴィは、エドワードの本心に気づいていた。
「エドワード様、こちらはまだ犯人と思しき人物はおりません。」ベンとチャーリーのチームとは、集合地点で落ち合った。
「もう日が暮れる。ここからだよ。」エドワードの声で、再び二手に分かれて行動する。
────
路地裏にて。
「だからよぉ、何度も言っているだろ?こっちに来さえすりゃいいのさ。」
同一人物の薄気味悪い男が、またまた幼い子供を攫おうとしていた。
「ぼ、僕は、お兄ちゃんのところに帰らないと・・!」
幼い男の子は、必死に逃げようとするも、逃げた先には壁があって行き止まりだった。
「ほら、こっちに来ないと・・」薄気味悪い男がそう言いかけた瞬間、男の首筋に鋭利な刃物が当てがわれる。
「だ、誰だっ!!あんた!」男が冷や汗が出つつも、後方にいる人物を見ようとする。
「お前に名乗る名などない。大人しく、組織のアジトに向かってもらおうか。」
刃物を男に当てがう人物は、どうやらチャーリーのようだ。
「お、俺の仲間はっ!!」いつものやり口で、2人組で行動しているもう一人の方は、ベンがちゃんと捕まえ気絶させていた。
「な!!なんなんだよ、あんたら・・。」男は、観念したのか抵抗をしなくなった。
「あなた方は、こうやって子供を誘拐して、麻薬取引の足にさせようとしていた。
そしてあなたの属する組織は、貿易会社を営むNo.70組織ですね。」
エドワード達は、素性がバレないように仮面をしていた。
「な、なぜそれを!!はっ・・・」男はハッとして自分の口を噤む。
「それでは、あなた方組織のリーダーの元へ連れて行ってもらいましょうか。」
エドワードは、優しい声色だが、どこかダークな雰囲気を纏っていた。
ドン!!
「ん?なんだ?お前ら帰ってきたのか?」ドアが開く音で、組織のリーダーらしき人物は、ドアの方を見る。
エドワード達は、薄気味悪い男に口を割らせアジトの場所を聞きやってきた。
「誰だてめえ?」組織のリーダー格は、異変に気付いたのか、エドワードに迫る。
「子供達はどこにいるんです?」エドワードは質問には答えず、リーダーに尋ねる。
「子供達だあ?あんた、警察官じゃねえな。それより、外の連中はどうした。」
外に仲間がいるのに騒ぐ様子もなく、リーダーの男は少々焦る。
「手荒な真似はしてしまいましたが、あなた方がなさっている行為ほど酷いことはしていませんので、お許しください。」エドワードは、皮肉なことを言う。その頃、
外にいたリーダーの手下達は、ハーヴィ達によって気絶させられていた。
「っ!ははははっ!!!残念だけどよぉ、子供達はあっちの部屋で麻薬漬けだぜ?」
リーダーの男は、不気味に笑い、右側の部屋を指差す。
「麻薬取引の足にしていただけではなく、子供達に麻薬まで飲ませていたと・・。
まあ容易に想像はできていました。ですが、それだけのことをしていたのだから、
許されることではありませんよ?No.70組織さん。」
エドワードは、新事実を知り顔を歪める。
「はは!組織の仕業とまで分かったとは、あんた相当な強者だな!だが、許されることじゃないからって、どうするんだ?!?逮捕するってか?」
男はギャハギャハ笑っている。
「いいえ、逮捕などという無意味なことはしません。ただ、あなたに鉄槌を下すだけです。」エドワードはそう言って、一気に男の左胸目掛けて剣を一刺しする。
「ぐはっ!!!!!!!!」男は、口から大量に血を吐き出す。
「おま・・え、なんも・・分かって・・ねえ・・な。こんな・・・こと・・すりゃ・・・組織の・・・裏切り者・・・として・・・ロードに・・殺されるだけ・・だ・・。」男は、最後にハハと笑いながら言っていたが、すぐに息絶えた。エドワードの仮面の奥から、真紅に輝く冷酷な瞳が男を見据えた。
「・・・。今はそれで、いい。」エドワードは、倒れた男を少し見つめ目線を逸らす。
そして、そのアジトには火を放った。
その後、子供達は解放され、元の生活に戻ったが、麻薬漬けにされていたせいか、後遺症も酷かったらしい。
