第5話 えっ、白血病? 5

 医師の電話は続いた。


「今日の骨髄液ですが、さっき急いで検査したところ問題が見つかりました。詳しくは明日の朝にお話しますが、とにかく入院の用意をしてきてください」


 入院だって! 思いもかけない言葉に僕の胸が騒いだ。僕は呆然としてたずねた。


 「入院ですか? 入院というと・・先生、どのくらい入院することになるのですか?」


 「さあ、かなり長期になります。とりあえず、明日は二三日分の準備だけしてきて、まずは入院してください。必要なものは後でお家の方に持ってきてもらってください。明日の朝一番に私のところに来てもらったら、そのときに詳しいことはお話します」


 明日の朝までだって! 今から12時間ぐらいあった。僕はそんなに長い間「どんな病気だろう?」と不安におびえながら待つことには、とても耐えられそうになかった。僕はたまらず医師に聞いた。


 「先生。一体なんの病気なんですか?」


 医師は「あなたにはお話しても大丈夫でしょう」と言うと、一拍おいて口を開いた。


 「急性前骨髄性ぜんこつずいせい白血病です」


 きゅうせい ぜんこつずいせい はっけつびょう?


 驚きはなかった。「はっけつびょう」だけは分かった。「白血病」だろう。


 白血病だって? しかし、どうして僕が? どんな病気なんだろう? 死ぬのだろうか? どんな治療をするのだろうか?・・・・・


 質問は山ほどあったが、僕は医師に質問することはできなかった。いくつもの疑問が一度に僕の頭に湧いてきて、混乱してしまった。僕は混乱した頭で、かろうじて医師に伝えた。


 「先生。わかりました。それでは、明日、よろしくお願いします」


 電話を切ると、僕はパソコンに向かった。


 『きゅうせい ぜんこつずいせい はっけつびょう』というのは、『急性前骨髄性白血病』のことだった。急性前骨髄性白血病というのは『 骨髄および末梢血液において独特の細胞形態を有する前骨髄球の腫瘍性増殖が観察される、白血病の一種』ということだった。専門知識のない僕にはさっぱり分からなかった。しかし、僕は知らなかったのだが、白血病というのは一つの病気ではなく多くの種類がある病気の総称だったのだ。


 ついで、僕は急性前骨髄性白血病の死亡率を調べた。すると、以下の記事が眼に入った。


 『 65 歳以下の急性骨髄性白血病の患者さんの 5 年生存率は約 40%です。 急性リンパ性白血病の場合は約 30%です。』


 『急性骨髄性白血病の治療目標は病気を完全に治して、健康な日常生活を取り戻すことです(治癒)。

 この前段階として、化学療法後に得られる検査成績や全身症 状の改善した状態を完全寛解と呼んでいます。

 化学療法後に完全寛解になった患者さんの比率(完全寛解率)と治療数年後に患者さんが生きている確率(生存 率)が治療成績をみる目安になります。 調査では80%前後の完全寛解率と40%程度の生存率が得られています。』


 どうやら、生存率は40%程度のようだ。僕は白血病というと死の病のように感じていたが、思いのほか生存率が高かった。僕は少し安堵した。


 しかし、今まで病気らしい病気にかかったことがない僕がどうして白血病になったんだろう?

 僕は原因を調べてみた。すると驚いたことに、白血病というのは現代でも原因が分からない病気だったのだ。


 妻が芸能人で白血病になった人の名前をあげてくれた。それから、僕は妻といろいろな話をした。その夜はとりとめのない話が続いた。


 そうこうしているうちに、夜遅くなってしまった。僕は不安を抱いたまま床についた。白血病という予想もしなかった病名と、明日から入院生活が始まるという不安にさいなまれて、その夜、僕はなかなか寝つけなかった。(つづく)


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