第15話 それぞれの戦い④ 〜クロノ◯リガーでは普通です〜

 ドッ、ドッ、ドッ、高鳴る鼓動、震える身体。

 

 避けられたか……

 

 未虎優子は前方で轟々と燃え盛る樹海を細めに見つめながら舌打ちした。

 

 奥義とっておきを避けられた。とすれば今は逃げなければ……

 

 頭をフル回転してこれからのプランを次々に考えていく。


 「ミドラ〜、闘いで常に考える時間が与えられるとは思わないことだぞ、と」

 

 そう言いながら堂島は一瞬で距離を詰めてくる。


 「くっ、柊龍神流、白--」


 「遅いぞ、と」

 

 足を蹴り出した瞬間に彼女の鳩尾に衝撃が走る。軽く30mほど後ろに吹き飛ばされる。いくら身体を生命力イーオンで強化しているとはいえ、それを上回る攻撃をされればダメージを負う。

 

 未虎は膝をついて崩れ落ちた。ウェ〜〜〜ッと、吐瀉物を吐き出した。

血混じりのそれを視界に捉えながら悔しさに顔を滲ますが、そこにもう1発強烈な横蹴りが顔面を捉える。横っ飛びになる彼女を追走し、堂島はさらに腹を蹴り上げ空中に彼女の身体を浮かせた。格闘ゲームでいうところのコンボ態勢に入った。


 浮かされながら未虎優子は自分のダメージを分析した。


 くっ、肋骨左右2箇所に右鎖骨、左腓骨骨折、額骨と左上腕骨それと坐骨ににヒビ、あと右肺損傷してる、これは。勝てない……


 堂島が追い討ちをかけるべく追ってくる。


 「舐めんじゃないわよ! 柊龍神流、湖月!」


 堂島の拳が未虎の顔面を正確に捉えた瞬間に、衝撃を吸収するように彼女の身体が揺らぎ拳がいなされた。


 「やるねぇ〜」

 

そう言いながらラッシュをかけてくる堂島。


 「くっ、捌き切れな-−」

 

 おそらく100を超える打撃を捌いた彼女だが、無常にも強烈な1撃が顔面にクリティカルヒットし、地表に叩きつけられる。

 

 未虎は震える膝で立ち上がるがその目にはもはや光はなかった。


 「なかなかやるようになったが〜、お前はここまでだな〜、と」

 

 堂島が一瞬で彼女の目の前に移動し、トドメの一撃を入れようとした。

 

 ここまでか……

 

 未虎優子が諦めかけたその瞬間、堂島の身体がありえない角度に曲がり横に吹っ飛ばされた。


 「優子さん、大丈夫ですか」

 

 「も〜。大口叩いてた割りにボロボロじゃない。あんた!」

 

 赤羽三久と橙山要が息も切れ切れに駆けつけた。

 

 思いがけない援軍の到着に目をパチクリする未虎。

 

 その目には闘志が少しばかり戻っていた。


 「ハァ〜? 誰も頼んでないんですけど!」

 

 今にも倒れそうな彼女は血を吐き出しながら強がった。


 「あら、そうには見えませんけど……」

 

 赤羽三久は心配そうに彼女の身体を観察した。おそらく常人なら死んんでもおかしくないほどのダメージを受けているのは明らかだった。それでもなお、ここまで動けているのは彼女の鍛え上げられた神経系ニューロンでどうにか身体を動かしているのだろと、赤羽三久はその精巧な神経系ニューロン操作技術に驚嘆した。


 「本当に可愛くないわね、あんたは! そんなんだからブスがさらにブスになるわけ! お分かりかしら!?」


 そういうと、橙山要は未虎の手をギュと力強く掴んだ。要の右耳の橙色のピアスが光を帯びる。未虎優子の身体が光だし創部が徐々に治癒していく。


 「三久さん、多分動けるようになるまで5分くらいかかるよ。それまで頼める?」

  

 目を閉じて集中する要は三久に尋ねた。


 「相手は堂島か……。なんとかやってみるわ」


 「ちょっと! 私もやれるわよ!」


 「あんたは少し黙ってなさい!」


 片手で未虎の頭を叩きながら要はさらに生命力イーオンを込めた。

 

 赤羽三久はクスッと笑い堂島目掛けて飛び出していった。

 

 堂島が激突した岩は粉々に砕けているのに、彼には傷一つなかった。やれやれ、というふうに堂島は首を鳴らし、赤羽三久をみつめた。


 「早くもお前らが相手か。骨が折れるな、と」


 「嘘つきは嫌われますわよ、先生」

 

 「本当だ、未虎だけでも厄介なのに、お前ら3人相手するとなると、こっちも覚悟が必要だよ。3対1は少し卑怯な気がするぞ、と」


 「えっ、クロノ○リガーでは普通ですよ?」

 

 微笑みながら赤羽三久は腰に帯刀している、赤色の柄に手をかけた。

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