私と可愛い子の邂逅
スライヌからチリチリした殺気が出てる。
さっきまでの、
動物園で寝そべってるお腹満腹ライオンみたいな雰囲気じゃない。
「っ…」
ふふっ、悲鳴も出ない。
まあ、そもそも『悲鳴』っていうのは周囲に危険を知らせて『助けを求める』or『注意を促す』ものだから、今の私にとってはどっちの用途の悲鳴だって不要だ。
助けに来てくれた(?)っぽい酔っぱらいのおっさん二人は、戦闘意欲こそ満々だけどおならの役にも立ちそうにないし…
危険を知らせたい仲間(トモダチ)だって私にはいない。
「うう…」
ヴォン…
おっさんたちを怒鳴って緊張が緩んだおかげか、かろうじて、ほんのちょっとだけ、体を動かせるようにはなった。
でも、じりっ…と後退りした私の動きをこいつは見逃さない。
スライヌは肩を下げて、同時にその赤目と鼻先を私の方にしっかりと向けた。
――スライヌは とびかかろうと みがまえている!
「―――――!!!!」
「―――――――!!!!」
私を窮地に追い込んだおっさん二人は、相変わらず何かを喚いてるけれど…
何言ってるのかわわからない。もう、どうしたらいいのかわからない。
――後退りする時って、ほんとに『じりっ…』て音するんだなあ。
どうでもいいことしか頭に浮かばなくなってきた…
本当にまずい状況だよこれは。
絶体絶命の危機なことは間違いないのに、こんな思考をしてるってことはつまり…
…『助かる方法を模索することを本能が放棄してる』ってことであって。
戦闘態勢のスライヌと一人真っ向向かい合ってるこの状況でも、私は諦めてない。こんなところでいきなり人生終わりになるのなんて絶対嫌だし、明日からも今日と同じように平穏無事に進めていきたい。
でも、私は諦めてるのだ。
「後ろに――!!!!!」
いきなりおじさんとは違う高い凛とした声が響
ビ ギャン!!!!!!!!
視界が真っ白になる、のを察してギュッと目をつぶった瞬間、金属の板と板を打ち合わせたような、聞いたことない音?が響く。
「…後ろに下がれ。」
言い方は吐き捨てがちだけど、それでもなんだか可愛い声だ。
目を開けると、おじさんたちの間から、おじさんじゃない人が見えた。
オレンジ色のジャージ姿の女の子が、しかめっ面の苦笑い?で私の方を見てる。
わあ、すごい。
街灯の真下に立ってるおかげでよく観察できますので仔細申し上げますね。
長細レンズの眼鏡のむこう、子供っぽいおっきなお目々はツリ目がち。ちょっと『への字』のお口。黒髪を後ろにちょろっとひとつ結びのおさげにして、さっきも言ったけどオレンジ色のジャージ。それに赤っぽいズボン。腰からは長い金ピカ
全体的にヤンキーというかオラオラと言うか、とにかくほんのり
おじさんたちを比較対象に目算すると、身長は少し小柄かな?だいたい高校生くらいじゃないだろうか。そのちっちゃな身体から伸びた手足も、長袖長ズボンで隠れててもすっごいしなやかというか、少なくとも私より細いのがわかる。
よくよく見ると、オレンジのジャージにポイントポイントで入った黒と黄色のしましまがおしゃれだ。
見るからに気が強そうだし、なんだかちっちゃな虎みたい。
【まとめ 】 とってもかわいい
あっ、そうだ私に飛びかかろうとしてたスライヌは?
こまめな状況確認は必ずや戦況に利をもたらすということは歴史が証明している。
"愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ"。昔の偉い人もそう言っていた。
私は賢いのでそういうの気にするのだ。
出かける時に『電気消したっけ?』とか『ガスの元栓締めたっけ?』とか不安になって部屋まで確認しに戻りますよね?それで、確認して部屋に鍵かけた後でまた不安になって鍵開けて再確認するじゃないですか。面倒くさいけど。
…っていうか、今は面倒くさいくさくない言ってる場合じゃないし。
私は状況を確認し、入手した情報の整理を試みた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
※スライヌの様子
…スライヌはいつの間にか私より少し離れてる。ほんの少しだけど。
…叱られた犬みたいに
…それになんか、冬のお風呂上がりみたいに湯気が出てる。なんで?
――――――――――――――――――――――――――――――――
※立ち位置と向きの情報
←
――――――――――――――――――――――――――――――――
…これ、情報を整理したって言えるのかな?
…なんか『私・スライヌvsおじさん(×2)・可愛い子』みたいな絵面でヤだなあ。
「なんだねキミは!!!!」
「危ないから!!!!ここは危ない!!!!」
おじさん二人はさっそくオレンジ色の女の子の前に立ちふさがって絡む。
まるで酔っぱらいだ。あっ、酔っぱらいなのか。
っていうかこの状況で酔いが覚めないってすご
「うるせえ!!!!」
「ヒッ…」
「す、すんません…」
女の子に怒鳴りつけらて縮こまる二人。
み、見たまんまだった。『うるせえ!』とか、まんまヤンキー。でも、かわいい。
ちょっとニッコリしてしまう。
あんな子にケンカ売られたら、相手も思わずニッコリしちゃうんじゃないかな?
「どけ。」
「あ、はい。どきます。」
「すんません。すんません。」
ヤンキー女の子に言われるまま、私とスライヌに伸びる直線上を明け渡す二人。
変なおじさんはここから見ても腰が引けて怯えてるのがわかるし、店長は両手をニギニギしながら営業スマイル浮かべてる。おじいがよく見てる時代劇の悪い商人とかやくざもんが黒幕の役人に『ヘヘエ』ってやってるシーンみたいだ。
そんな怖いのかな?
二人を退けた女の子は、何の戸惑いもなく私の横に仁王立ちで陣取った。
『私の横に来る』ってことは『スライヌに接近する』ということだから、それを平然とやってのけるって…どういうことなの?
どう見てもこの状況は普通じゃない。ぶっちゃけ戦場だ。いや、それ以上か。
相当な気合というか、精神力が必要なはずです。
よく見れば、平然としてるように見えて、しっかり油断はないのがわかる。
現に歩き始めてから今この瞬間まで、女の子はスライヌの方を睨みつけたままで私の方に全く目を向けていない。
と、思ったらこっち向いた。
「俺から離れないで。」
スライヌに向けていた鋭い目が、こっちに向くと同時にやわらかにゆるむ。
安心を促すような、ささやかだけど優しい笑顔だ。
って、おれ?俺って…この子、俺っ子!!?
ヤンキーで!?眼鏡で!?俺っ子!!!?
なんだっけ、こういうの?数え役満?だっけ?
えっ!!!!!!!
女の子の右手が、私の左手と接触してる?
ということは?手を?つないでる?
「あえっ!?あっ、ええ???」
「もう一発ごちそうしてやる。」
あわわあわわ混乱する私から、スライヌの方に目を移した女の子は、キッとした横顔で事も無げに左手をスッと上げ、手のひらを前方に突き出す。
「電撃!!!!」
え?電撃!?
じゃあ、さっきのビギャン!眩しい!は、この子が電撃したの!?
電撃って、電気でスライヌ攻撃したってこと????
サンダー!?えっ!?まじで!?またビギャン!?
ドンッ!!!!!!!
光らなかった。
女の子の『電撃』の言葉に鈍い音が立ち、スライヌの体は何かで殴られたみたいな感じで揺らぎ、ズサッ!と大きく後ろに仰け反った。
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