第6話 嵐の前③ 〜突入〜

「お前達か……。心配以外の感情が浮かばないが……。やるからには生きて帰ってこいよ! 間違ってもお前らから戦闘を仕掛けるな。逃げていいんだぞ。生きていれば逆転のチャンスはいくらでもあるからな」


 30代後半の自宅警備員なら、感動で咽び泣くであろう言葉を担任からかけられながら、真琴たちは樹海へ入り口となるゲートの前に立たされた。


「あとはお前らと赤羽たちの組だけだ。15組、30人が樹海に入った時点でゲートを閉める。サボろうとしても無駄だぞ」


「了解っす」


 真琴と滝川すっと真剣な表情になり、生命力イーオンを体中に集中させた。全身を暖かな力が包み込んでいく。


「色々と言ったが、お前達のポテンシャルだけは買ってるんだぞ。健闘を祈る! 行ってこい!」


 夏美の声と共に2人は一斉に地を蹴り、樹海に飛び込んでいった。


 樹海の木々の隙間を縫いながら真琴は滝川に尋ねた。


「師匠。どうしますか?」


「周辺の探索は僕がやるよ。感知は結構得意だからね。それに大黒君はいざというときのために、生命力イーオンを蓄えていてもらわないといけないしね」


「了解です! それでいきましょう」真琴は素直に従った。


「3日間、できれば誰とも遭遇せずに切り抜けたいけどさすがに難しいかな。そうは言ってもできれば戦闘は極力避けたいね。どこか身を隠したいところだね」


「できればアトリウムに近づきたいですね。あそこの周囲には開けた場所も多い。近くに潜伏して周囲を探ることもできる」


 真琴は前方の枝を払い除けながら提案した。


「でも、アトリウム近くにはいつも教官が複数いることが多いよ?教官に見つかって追いかけ回されらら厄介だと思うけど……」


滝川は首を傾げた。


「いや、今回に限っては教官の近くにいた方がいいと思うんです」


 滝川の方を見て真琴は続けた。


「今回の授業ではの異形態がうろついています。Cランクといっても俺たち一般の学生にとっては脅威です。Cランクの中にも特殊な力をもった個体もいます。教官は言葉が通じますが、は基本的に言葉は通じない」


「大黒君が言うと説得力あるね」


 真琴の能力を理解している滝川は頷いた。


「できれば異形態の戦闘は避けるべきだ。もし戦闘が避けられなくても近くに教官を捕捉しておけば、そこまで異形態を連れて行き教官との三つ巴にしてしまえばおそらく生命力イーオンが高い教官の方を優先的にあいつらは狙うでしょう。奴らには習性がある」


「分かった。大黒君の言う通りにしよう」


 真琴は普段はチャランポランだが、こいうい時の洞察力は非常に優れていた。滝川は友人のこの一面を誰よりも評価していた。この状態の真琴は頼りになるのだ。普段からこうならば、女子から黄色い声援の1つや2つはすぐにもらえるのに、と滝川は心の中で思った。


「大黒君。君は残念な人だよね」滝川はボソッと言った。


「何か言いました? 師匠?」真琴は無垢な顔で聞き返した。


「いや、なんでもないよ。先を急ごうか」


 2人はアトリウムを目指し走り続けた。




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