二人の少年



エドワードとデイヴィッドは、市場で出会ったヘンリー・ジョン・ホワイト伯爵の屋敷に来てから半年が経った。彼らは養子として迎え入れられたのだった。



「エドワード兄さん!デイヴィッド兄さん!紅茶を淹れたの!」


彼女は、エドワードより2つ下の8歳のホワイト伯爵の実娘。貴族の娘にしては、孤児であった二人のことを快く思っていた。



「ああ、オリヴィア。ありがとう。テーブルの上に置いてもらってもいいかな?」

デイヴィッドは、新聞を読んでいる手をとめ、オリヴィアに言う。


「エドワード兄さんも、テーブルでいい?」

オリヴィアは、エドワードが返事をしないことを不安に思う。


「エドワード。オリヴィアが泣きそうだぞ?」

デイヴィッドの指摘で、エドワードはじっくり読み込んでいた本から顔を上げる。


「あ!ごめん、つい本に夢中になっていた。オリヴィアごめんね?

僕は今飲むよ。」

そう言うと、オリヴィアはぱあっと明るい表情になって、エドワードに紅茶を渡す。



「今日は、アールグレイにしたの!エドワード兄さんが好きな紅茶よ!」

オリヴィアはエドワードが飲む姿を嬉しそうに見ていた。


「ほんと、オリヴィアはエドワードのことを相当気に入っているみたいだ。

実兄の俺は、泣けるね。」

そう言って、リビングに来たのは、ホワイト伯爵の実の息子で、次期当主の

ギルバート・ジョン・ホワイト。デイヴィッドとは2つ年上の17歳。彼もまた、二人を養子として歓迎している。




「ギルバート兄様は、私に意地悪だからよ!エドワード兄さんは優しくしてくれるわ!デイヴィッド兄さんだって!」

オリヴィアは、ギルバードに向かって不満をぶちまける。



「はは、よかったよ。オリヴィアが二人のことを気に入ってくれたみたいで。

父様も喜んでいるはずだ。」

そうギルバートが言うと、


「ギルバート様。ホワイト伯爵はまだ出張で?」

エドワードが、ギルバートに小声で聞く。


「ああ。少し予想外なことが起きているみたいなんだ。だが、なんの心配もすることはないぞ!それから、エドワード!デイヴィッドのように、俺のことも兄さんって呼んで欲しいんだが?」

エドワードは深刻な顔をしていたが、呼び名を指摘され顔が緩む。


「そ、それは!」


「もう俺たちは、兄弟なんだ。エドワードもデイヴィッドも、オリヴィアも俺も、

4人合わせて本当の兄弟なんだから、そんな堅苦しい呼び名はよしてくれ!」

ギルバートは、ニコッと微笑む。エドワードは、その言葉でホッとした。自分も受け入れられているんだと言うことを。


振り返ると、デイヴィッドとオリヴィアは、エドワードに笑顔を向けていた。




しかし、そんな穏やかな生活は長く続くことはなかった。







──とある晩の日。


「なんだか今日は父様が帰る日じゃないみたいだわ。」

夕飯を兄弟4人でしていた時、オリヴィアがボソッとつぶやく。


「大丈夫だよ、オリヴィア。父様は遅くなるって言ってたけど、今日必ず帰ってくるよ。」

ギルバートは、長男らしく、妹のオリヴィアの不安を取り除こうとしていた。




夕食後、ずっと不審に思っていたエドワードとデイヴィッドは、ギルバートの部屋へ訪れた。



コンコン


「ギルバート兄さん。ちょっといいですか?」

デイヴィッドが扉をノックして先に入り、続いてエドワードも部屋に入る。


「ん?こんな夜分に何かな?」ギルバートはわかっているような顔だが、あえて誤魔化していた。


「勘のいい兄様なら、僕たちがここへ来た理由をお分かりのはずだと思いますが?」

エドワードが核心をつくことを言う。


「はは、君はやはり10歳とは思えない洞察力を持っているみたいだ。」

ギルバートは参ったといった表情をする。



「それで、本題に入りますが、お父様は出張から帰ってくる予定日から大きくずれ込んでいますが、何か問題があったに違いませんね?どうかお話しいただけませんか。」

エドワードは、ギルバートに真相を迫る。


「・・・・それが、父様と僕が所属する組織でちょっと問題があってね・・」

かなり言いづらそうな語り口で、ギルバートは話し始める。


「兄様達が所属する組織とは、治安維持を主に行う組織でしたね?お父様はその組織の幹部でもある。ここ最近物騒な事件が起きている様子もないですし、何か問題があるというならば、内部で意見の食い違い、もしくは既に事件が起きている。そう考える方が妥当でしょう。」

