第1章
始まりの物語
「お姉ちゃん!この本の続きを読んで!」
「わっ、もうサラったら走ったら危ないでしょう?」
「えへへ!それより、昨日の本の続き!!」
「これ気に入ったの?」
「うん!だって、これお姉ちゃんが書いた本でしょ?」
そうこの本は、約5年前に起きたとある事件を物語にした本。
そして、この本は、私の兄達の物語だ。
「でも、なんで悪い人たちを倒しているこの人たちが、皆にとって悪役になっちゃったの?」
「うーん、それはね、とっても長い話になるんだけど・・・・」
これはとある二人の兄弟が企てた世界を変える物語。
──────
15年前。
まだ闇組織が国を支配する前の話。
エドワード・ジョン・ホワイトは、生まれた時から孤児院で育ち、天才的な頭脳を持っていた。識字率が未だ低いままの貧民街では、非常に珍しい少年であった。
「エドワードお兄ちゃん!ここの問題教えて!」
一人の少年が、エドワードが座る席にやってきた。
「いいよ。これはね・・」
エドワードはにっこりとその少年に笑いかけ、問題を教えてあげる。
すると、エドワードのところへ一人の少年がきた。
「エドワード、支度はできたかい?」
「兄さん!もう行けます!」
エドワードの兄 デイヴィッド・ジョン・ホワイトは、エドワードの実兄で
5つ年が離れていた。
彼も子供にして、読み書きはもちろん論文でさえ理解できる頭脳だが、エドワードはそれよりも遥かに頭脳明晰だった。
「また難しい問題をあの子に解かせていたのか?」
二人は、孤児院の子達の食料品を市場まで買いに行く。
「いえあの子が、読み書きができるようになったから、難題が解きたいと
言っていたんです。だから、それで教えていただけで。」
「そうか。孤児院の先生達も読み書きはできても、それ以上の教育はできない。
しかし、賢いエドワードがいることで、皆勉強することに興味を持ち始めた。いい傾向だな。」
デイヴィッドは、エドワードの頭に手を置いた。
「僕なんか、全然。ただ、持ち合わせている知識で、皆を幸せにできるなら、
それだけでいいんです。」
エドワードは、照れながらにっこりと笑った。
二人が市場まで辿り着く頃。
「キャー!!!!!泥棒よ!!!!」
一人の婦人の叫び声が市場中に響き渡った。
「どうされましたか?」
デイヴィッド達は、婦人の元へと駆け寄った。
「わ、私の、鞄を盗まれたの!どうしましょう!」
婦人は慌てて、気が動転している。
「落ち着いてください。私たちがその犯人、探してみましょう。」
デイヴィッドは、婦人の背中を揺すって、落ち着かせて言った。
「なっ、あなたたち子供じゃない?そんなことっ・・」
「いいえ。僕たちは子供ですが、犯人を捕まえられる自信があります。」
「そ、そんな自信どこから・・」
婦人が疑心暗鬼に、彼らを見つめる。すると、エドワードは背中を見せて、
にっこりとした表情で振り返り、こう言い放った。
『僕、天才なので。』
デイヴィッドは、全くと笑った。
「では、犯人の特徴をできる限り教えてください。」
それから婦人から得た犯人の特徴をもとに、エドワード達は推測する。
「婦人が犯人を見たのは一瞬。しかも背中だけ。
服装は黒のジャケットに黒のズボン。それに黒い帽子も被っていた。」
エドワードは、婦人から聞いた特徴を頭で整理する。
「それで、エドワード。お前はどう犯人を特定する?」
デイヴィッドは、エドワードに問いかける。
「・・そうですね。これは初歩的な犯行なので・・
こういった路地を一つずつ見てみれば・・」
そう言いながら、エドワードとデイヴィッドは、路地を隈なく探索し始める。
「ほら、いた!」
エドワードの言う通り、路地裏に一人の男が潜み、奪った鞄の中身を確認していた。
「だ、誰だ・・」男は、驚いた顔をして、かなり焦っている様子だった。
「僕の正体はどうでもいいんです。それよりあなた、先ほど婦人の鞄を盗みましたね?」
エドワードは、男の手に持つ鞄を指差す。
その頃、デイヴィッドは、街の警察に通報しに行っていた。
「な、なんのことだ!これは俺の鞄だ!」
男は大事そうに鞄を抱き抱える。
エドワードはフッと笑う。
「そうですか?あなたの鞄にしては、レディース物ですし、
あなたがここで買い物するために、持ってきた鞄というのは些か変です。」
そう言って、エドワードは男の爪を指す。
「あなたの爪。」
「え。」
「泥が爪に入り込んでいますね。それは日頃から農作業か何かをされているのでしょう。なのに、こんな小さくて高価そうな鞄は持ち歩かない。
それに、何よりも証拠なのは、鞄からリップが出てきていますね?