しかし、世間には、この事件はNo.70組織が子供を誘拐し麻薬漬けにしていたとは公表されず、何者かが子供達を救おうとしていたNo.70組織を襲ったという事件に仕立て上げられた。
「聞いたかい?あんた。あの貿易会社を営む組織さん達が皆殺しだってよ。」
「物騒なことが起きたもんだよ。しかも麻薬をしていた子供達を救おうともしていた組織みたいじゃないか。酷い話だよ。」
「ああ恐ろしい。誰がそんな悪魔みたいなことをしたんだかねえ。」
町中、エドワード達が起こした例の事件で騒がしかった。
「エドワード。証拠は全て回収したんだね?」デイヴィッドとエドワードは、町
人の噂話を余所に歩いていた。
「もちろんです。その後、組織の人間が検証しに来たとしても、何も見つからないように、証拠となるもの全てはこちらで回収いたしました。」
エドワードは、やるべきことは全てやっていた。
「私たちは、こうやって生きていくんだね。」デイヴィッドは、少し苦しそうな表情をする。
「・・すみません。僕があの時提案したばかりに、兄さんまで辛い思いをさせてしまい。」エドワードは、デイヴィッドの表情から罪悪感に苛まれた。
「いや、エドワードが悪いわけではないよ。私もその道に進むと一緒に決心したからね。だけど・・我が弟が、大切なエドワードが、悪魔だなんて罵られる言葉は、聞きたくないんだよ。」デイヴィッドは、悔しそうに奥歯を噛み締める。
「僕は、大丈夫です。兄さんが一緒なら、僕はずっと大丈夫なんです。」
エドワードは、デイヴィッドの方に笑顔を向ける。すると、デイヴィッドはその笑顔につられて、共に笑顔になった。
────
数日後、屋敷にて。
「それで!エドワード!聞きたいんだが、なんでアイツらがあの日に子供を攫うって分かったんだよ!天才だから分かりましたじゃ、俺らは分からねえだろうが!!」
ハーヴィは、なぜか怒りながら尋ねていた。
「朝からうるさいぞ。お前少しは黙れないのか。」チャーリーは眠そうな顔で、ソファに横になる。
「確かに、それも謎ですが、No.70組織が犯人だってすぐに気付いたみたいですし、
その辺の謎もお聞きしたいです!」ベンは、ワクワクしながらエドワードの解答を待った。
「ごほんっ・・。そんなにお聞きしたいのですか?もう事件は終わったというのに。」エドワードは、なぜか言うのを躊躇っていた。
「いいじゃないか、エドワード。私も実は気になっていたんだ。」デイヴィッドは、広げた新聞を畳む。
「仕方ありませんね。まず、あの日は晴れていました。ですが、その前の日までずっと雨が降っていましたね。子供達が被害に遭った日の共通点が、晴れの日だったと言うわけです。雨が降られていると、視界が見えづらくなりますし、色々犯行には不向きな天候だったのでしょう。かと言って日中に誘拐なんてできませんからね。」
エドワードは、一つ目の謎を解き明かす。
「なるほど!!被害の日の共通点を見出していたのですね!」ベンは、嬉しそうに前のめりになってエドワードの話をよく聞く。
「そして、なぜNo.70組織だと分かったかについては、こちらは明確です。
この町に、貿易会社を営む組織は一つしかないからです。他国と商品などの取引を行う唯一の場所ですから、そこから麻薬やら何やらの違法な薬を取引していたのでしょう。そして、国内の麻薬取引のために自分達が動くわけにもいかず、子供達を使っていたといったところでしょうか。」エドワードは、安安と二つ目の謎も明かす。
「しかし、子供達まで麻薬を飲ませていたとは、組織ってのは、やっぱとんだ連中じゃねえな。」
ハーヴィは、両手を前にギュッと力強く組んだ。
「ええ。恐らく意識障害を起こさせるためでしょうが。ハーヴィはやはり、麻薬に関しては、かなり敏感ですね。」
エドワードがそう言うと、ベンが首を傾げる。
「ハーヴィさんは、麻薬のことで何かあったのですか?」
ベンがエドワードにハーヴィの過去について尋ねた。
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