エドワードが、子供ながらに推測して物を言う。


「エドワードにはお見通しだってことか。」

ギルバートはもう諦めたのか、全容を話す覚悟が決まったようだ。




「そう。俺たちの組織は、街の治安維持組織に過ぎなかった。兵士帰りの者たちもかなり所属する強豪組織だから、街の人も安心していたし信頼していた。俺たち組織に。しかし、・・・・俺たちの組織のトップが、麻薬取引場としてこの組織を利用していた。その麻薬を市民に売りつけたり、挙句の果てには小さな子供にまで麻薬を売りつけていたそうだ。・・・・」

ギルバートは、悔しそうに奥歯をギシッと噛み締める。


「そんなことが、行われていたとは・・。」デイヴィッドも予想外の出来事で驚いていた。


「それだけなら、問題は早く解決するはずです。トップを麻薬取引の疑いで警察に突き出せばいい。証拠なら十分にあるでしょう?」

エドワードは、さらに物事を見据えていた。




「そうなんだが・・・」ギルバートは、その先を言えないでいた。


「それは兄様達の組織だけの問題ではないのでしょう。それももっと上の組織、ボス組織といった所から指示された事を、兄様達のトップは行った。だから、証拠が掴めないし、組織に逆らうことは自身の命を奪うも同じ行為だから複雑な心境なのでしょう。」

エドワードは的確に述べる。


「全くその通りだ。だが、父様はただ一人組織の悪行を世間に知らしめようと尽力している。今後2年も経てば、組織体制化は完成するだろう。国民は組織によって自身の平和は保たれるし、独裁政治が行われていた暗黒時代とは違い、治安は維持され、

自由権も存在する世界になると大いに期待している。」

ギルバートは、組織体制の全容を話す。


「実際、今は完全支配ではなくとも、政府とは違うボス組織を始めとする派生組織のおかげで、治安維持や労働者失業率減少も実現し、国民は組織ありきの自由と平和があると本気で思っている。」

デイヴィッドも組織体制の異変を知っていた。



バンッ!!!!!!!!!!!!!

すると、大きな爆発音が屋敷外で聞こえた。




「なんだ?!?!」ギルバートが窓の外をバッと見る。


「くそっ!!やはり来たのか!!デイヴィッド、エドワード!

襲撃してきたのは組織の者達だ。ここは俺に任せてくれ。

だから、オリヴィアと共に地下室に避難していてくれ!!!」

ギルバートは伝えるだけのことを伝え、すぐに部屋から出て行ってしまった。





「エドワード、オリヴィアを連れて地下室へ逃げよう!」

「いや、僕はやることがある。兄さんは、オリヴィアと共に地下室へ。」

エドワードは、オリヴィアをデイヴィッドに託し行ってしまった。


「全く、我が弟は予想外な行動を毎回する。」

デイヴィッドは、そう呟き、オリヴィアの元へ急ぐ。






「何の真似だ!」その頃、ギルバートは屋敷から出て組織の者たちと接触していた。


「ギルバート様、申し訳ありません。ですが、これはロードよりご命令を授かり参りました。」


ロード率いるボス組織が、組織の裏切り者としてギルバートとヘンリーを指名手配していた。


「父様はどこにいる?!」ギルバートがそう叫んだ後、血だらけになっていたヘンリーがギルバートの前まで、蹴飛ばされた。


「な!!なんだ、これは・・!よくも、父様を!!!」ギルバートは怒りで体が震えていた。


「抵抗するなら撃つ。だが降参すると言うなら、身柄を確保する。」

ギルバートは歯を食いしばり、死に際の父様を強く抱く。



「(父様は、市民のために組織の悪行を知らしめたく、組織に抵抗をしていた。


だが、こんなにも痛ぶられ、傷つけられ・・今息を引き取る寸前まで追い詰められているっ・・!!)


