第29話 骨髄穿刺検査でアウト 2
岸根医師は親身に相談に乗ってくれた。そして、僕と岸根医師は二人で次のような方法を考えついたのだ。
まず、今いる803号室の退院を金曜日の夕方とする。そして、月曜日の朝一番にまた病院に来て、再入院するのだ。この間の土日は病院が休みなので、何かの急患を除けば、入院患者は発生しない。つまり、土日に803号室に入院する人はいないのだ。そして、月曜に再入院するときに、もう一度803号室に入院するのだ。
こうすれば、まず確実に803号室に入院することができる。岸根医師が僕に確認した。
「ご自宅にいるのが、土日の二日だけになってしまいますが、大丈夫ですか?」
「ホントは1週間ぐらいは家で休みたいのですが・・・・冷気の問題がない803号室に入院できるならば、やむをえません」
岸根医師が笑った。
「よっぽど、805号室が大変だったんですね」
そして、僕はその通りに金曜の夕方に退院して、月曜日の午前中に再度803号室に入院した。
実はこのときに、買っていた女性用のショートボブのウィッグが大活躍してくれたのだ。僕はウィッグをつけて、迎えに来てくれた妻と一緒に自宅に帰った。そのとき、僕は気づいたのだ。近所の人と出会ったときに、頭がツルツルテンだと、いかにも抗がん剤の治療を受けていますと宣言しながら歩くようなものだと。
抗がん剤の治療を受けているのは事実なので、別に人に頭を見られたらダメだということはないのだが、会った人がツルツルテンの僕の頭を見て必ず「どうしたんですか?」と聞くのは間違いなかった。僕はいちいち知っている人に会うたびに「実は白血病で・・・」と説明しなければならない。これが僕には大変に面倒で煩雑だったのだ。
そこで、僕は買っていた女性用のショートボブのウィッグをつけた。女性用のショートボブのウィッグだと「あれっ、なんか髪形が変わりましたね」、「そうなんです。気分転換に髪形を変えました」で済んでしまう。女性用のショートボブのウィッグが無かったら、間違いなく僕は知っている人に会うたびに白血病のことを説明するという煩雑さに巻き込まれていただろう。女性用のショートボブのウィッグは僕をその煩雑さから救ってくれたのだ。僕は心からウィッグを買っていて良かったと思った。
さて、こうして月曜日の午前中に再度803号室に入院し、二回目の抗がん剤の点滴治療が始まった。岸根医師がまた太い針を僕の胸の血管に突き刺した。看護師さんが点滴セットを持ってきて、点滴のチューブを僕の胸につないだ。僕は再びチューブでつながれた生活になった。
二回目の点滴治療を開始する前に、僕はまた
僕は骨髄穿刺検査を楽観視していた。はっきり言って、骨髄穿刺検査は形式的なものではないだろうかと思っていた。だって、投薬治療の後に受けた骨髄穿刺検査では、白血球の異常は認められなかったのだ。その後、すぐに僕は第一回目の抗がん剤の点滴を開始している。前回の骨髄穿刺検査の後はずっと抗がん剤を点滴していたのだがら、その間にAPL(急性前骨髄性白血病)が進行するとは思えない。ということは、今回の骨髄穿刺検査で異常が出る要素はどこにもないじゃないか。
数日して、岸根医師が病室に骨髄穿刺検査の結果を持ってきてくれた。岸根医師はわりと気楽な様子でこう言った。
「二回目の骨髄穿刺検査ですが・・・・残念ながら、白血球に異常が認められました」
僕は飛び上がらんばかりに驚いた。
「えっ、本当ですか?」
「ええ、残念ですが・・・・この結果を見てください」
岸根医師が検査結果を見せてくれた。その紙には検査結果の細かな数字の下に「白血球に遺伝子の異常が認められます」と確かに記載してあったのだ。
えっ・・・・一瞬、思考が止まった。
頭から血が引いた。ぐらりと身体が揺れたような気がした。
そんなバカな! こ、これはいったい、どういうことなんだ! 僕の頭は混乱した。僕の頭の中で警鐘のベルが鳴り響いた。
何ということだ! 白血球に異常が見つかった! じゃあ、今までの治療は無駄だったのか! 大変なことになった!(つづく)
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