第13話 それぞれの戦い② 〜未虎優子の受難・弐〜

 「死ね、こらぁ〜!」


 未虎は、17歳の女子とは思えない言葉遣いで大地を叩き割る。


 「げっ、マジかよ。怪力女め……っ」

 

 震度でいうとおそらく6弱、立っていることが困難となるレベルの揺れが周囲一帯に伝播する。未虎優子の放った一撃は前方から襲ってくる堂島の足を止めるには十分であった。


 「さすがはミドラ〜、1人でもやれそうか、と?」


 そういうと堂島は、粉々に砕けた地表の岩盤の隙間から、未虎のたわわな乳房の隙間からちらっと見える黒色のネックレスを見た。未虎の魔導器デバイスだ。


 元々の生命力イーオンが極端に少ない未虎は、魔導器デバイスを通じて体外に力を放出することには向いていなかった。すぐに生命力イーオンが尽きてしまうのだ。

 前にも触れたがこの世界の個人の力は、生命力イーオン×神経系ニューロンで大まかに測られる。生命力イーオンが極端に少ないということは、それだけで大きく不利なのだ。しかし未虎優子は学年で総合で上位の成績である。

 

 この首からかけられた魔導器デバイスは体の中の神経系ニューロンを大幅に活性化させ常人では得られないほど力を体に与える。さらに日頃の血の滲むような鍛錬により小さな生命力イーオンでも鍛え上げられた神経系ニューロンによって現在の未虎優子は身体能力だけで言えば常軌を逸している存在なのである。


 「1人だからって何よ! 今まで逆境なんて数え切れないほど経験してきたの。こんなことで立ち止まる訳ない!」


  そういうと彼女は力強く大地を蹴り目にも止まらないスピードで堂島に駆け寄るが、すぐに足を止めた。気がつけば彼女の周囲にはいくつもの石が浮遊していた。

 足を止めるや否や大小多数の石が未虎優子の身体に凄まじい勢いで襲いかかってきた。チッと舌打ちすると彼女は身体を大きく回転させた。


 「柊龍神流、時雨!」

 

 身体を回転させた状態から、高速の突きで次々と石を落としていく。くるくる回転したまま着地する。しかしその体にはいくつかの痣が浮かんでいた。


 「ミドラぁ〜、お前は自分よりの相手との闘い方を学ぶ必要があるな、と」

 

 そういうと堂島は手を上にあげて、さらに大量の石を宙に浮かせた。

 

 未虎優子は迎撃体制に入りながら、次は石をものともせず堂島に突っ込んだ。


 「かっかっ! お前の行動は単純すぎる! 俺はそんなところは結構好きだが、そんなのが通用するのは格下の相手だけだ。もっと頭を使え。そんなことでは生命力イーオンの量が多い相手には距離を取られてジリ貧になるぞ、と!」


 堂島は周囲の石を幾重にも彼女を包囲するように空中に配置した。

 

 未虎は一瞬ハゲ頭の坊主の顔を思い返していた。

 

 あのバカがいれば幾分かマシだったかな……

 

 そう思うや否やハッと我にかえった。その瞬間怒りが彼女を包み込む。劣勢であってもあんなクソハゲに頼ろうとした自分に大いに怒りが込み上げてきた。周囲を囲む石を見渡しながら


 「生命力イーオンの差なんて関係ない。そんなもの私の奥義とっておきでこじ開ける!」

 

 そう言うと半身の構えから、右手を引き、全身に力を溜め大きく息を吸い込む。吐き出す息と共に右手が亜音速の速さで正面の空気の壁を叩きつける。


 「柊龍神流、奥義! 烈空!」

 

 鋭い一撃が大気を叩きつけ、その摩擦で炎が堂島に一直線に伸びる。


 はやっ−−


 考える前に堂島は側方に飛んでいた。


 後ろの樹木を空気砲が貫いた。爆炎をあげて、倒れる大木。


 その光景を1km先で赤羽三久と橙山要は眺めていた。

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