なら、俺は・・父様の意志を継ぐ・・・」ギルバートはよろめきながら、立ち上がる。



「ギル・・バート!・・よせ・・お前まで・・・死ぬことに・・なる・・

エドワード達と・・共に逃げろ!」

ヘンリーは、最後の力を振り絞って、ギルバートを止めようと声を掛ける。


「それは、無理なお願いだよ、父様。それに、オリヴィアやエドワード、デイヴィッド達、関係のない子たちを巻き込むわけにはいかないっ。」

ギルバートは、もう意志は決まっていた。



「何をコソコソと話している!!!抵抗するなら容赦無く撃つぞ!!!!」

武装した組織の兵士の一人が、痺れを切らし叫ぶ。





「お前らみてえな組織は、あっちゃならねえ。市民の平和を守るとうたいながら、

実際はただのクソ組織!!それに父様までこんなふうにされて、誰が黙って逃げるかよ!!!」

そう言って、多数いる兵士の中に、ただ一人ギルバートは突っ込み銃を乱射した。

しかし、ギルバート一人に対し、相手は100を超える武装集団で敵うはずはなかった。



「屋敷内にいる娘はどうする。」

「いや娘の抹殺は、命令されていない。退散するぞ。」


そう言って武装集団は、任務を果たし退散して行った。






「ギルバート兄さん、お父様っ・・」

そこへエドワードがやってきた。エドワードは、ずっと物陰から先ほどの出来事を見ていた。ギュッと手を強く握り、血が出るほど唇を噛み締めながら。





「エド・・ワード・・ごめん・・な・・。お前に辛い・・選択を・・させてしまった・・。」

ギルバートは、銃弾を何発も食らってまともに話せないが、力を振り絞る。



「僕たちがここの養子だとは、世間には知られていない。」


「ああ・・・あそこで・・・エドワードが出てくれば・・オリヴィアもデイヴィッドも・・・殺される・・・。組織は君たちに、俺たちの死は不慮の事故だと告げるだろう・・・。」

ギルバートは話すことが困難になり、多く口から血を出している。



「もしあそこで、僕が出ていれば・・・組織へ復讐を誓う大義名分ができてしまう。

そうなれば、僕たちは追われ、必ず殺されるのですね。」

エドワードは、この複雑の中でも物事の本質をちゃんと理解していた。


「そう・・だ。さすがエドワード・・だ。俺の・・大切な・・賢い・・エドワード・・」

ギルバートは、息絶えたのか、もう口を開くことはなかった。

そして、ヘンリーの方は、もう手も顔も冷たくなっていた。







そして、エドワードは屋敷に戻りデイヴィッドたちに事のあらましを伝える。

オリヴィアはまだ幼いため、何が何だかわかっていないが、お父様とギルバートが殺されたことは分かり、泣き喚いていた。







「・・兄さん。この世界は、なぜこんなに汚いんでしょうか。

ギルバート兄様もお父様も正しいことをしているだけなのに、こうやって殺されてしまう。善人では、悪に立ち向かえない・・・」

エドワードは、静かに感情の高ぶりを抑えていた。


「・・エドワード・・。」デイヴィッドは何も言えなかった。


「きっとお父様が僕たちをここへ連れてきたのは、この事件の結末を知っていたからです。だから、僕たちの頭脳を見定め、養子として迎えた。

そして、僕たちに、この世界に変革をもたらすきっかけを与えた。」


「組織体制の本質を知らせることで、私たちなら世界を変えられると思ったと?」


「ええ。だから、もう僕たちは戻ることのできない選択をしましょう。

悪には、悪で対抗するしかない。ギルバート兄様とお父様は、僕たちに初めて

人の温かさを与えてくれた。だから・・・彼らのためにも、僕たちが世界変革の

悪役になる他はない。」




エドワードはそういった幼少期を経て、組織に立ち向かう決意を決めた。

デイヴィッドもエドワードの意見に賛成し、彼らは辛い選択をしたのだった。




これはエドワードの心優しい気持ちと天才的な頭脳が引き起こした

史上最悪事件の幕が上がりつつある予兆であった。



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