男性でも美意識が高い方なら、リップを持っていてもおかしくはありません。
ですが、あなたの唇は、ご自身でもお分かりの通り、荒れており血も滲んでいる。
それは、日頃からリップなど使用されていないという立派な証拠だ。」
「くっ!!」
そこまでエドワードが指摘したところで、デイヴィッドと共に婦人がやってくる。
「そ、その男ですわ!それにそれは私の鞄!!」
婦人は男と鞄を確認し、警察が4人程度来た。
「犯人だ!身柄を確保し、逮捕する!!」
その後、男は無事逮捕され、婦人にはしっかり鞄が受け渡った。
「エドワードお手柄だね。しかし、なぜ路地裏にいるとわかったんだい?」
デイヴィッドは事件解決後に、エドワードに尋ねる。
「これは容易な事件です。全身真っ黒に身を包む人が、ずっと市場にいるのは不自然です。それに婦人はその男の特徴をわかっており、周囲の人間もそれを目撃している。かと言って、遠くに逃げることは不可能です。」
エドワードは、順を追って説明を始める。
「それはなぜ?」
「まず第一にここは森林で囲まれています。しかし鉄道などで逃走することは人目が多くて仕方がない。だから遠くには逃げられない。それが1つ目の理由です。
そして、2つ目は彼が農夫だからです。」
「農夫だから・・。」
「ええ。この街で貧しい暮らしをしている農夫なんでしょう。
加えてお子さんもいるようです。彼の胸ポケットに、家族写真がありました。
おそらく、生活が限界を迎え、普段しないような泥棒に手を染めた。」
エドワードの観察力は、兄のデイヴィッドが感嘆するほどの素晴らしさであった。
「なるほど。家族がいるから、尚更遠くに逃げることはできないと。
だから手っ取り早く路地に隠れ、夜になるのを待ち家へ帰ろうとした。」
「その通りです。彼は完璧な悪人ではない、だから犯行は綿密ではない。
ただ家族のためにお金が欲しかった、といった所でしょう。」
すると、デイヴィッドではない人物が拍手をした。
「素晴らしいね、君たち。先ほどからずっと見させてもらったけど、
特に君の推理力は、大人顔負けの頭脳を持っているようだ。」
髭を生やした高貴な中年男性が、エドワード達の前に現れた。
「そんなことはありません。誰しも見えている情報から辿れば、事件は解決します。
たとえ目に見えないようにされても、真実は確実に見える仕組みになっていますから。」
エドワードのその解答に満足したのか、中年男性はニヤニヤした。
「ははっ!!!君は本当に面白い!!そこらの子供達じゃないようだ!
どうだね?私の家に来ないか?」
中年男性は、二人の少年に手を差し伸ばす。
「家に、・・。」
デイヴィッドは目を見開く。
「ああ。君たちのその頭脳が欲しい。
そして、君たちには私の権力を渡そう。」
「それがあなたの見返りですか?いいでしょう。」
エドワードはそう言って、なんの躊躇いも見せずにその男の手を取った。
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