第47話 坐剤をお尻に入れられた 2

 看護師さんは僕にお尻の力を抜くように命じた。


 しかし、お尻の力を抜くって言っても・・・僕はそんなに簡単にはできなかった。僕はなんとかお尻の力を抜こうと努力したが、どうしてもお尻に力が入ってしまうのだ。どうすればいいのだろう? 僕はお尻をもぞもぞさせた。そのときだ。何とかお尻の力を抜こうと、お尻の筋肉を緩めようとしたときに・・・僕は看護師さんの顔に向けて、うかつにもプーッとおならを洩らしてしてしまった.。深夜の病室に僕のおならの音が高らかに響き渡ったのだ。・・・あー、恥ずかしい!


 看護師さんは僕の後ろにいたので姿は見えなかったが、僕のお尻の穴を両手で広げていたのだ。僕の推測だが、このとき看護師さんはお尻の穴を広げて、坐剤を入れる前に痔のような傷があるかどうかを調べていたのだと思うのだ。このため、看護師さんが僕のお尻の穴に顔を近づけていたことは間違いない。僕は、そんな態勢でいる看護師さんの顔に向けておならを発射してしまった! お尻の力を緩めなさいと言われたので・・・力を抜いたつもりが、なんとおならが出てしまったのだ。


 看護師さんの顔に向けて、おならを発射するなんて・・・まるでテレビでやっているコントのような状況だ。僕は看護師さんには申し訳ないが、なんだかおかしくなった。自然に僕の口に笑みが出てしまった。その瞬間だ。僕のお尻の力がさらに緩んだ。そして、僕のお尻からさらにプーッ、プーッと二発続けざまにおならが出てしまったのだ。今度はさっきよりも若干低い音が二つ、僕の病室にとどろき渡った。


 僕は合計三発のおならを看護師さんの顔に向けて発射してしまった! しかも、よりによって看護師さんが顔を僕のお尻の穴にぐっと近づけているときにだ!!!


 今度はさすがに僕の顔から火が出た。僕の顔は恥ずかしさで真っ赤になってしまった。僕はお尻に片手をまわして、お尻の穴の上を手の平で覆った。もしもさらにおならが出ても、もう看護師さんの顔に当たらないように防御したのだ。僕の口から思わず声が出た。


 「ご、ごめんなさい。どうも、本当に、申し訳ありません。何と言っていいか、本当に、す、すみません」


 看護師さんが笑った。なんだか、彼女が手で僕のお尻の丘のところを軽くポンと叩いたような気がした。


 「いいですよ。人間ですから。お尻の力が緩んだんですね」


 しかし、さすがに三発のおならが出ると・・・もうすっかり、お尻の力が緩んでいるのが僕にも判った。看護師さんが今だと思ったのだろう。すかさず僕に声を掛けた。


 「では、お薬を入れますよ・・・力を入れず、そのままで、楽にしていてくださいね。力を入れないでくださいね」


 いよいよだ。僕はお尻に力を入れないように注意しながら、全神経をお尻の穴に集中させた。


 看護師さんは今度は人差し指と親指を使って、僕のお尻の穴をさらに大きく押し広げた。そして、もう一度顔を穴にぐっと近づけた。


 次の瞬間、僕のお尻の穴に何か異物が当たった。お尻の穴にひやりとする感触があったのだ。すぐに、その異物が坐剤だと分かった。そして、異物がゆっくりと穴に挿入されたが・・・そのとき、僕のお尻の穴の筋肉がすっとしぼんで、異物をはね返してしまった。・・・あれっ、外に出てしまった!・・・なんと僕のお尻の穴の筋肉によって、異物がお尻の穴の外に戻されてしまったのだ。お尻の穴が異物を拒否している。・・・こんなことがあるのか!


 すると、看護師さんが今度は異物をお尻の穴の中に少し差し込んで、そのままで回転させたのだ。お尻の穴の入り口で何回か回転させると、異物の表面が僕の体温で溶けて、ぬるぬるしてきたのが僕にも分かった。それから看護師さんは異物をゆっくりと僕のお尻の穴に挿入した。溶けたところが潤滑剤になっているのだろう。今度は比較的スッと中に入っていった。異物がお尻の穴の筋肉をこすりながら中に入っていくのが、僕にもよく感じられたのだ。


 異物がお尻の穴の入り口の筋肉をこすりながら通過していって・・・次に看護師さんの指が僕のお尻の穴の中に少しずつ入ってきて・・・看護師さんの指が異物をお尻の穴の中にさらに押し込んでいった。僕のお尻の穴の筋肉が異物をまた拒絶しようとして、すっと縮んだのだが・・・お尻の穴の筋肉は異物ではなくて、今度は看護師さんの指を強く挟みこんでしまった。看護師さんは構わず指を中に入れていく。お尻の穴の筋肉が看護師さんの指でこすられる感触があった。そして、異物が奥に進んでいく感触がした。・・・あっ、あっ、入っていく!・・・次の瞬間、ストンという感じで、直腸の中に異物が転がり落ちたのが分かった。


 中に入った!


