電撃と打撃音
「なんだこれ!!!!」
しまった。
思わぬ展開に思わず怒鳴ってしまったよ。
電撃した女の子は目をまんまるにしてこっちを見てる。
絶対引かれた。私は消滅したい。
「な、なんですかこれ…すごいです…ね。」
とりあえず言い直してみたけど…。
「……」
うう…、ジト目だ。『なんだこいつ…やばいやつだな』な感じが表情だけじゃなくて体全体から出てる…、つらい…
私は急降下し始めているであろう私に対する好感度を保持するために言葉を続ける。
出会ったばかりなんだから、これからこの女の子と交わす会話で可能な限り普通発言を多く繰り返すのだそれしかない。
100発言の内の1暴言から1000発言の内の1暴言へ!それをさらに繰り返していけば、さっきの怒鳴りの印象は薄まっていくはずだ。やがては取るに足らない過去の遺物となることだろう。
今は『私は普通の子です、仲良くしてね!』というアピールを繰り返すのが最善最良の最適解なのだ!!!絶対そうだと言い切れる!!!!
私!とりあえず電撃について聞けばいいよ!普通聞くし!わかった!聞いてみるね!
「電撃、って…」
「そんなことどうだっていい。俺より前に出ないで。」
ううっ…、遮られてしまった。
っていうかさっきまで握っていてくれた手も離されちゃったし、絶対に嫌われてしまった。絶対助けて損したと思われてるよこれは。
じゃない!!!!
思い出したスライヌ!!!!
謎のドンッ!で怯んでいたスライヌは、私が思索にふけっている間に体勢を立て直していた。ヴォンヴォンと赤い目を左右に振りながらも低く構えた頭を私と女の子の方に向けて今にも飛びかかろうかという感じで唸ってるような感じ。
唸ってるような感じというのは、出会った時から今までスライヌはなんにも吠えないし、唸り声ひとつ実際には発してないのだ。なんでかなんて知らないよ。
普通の生き物じゃないし、もしかしたら発声する仕組み自体を持っていないのかも。
ところで女の子が私の手を離したのは、私の盾になるような形でスライヌとの間に入ったからだったのだ。
私がキモいと思って手を離したわけじゃなかったようなので少し安心した。
「あんまり効いてないっぽいな…」
女の子が、スライヌの方を向いたままぼそりとつぶやく。
「き、効いてないんですか?」
私の背中からの質問に、一瞬ちらっとこっちに目を向けて横顔で答える。キッとした眉がかわいい。
「ああ、怯んではいるから全く効いてないわけじゃない。まあ、あんたは俺から離れないことだけ考えててくれればいいよ。」
「は、はい。」
「もう一回だ。いくぞ。電…」
ドンッ!!!!!!!
女の子が『電撃』を言い終わるよりもワンテンポ早く、さっきと同じ鈍い打撃音の電撃攻撃がスライヌに炸裂する。スライヌは『ギャン』みたいに大きく竦む。
「電撃!!!!」
ドンッ!!!!!!
「電撃だ!!!!」
ドンッ!!!!!
「電撃だって!!!!」
ドンッ!!!!!
怯んだスライヌに畳み掛けるような電源の嵐だ。ドンドンドンドン鈍い打撃音が妙に生々しい。ちょっとスライヌ可愛そう。
ほら、私感受性高い子だから?スライヌの体がよろめく度に『ギャインギャイン』って悲鳴を脳内再生してしまって…、私こういうの苦手だなあ…
魔法攻撃っていうか、ピカッっと光って、ビリビリしびれてる感じだったり、火の玉が飛んでくとか、そんな感じのだったらある意味現実と切り離して見れるからまだ見てられるのかもしれないけど。
そういうエフェクト無しで『見えないけどボコボコ殴ってますよ』みたいなのがわかるのはちょっと…
それにしても、電撃かあ…。この子、電撃ばっかりだな。
電撃以外の攻撃もして欲しい。最初のビギャン!とか。あれの方がずっとかっこいいし、スマートだよ。生々しい暴力よくない。生々しくなければいいってことでもないんだけど。
っていうか、なんかこの子、焦ってるように見える。
手を振ったり、指を突き出したりして電撃電撃連呼してる合間合間に『おい!』とか『違うって!』みたいなよくわからないセリフも混じってるような気がするし。
っていうか、スライヌもうガタガタじゃないですかね?
