第10話 小戦③ 〜クチナワ戦・弐〜

 滝川は着地すると同時に、パターンCの体勢をとった。


 真琴と滝川はこの1年、ずっとツーマンセルを組んできた。滝川は最初の組み分けの時のことを思い出していた。組み分けは、完全に個人たちに委ねるというもので、コミュニケーションが得意でない奴らにとっては最悪の選抜方法だった。

 周りがどんどん組を作る中、当然のように滝川と真琴は売れ残った。最初はクラスのあまり同士というだけだったが、なかなかどうして気の置けない間になった。


 それから多くの修羅場を2人で逃げ延びてきた。 

 

 真琴のと、滝川ので、ここまでやってきた。

(〜術とは、魔導器デバイスを使用した戦闘スタイルを簡略に言い表した生徒間で使われる表現。)


 彼らの戦闘パターンは大きく分けて4つ、AからDまである。


 パターンA、脇目も振らずとにかく逃げる。

 やばいやつと遭遇したとき。

 

 パターンB、他の組に押し付けてひっそり逃げる。

 周りに優秀なやつらがいるとき。

 

 パターンC、戦いながら逃げる方法を考える。

 孤立無縁でしょうがないとき。

 

 パターンD、覚悟を決める。

 男には引いてはいけないときがあるのだ。



 真琴は大きく後ろに飛ぶと同時にのバングルに勢い良く生命力イーオンを込める。魔導器デバイスであるそれは、幅狭な少し年季がはいっている外観だった。硫化で少し黒ずんでいる。

 生命力イーオンが流れ込むと、バングルが少しずつ発光していく。中央に書かれている文字、おそらく現代の文字ではない何か、が文字列に沿って光り始める。

 

 滝川は首から下げたデジタル1眼レフのカメラを覗き込み、生命力イーオンを込める。ファインダーは通常時覗いても真っ暗だが、生命力イーオンを流すことで、視ることができるようになり、何倍もの拡大/縮小が可能になる。使用者の感じるままにピントが合うという優れものだ。


 「たてまつる、南海の雄、幾年の守護者よ、よこしまな悪を祓いたまえ! アギト!」


 真琴が祝詞を唱えると、バングルの文字が赤色に変色し、光り輝いたかと思うと、クチナワの前に1匹の真っ白い犬が現れた。


 犬と言っていいのか。虎くらいある巨体に、竜のような顔、背中には2対の羽のようなものがついている。


「クゥ〜ン」と真琴に顔を近寄せてくる。見た目と違い、可愛らしい幼さがある。


「アギト、頼むぞ!」


 そういうと真琴は右手を大蛇の方にかざした。アギトと呼ばれる、白い犬はドン、と踏み込みと同時に1匹のクチナワに襲いかかった。


 鋭く長い牙が蛇の皮膚をいとも簡単に貫く。


「シャ〜〜〜〜〜!」


 蛇は巨体をくねらせアギトを絡め取ろうとする。巻きつこうとした瞬間にピタッと不自然に動きが止まった。


「師匠! ナイスです!」


 左の岩陰に潜んだ滝川が、ファインダー越しにクチナワを撮っていた。


 「大黒君、今のうちだ!」滝川が叫ぶ。

 

 真琴はさらにバングルに生命力イーオンを込めると、アギトの牙がさらに喰い込み、ボキボキと音をたてて蛇の胴と頭を真っ二つにした。

 

 絶命したクチナワは胴体を激しくくねらせながら断末魔をあげ、数秒後には動かなくなった。


 「あと1匹!」



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