第5話 嵐の前② 〜滝川師匠〜
「よろしくね、大黒君」
そういうと眼鏡の男子生徒は大黒に握手を求めた。
「よろしくお願いします! 滝川師匠!」
真琴は畏敬の念を込めてその小さな手を握り返した。
滝川一世、身長は160cm程度、童顔で非常に愛らし、小動物を連想させる見た目で、庇護欲掻き立てるルックスをしている。密かにファンクラブも存在するらしい。
しかし、中身は非常に残念、もとい変わった性格であり貞操の観念が壊滅的であり、女性に対する探究心が度を越している。写真部であり、学園新聞のプロデューサーも兼ねている彼はその愛らしい姿と、権限でほぼ全ての部活動に許可なく入り込み、撮影することができる。そう、どのような場面でもである。
滝川の女性に対する探究心は、誠に尊敬の念を抱かせ同時に畏怖すべき存在となった。大黒真琴の数少ない友人であり、気の置けない関係である。
「大黒君。僕たちは必ずこの戦闘学の授業を無事に乗り切らなければならない」
「師匠。今回に限っては気合が違いますね。何かあったんですか?」
「大黒君、失念しているのではあるまいね。あと2週間後に控えたクラス対抗球技大会のこと。その競技に水球が今回初めて導入されるといことを」
真琴は、はっと息を飲み込んだ。この滝川一世という男は目の前のトップレベルに危険な授業よりも、遥か先のユートピアにもう目を向けているのか。敵わないな。と真琴はさらなる尊敬の眼差しで滝川を見た。
「さすがです。微力ながら奮闘させてもらいます。この授業を無事に乗り切った暁には、また例の写真集を拝見させていただければ……幸甚です」
「奇跡は起こるものではなく、自分で起こすものだと僕は思っている。僕は多くの奇跡を撮ってきましたが、それに共感してくれるのは大黒君が初めてです。是非二人で楽しみましょう」
「知っての通り、僕の
滝川は冗談半分でカメラのレンズを戦闘服に着替え終わった赤羽三久たちのチームに向けた。と同時に滝川のこめかみに小石が突き刺さった。
三久の隣の女子生徒が中指を突き立てた。
「要さんはもう少しユーモアを勉強してもらいたいですね」
額から出血している滝川が残念そうに呟いた。
「まぁいいです。被写体を撮影するチャンスはいくらでもあります。それに大黒君の能力と僕の能力は相性がいいですから、戦うにせよ、逃げるにせよ、どのような状況にもある程度対処可能です。今回ものらりくらりいきましょう」
確かにその通りだ。と真琴は思った。
師匠のカメラワークと俺の能力で、今まではなんとか無事にこの課外授業を乗り越えてきた。今回もおそらく大丈夫だろう。
多少楽観的だがこれも、言ってしまえば真琴の特徴の一つである。
何事も深く考えすぎない。それが今の真琴の考え方であった。
「次の組、前へ」
担任の声が響き、真琴と滝川は樹海の結界の前に誘導された。
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