 お尻の穴の筋肉は看護師さんの指をくわえたままだ。そして、看護師さんが指をお尻の穴からそっと引き戻してくれた。今度はお尻の穴の筋肉に挿入されるときとは違う摩擦感があった。お尻の穴の筋肉が指と一緒に連れられて、お尻の外に引っ張り出されるような感覚だ。・・・そして、お尻の穴から看護師さんの指が離れた。その瞬間、僕のお尻の穴の筋肉がすっと閉じたのが分かった。そのとき、僕は小さくスポッという音がしたように感じた。


 まったく痛くはなかった。正直、僕は坐剤が怖くて、お尻がさぞや痛いだろうとビクビクしていたのだが・・実際に坐剤を入れてもらうと、思っていたよりずっと簡単だった。それから看護師さんは僕のお尻の穴に、人差し指だと思うが、指を当ててお尻の穴の出口を少し強く押さえたのだ。


 「中から薬が出てくることがありますから、しばらくこうして指で押さえていますね」


 それから看護師さんは1分ほど僕のお尻の穴の出口を押さえてから指を離した。坐剤は中から出てこなかった。僕のお尻の中では、もう異物の感触は完全になくなっていた。僕のお尻の方から看護師さんの声が聞こえた。


 「はい。終わりましたよ」


 僕は思わず安堵のため息をついた。フーッという音が僕の病室にひびいた。それを聞いた看護師さんが笑った。そして笑いながら僕に聞いてきた。


 「怖かったですか?」


 僕はよく聞き取れなかった。看護師さんはビニールの手袋を外しながら、もう一度聞いてきた。


 「どうですか? 坐剤を入れられるのは怖かったですか?」


 僕は正直に答えた。


 「ええ、とても怖かったです。僕は坐剤を入れられるのはこれが初めてだったので、かなりお尻が痛いんじゃないかと思っていました。正直、どうなることかと思ってビクビクしました」


 「でも、ちっとも痛くなかったでしょ?」


 「はい。うまくお尻に入れていただいたので、まったく痛みはありませんでした」


 看護師さんがもう一度明るく笑った。看護師さんの笑顔が僕にはなんともまぶしかった。


 こうして、僕の坐剤初体験は無事に終了したのだ。


 僕は看護師さんに本当に申し訳ないことをした。看護師さんの顔に三発もおならを発射してしまったのだ。結果として、おならのお陰でお尻の力が抜けて、坐剤をスムーズに入れてもらうことができたのだが・・・やっぱり、いま思い返しても、顔から火が出るように恥ずかしいのだ。ここで謝罪をしておきたい。


 あのときの看護師さん、本当にごめんなさい。お尻の穴をチェックしようとして、そして坐剤を入れようとして、僕のお尻の穴に顔を近づけていただいたのに、その顔に向けて僕は三発もおならを洩らしてしまいました。本当にごめんなさい。

 <(_ _*)>ぺコリ 。


 しかし、看護師さんにせっかく入れてもらった坐剤なのだが、あまり効果がなかった。坐剤によって汗は充分に出たのだが、何故か熱が少ししか下がらなかったのだ。翌朝、岸根医師が来てくれた。


 「点滴でも坐剤でも熱が下がらなかったんですか?・・・」


 岸根医師が首をひねった。


 「ひょっとしたら、抗生物質を替えないといけないかもしれません。ちょっと、血を採らせてもらって調べてみましょう」


 そして、岸根医師は看護師さんに言って、僕の腕から採血を行った。不安に駆られて、僕は恐る恐る聞いた。


 「先生、解熱剤でも熱が一向に下がらないという今の僕の身体は、いったいどういう状態なんでしょうか?」


 「実は体内に耐性菌ができている可能性があります」


 「耐性菌?」


 「ええ、減少している白血球の代わりに、抗生物質が外から体内に入った菌をやっつける働きをするわけですが、同時に抗生物質は人間の体内にいつもいる常在菌の活動を押さえることもしているんです」


 「常在菌ですか?」


 「ええ、常在菌というのは人間の体内に普通にいる大腸菌なんかですね。それで、同じ抗生物質をずっと使い続けると、常在菌が抗生物質に耐性を持ってしまって、抗生物質が効かなくなるんですよ。これが耐性菌です」


 「なるほど・・・では、その耐性菌ができたら、もうどの抗生物質もいっさい使えないんですか?」


 抗生物質が使えない? もし、そうなったら・・・それは大変だ。


 「一口に抗生物質と言ってもいろいろな種類があります。耐性菌というのは抗生物質全体に対して耐性ができるのではなく、使い続けた抗生物質にだけ耐性ができるのです。だから、違う種類の抗生物質なら効果があるのです・・・それでは、今日の朝10時の抗生物質の点滴から、別の抗生物質に替えてみましょう」


 10時になると、看護師さんが吐き気止めなんかと一緒に新しい抗生物質の点滴薬を持ってきてくれた。


 すると、これが効いたのだ。半日もすると、熱は平熱に下がってしまった。それから、二三日して岸根医師が病室にやってきた。持っていた紙を僕に見せると、こう言った。


 「先日熱が出たときの採血の結果なんですが、血液中に常在菌の影響が検出されると思ったんですが・・・常在菌の影響は検出されませんでした」


 すると、常在菌の影響で熱が出たのではなかったのか? 


 僕はそう思ったが、熱はもう平熱に戻っているのだ。僕はそれ以上は深く考えなかった。考える必要はないと思っていた。


 実はこのことが後に重大な判断を誤らせることになるのだ。それについては後で述べたい。(つづく)

 

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