これって弱いものいじめなのでは?
「犬かわいそう!」
「もう勘弁してあげて!」
私と同じく、女の子の連続電撃ショーをぼけーっと見ていたおじさんたちも、おんなじこと考えてたのかもしれない。体の前で手のひらギュッとしながら悲痛な面持ちで女の子に攻撃の中止を訴えかけ始めた。
チッ、おじさんたちに先を越されてしまった!
こういう時に敵を庇うのはヒロインとか心優しい村娘とか、つまり私みたいな立場の子だって相場は決まっているのに!
いや、違うでしょ。
真面目な話、助けてもらった手前、スライヌの肩持つのはちょっと気が引けちゃって眺めてたけど、後ろでおじさん二人に手のひらギュッ(心持ち内股)でスライムわんちゃんの助命嘆願やられたら私だって傍観できないよ!
「あのう…」
「え!?何!?」
おずおずと、申し訳無さそうに申し出てみる。
攻撃に夢中だったところに声かけられて、女の子がビクッ!となったのでかわいい。
いや、そうじゃないでしょ私。
「で、電撃…はもうそのくらいにしてあげた方が…いいんじゃないかな、って…」
「う、うん」
「あの犬も、ほら…、だいぶ弱ってるみたいですし…」
実際、ドンドンドンドンやられたスライヌは立ってるのがやっとみたいな感じになっている。目の光は依然変わりなく爛々としてるけれど、見るからにフラフラしてて横から蹴ったら倒れそう。
大ダメージで弱っているのが見て取れるのに、眼光はそのままなのがまた不気味なんだけれど、かわいそう感あるのは事実だ。この様子を見た第三者はみんな哀れみを感じるはず。
「…そうだよキミ。見てごらん。あんなに震えている。」
いつの間にか私の横に急接近してきていたおじさんが私に加勢する。
「犬に何の罪があるんですか?悪いのは捨てた人間でしょう。」
店長、あんたもか。っていうかスライヌはどう見たって捨て犬じゃないでしょ?
やった。
先に制止する声を上げたのはおじさん二人かもしれないが、今の形なら攻撃止めてる側の中心人物は私だ。私のヒロインとしての立場は守られたのだ。
○○とハサミはなんとかかんとか。おじさんたちも使いようだ。
「そ、そうだな…ここらへんで」
私とおじさんたちの嘆願に、なぜかホッとした表情の女の子。
なんでホッとしてるんだろうこの子?
でもまあ、よかった。
私は人生最大の危機を乗り越えたっぽいし、スライヌも助かったのだ。
雰囲気を察したのか、スライヌはよたよたした足取りで私たちの反対方向へとゆっくりと退き始めた。
ヴォン…
こっちを振り返り、頭を下げて一礼したように見える。
こっち…、というか私?
私(とおじさんたち)が庇ったのわかったのかな?
まさかね。そんな知性があるようには見えなかったし。
通じるかどうかはわからないけど、スライヌにニコッとほほえみ返してあげる優しい私は優しい。
あっ、女の子にお礼を言わないと!
「あの、助けてくれて…ありがとうございます。」
「いや、通りがかっただけなんだけど、なんか絡まれてんの見えたから。」
キッとした眉のまま、遠ざかっていくスライヌを見送る女の子の横顔が少し赤い。
お礼の言葉に照れてるのかな?それとも私たちに制止されたのが恥ずかしいとか?
ま、いっか。どっちでも。
とりあえず、自己紹介だ。
「私は
「自分は
「僕は駅にある喫茶店の店長です。」
あんたらも自己紹介すんのかよ。
おじさんの名前、御地さんって…
店長は店長でよくわかんない自己紹介してるし…
もう大丈夫だと判断したのか、女の子がこっちに向き直る。
ちょっと目付きが悪いけど、戦闘モードを解いたほんのり安堵の微笑みがかわいい。
「俺は」
ビ ギャン!!!!!!!!
女の子の微笑みの向こうに、遠くの空に見える雷みたいな電光。
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