第16話 それぞれの戦い⑤ 〜天才vs天災〜

 赤羽三久は刀の柄に手をかけるとスッと鞘から引き抜いた。

 その真っ赤に染まった刀身は夕日のように輝き、長さは大体3尺弱といったところか、少し反りが深く打刀というより太刀にちかい形状をしていた。


 「いつ見ても綺麗だな〜、その刀は、お前と同じで」


 堂島は少し感慨深げにその刀を見た。


 「セクハラです。授業が終わったら倫理委員会に掛け合ってみますね」


 三久は真顔で返答した。


 「そう邪険にするな、赤羽。お前のその刀の特性は知っている。生命力イーオンに応じて刀身が変化するんだろ?」


 堂島は探るように上目使いで尋ねた。


 「よくご存知ですね。そうです。これが赤羽家に伝わる宝刀、グランドリ……、赫灼刀です。」


 刀を見つめながら彼女は続ける。



 「今は刀身が紅くなっています。これを私は紅の剣と名付けています。この刀は私の生命力イーオンを吸って刀身から炎として吐き出します。先生も怪我では済まないかもしれませんよ」


 刀をヒュッと横に振ると刀身から炎がボッと吹き出した。


 「やれやれ、難儀なことだよ、と」

 

そう言うや否や堂島は突っ込んできた。何かを唱えたかと思うと周囲の石が彼女目掛けて飛んでくる。三久はそれを余裕の表情で躱すと堂島に向かい斬撃を放つ。


 「かまいたち!」

 

 炎の斬撃が堂島を襲う。堂島も余裕の表情でそれを躱し両者がザッと距離を取るようにして後方に飛んだ。

 

 なかなかどうして、隙がない…………! 


 三久は堂島を睨みながら内心苛立った。と呼ばれる赤羽三久をしてもその実力が測れない。

 

 厄介な相手だわ、天災、堂島猛……

 

 三久は牽制で炎の斬撃を数回堂島に飛ばした後に足に力を集中させた。一気に距離を詰めると全力で斬りかかる。堂島は刀の刀身を見ながら起点となる右斜め上からの斬撃を防御した。


 右斜め上からの強攻撃から崩して次に繋げる……


 三久の頭の中では、あらゆる格闘ゲームでのフィニッシュまでの持って行き方が完全にインプットされていた。


 強右斜め上斬り→弱蹴り→弱蹴り→弱下斬り→吹き飛ばし→全力斬り

 これでフィニッシュよ!


 蹴りを堂島の腹に当てると更に回転して再度蹴りを繰り出し、体制を崩させた。刀を下から上に振り上げ堂島を空中に浮かせ、三久も同時に跳躍した。


「これでお終いにしましょう。先生!」

 そう言ういと刀身に生命力イーオンを集中させた。

 

 刀が更に紅くなり、熱を帯びた。


 「はぁーーーー!」


 三久は全力での斬撃を繰り出す、がそのコンボは続かなかった。空中に投げ出された時に堂島が密かに放った小石が彼女の腕に命中しわずかに刀の軌道をずらした。

 

 全力斬りを回避した堂島は彼女の横腹に蹴りを入れて地面に叩きつけた。

 

 ゲホッ! おそらく肋骨が数本いきましたね……

 

 口の血を拭いながら三久は立ち上がった。


 「流石に1撃じゃ倒せないか。一瞬で身を返してダメージを防いだか。流石天才と言われるだけはあるぞ。でもまだ学生の動きだな、と」


 「くっ、先生も流石ですね。このコンボ使ったことなかったんですが、初見で見切られるなんて」


 「お前は動きに少し無駄がある。そこを直さないといずれ命取りになるぞ、と」

 

 三久は重い足で後方に飛んだ。


 思った以上にダメージが大きい。距離を取らなくちゃ!


 距離を取ろうとする彼女に堂島が一気に突っ込んでくる。


 「お前はここで終わりだな、と」


 堂島の拳が彼女の腹にヒットする直前一瞬堂島の動きがピタッと止まった。


 「赤羽さん! 今のうちに逃げて!」

 

 樹木の奥から声がこだました。


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