戦闘学 2日目 それぞれの戦い

第12話 それぞれの戦い① 〜未虎優子の受難・壱〜

 2日目の午前9時、突然のスピーカー放送が始まった。


 「おはようございま〜す! 校長の一色で〜す!」

 

 樹海内に緩いおっさんの声が響き渡った。


 「みんな元気にやってるかな? 先生少し不安だぞ〜。特に今回は少し敵が強いからみんなが無事に過ごせいてるか心配で心配で、ガハハハッハ〜!」

 

 明らかに酔っ払いの口調である。その独特の末尾を伸ばすような喋り方は生徒たちから不評である。

 やれ、気持ち悪いだの、目元がセクハラだの、臭いので近寄らないでくださいだの、生理的に無理だのとの誹謗中傷と闘う中年男性の姿を想像していただければ幸いである。続けて飲んだくれは、


 「それでは1日目の現状報告をしま〜す。」と小粋なビート(おそらく後ろで教頭が音源をかけたであろう)にのって報告し始めた。


 「脱落者は計5名で〜す。上から音無景、鬼成透、桜美まどか、下田剛、中賀翼の5名で〜す。死者は出てませ〜ん。重症者は1名、鬼成くんのみで〜す。鬼成くんは保健室のまみ先生に会いたくて開始30分で小瓶を使用し、まみ先生から厳しいお仕置きを受けて重症で〜す。鬼成くんと同じ組の未虎さんは一人ですけど頑張ってくださ〜い! まだまだ、2日目が始まったばかりだけど、みんな今日も1日頑張って行こ〜」

 

 やる気を持っていかれるような軽いノリで放送が終了した。

 


 

 アトリウムより南西に2kmほどの草原で仰向けに横がりながら未虎優子は自分の運命を呪っていた。鬼成透とツーマンセルを組んだ彼女は先ほど校長から報告があったように開始30分で鬼成から事実上の死刑宣告をされてしまった。

 

 「未虎、男にはどうしてもやらないダメな時ってあると思うねん、なっ?」

 

 クソ忌々しい、坊主の顔が未虎の頭に浮かぶ。


 「せやから、行かなあかんわ。未虎ちゃんは可愛くて強いから大丈夫やろ! がんばるんやで〜」

 

 そう言うと鬼成は小瓶を投げて早々とリタイアして行った。


 「あのクソ坊主! 次あったら重症どころじゃ済ませない……」


 未虎はサイドの三つ編みをいじりながらショートカットをかきあげた。

 

 次の瞬間、彼女は視界のはしに鈍い光を捉えた。防御の体制に入るが、マイクタイソンの1撃のような重たい衝撃が彼女を吹っ飛ばした。


 「ミドラ〜、注意力散漫だぞ、と」

 

 そこにはやる気なさげな教師が頭をぼりぼりしながら立っていた。


 チッと舌打ちしながら体制を立て直す未虎に教師は続けた。


 「鬼成がいないから、頭を使え。 1人であと2日生き延びるのは難しいぞ、と」


 「うるさい、堂島! 私だって分かってんのよ、そんなことぐらい。」

 

 未虎は右足をズッと後ろにひき、両手を顔の前に構えて戦闘体勢に入った。

 

 堂島と呼ばれる教師はニッ、と笑い一直線に彼女に襲いかかった。

 未虎は応戦する。


 「柊龍神流、地走り!」


 少女は大地を殴りつける。大地が大きな叫びを上げ震えた。


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