第7話 嵐の前④ 〜続・突入〜

 大黒真琴たちが樹海に姿を消した10分後、赤羽三久と橙山要はゲートの前に立っていた。


「お前らが最後だ。助言は何もない。貴様らは実力を発揮できれば間違いなくこのクラスではトップだ。赤羽、橙山、期待しているぞ」


「はい。任せてください。教官はともかくCランクの異形態に遅れをとる私たちではありません」


 三久が戦闘用に後ろで1つに束ねた髪ををキュッと結び直しながら答えた。まっすぐに揃った美しい前髪の下の澄んだ瞳はすでに、戦場となるであろう樹海の方を見据えていた。


「そうだよ。三久さんと私にかなう奴らはクラスにはいないよ」


 要は金髪のショートカットを風に靡かせながら、当然とばかりに微笑んだ。


「それに樹海にいる教官にだって対抗して見せる。私たちの生命力イーオンは教官と比べても遜色ないはずだよ。今回は魔導器デバイスもあるし、先生も私たちと会ったら全力で来てね」


 要は勝気だが、どこか憂いを帯びた目を担任に向けた。


「分かった。会敵したら容赦はしないぞ」


 担任の夏美はニヤッと笑いながら指を鳴らした。


 こいつらは実力は間違いなく学年、いや校内でもトップクラスだが、自信が過ぎるところがある。まぁ、だから当然と言えば当然だが……


「まぁ、足元を救われないようにな。クラスの奴らもこの1年で成長しているぞ」


「そんなことは万に一つもないと思います。先生。彼らは彼らで頑張っているのは認めますが、私たちには勝てません。ねっ、要?」


 三久はまるで自分たちの勝利がこの世の道理であるかのように要に尋ねた。


「その通り。私たちに敗北はあり得ないよ」


 要も当然のように返した。


「まぁいい。そろそろ時間だ。ゲートの前に立て」


「この授業で私たちの力を見せつけましょう」


 2人はゲート前に立って生命力イーオンを集中させた。先ほどの真琴たちとは明らかに異なる、密度が違うというべきか。

生命力イーオン神経系ニューロンの活性によって体の外に溢れ出す、体の周囲を微細に纏う光の色調が変化するほどだ。

 

 これほどとはな。夏美は少し感動した。


 簡単にいうと個人の力は生命力イーオン×神経系ニューロンなのだ。


 生命力イーオンは元来生まれた家系に大きく依存する。偶発的に高い奴もいるがそれは非常に稀だ。鍛錬によっても上昇するがそのキャパシティーは生まれによるところ大きい。

 逆に神経系ニューロンは家系にも多少影響するが、鍛錬によって鍛えられるところが大きい。生命力イーオンを効率的に体に伝える方法を時間をかけて訓練していくのである。

 

 2人は元々、生命力イーオンは高かったが神経系ニューロンは幾分か幼稚であった。ガソリンは多量に積んでいるのに、それをエネルギーに変換するエンジンがお粗末だったのだ。

 それをこの半年でここまで持ってくるのには、並々ならぬ鍛錬が必要なはずだ。それを考えると夏美は自分の教え子の努力に感嘆せずにはいられなかった。


「よし、行け!」


 轟音とともに2人は樹海に突入した。


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