恋愛自動販売機と恋をしていた(元)乙女たち

@ramia294

第1話

 僕の作った、恋愛自動販売機が、引き起こすワンコイン依存症を治療するための涙のハーブティー。


 コーヒーバージョンを作って下さいと、たくさんのリクエストをいただきました。


 そこで作ってみました、コーヒーバージョン。


 もちろん今までの苦い経験から、実験をしてみました。協力していただいた我が社の経理担当の女性によれば、残念ながら、実験は失敗。


 心を満たす恋の夢どころか、過去の失恋を夢見るようです。

 告白してふられた相手、告白も出来ずに終わりを告げた恋たち。

 ほろ苦く、青い恋の夢らしい。


「失敗だ」


 僕は、判断しました。

 社から、正式にコーヒーバージョンの失敗を発表しました。失敗の具体的内容も、もちろん、隠しません。


 しかし、失敗作のコーヒーバージョンを求める声が、何故か多かった。


「売り出してみれば、どうでしょう」


 お金の事は、とんと分からない僕は、経理担当に言われれば弱く、売り出しました。


 涙のホットコーヒー(ドリップバッグ)。

 温かい方が効果的。

 ミルクを少し入れますと、とっても美味しいコーヒーです。


 びっくりするほど、売れました。


 今度こそは、成功の様です。何と言っても問題点は、事前にお知らせしています。


 ところが、またまた、たくさんの苦情が来ました。


 今回は、買って頂いたお客様からではなく、その旦那様たちからです。


 どうやら今回、涙のホットコーヒーを買って頂いたのは、主に主婦の方々でした。


 彼女たちが、まだ麗しい青春時代(いや、今でもじゅうぶん、麗しいですが…)、とにかく青春時代。

 告白して叶わなかった恋や、告白も出来ずに、遠くから見ていただけの、今の彼女たちから想像出来ない(失礼…)とにかく乙女な頃。

 

 爽やかさが、代名詞の様なテニス部のキャプテンや、サッカー部のキャプテン。はたまた、クラスで最も成績の良い男子に、楽しくみんなを笑わせてくれた人気者。


 叶うはずもなかった、憧れの人。

 届かなかった甘酸っぱい思い出の人に、もう一度会いたいと願う主婦の皆さんが、お客様。


「しかし、夢の中で、もう一度ふられる事になりますが…」


 僕の心配は、経理担当に一蹴されました。


「そこは、人生経験を多く積んできた彼女たち。心は、誰よりもタフに鍛えられていて、ふられても、ふられても、びくともしません」


 コーヒーバージョンを買っていただいた、主婦の皆さん。

 自分の思い出の中だけに住んでいる、あの頃の憧れの人。彼らの魅力を勝手に、どんどん膨らました理想の存在。

 どうやら、そんな膨らました理想を現在の旦那様方と比べているようです。


 そんな旦那様のひとりに泣きつかれました。


「お願いします。何とかして下さい。僕は、運動音痴で、テニス部に入ってもボールが

ラケットに当たりませんでした。サッカーなんて、僕が、ボールにドリブルされました(何のことか分かりませんが…)。何とか、一生懸命勉強して、それでも成績が上がらなかった学生時代。親になじられ、教師に馬鹿にされ、やっと大人になって、何とか生活している存在なのです。彼らの様に恵まれた人たちとは、違うのです。妻は、そんな僕を理想の彼らと比べているのです。あの視線には、耐えられません。何とかして下さい」


 涙ながらに、訴える旦那様の涙をチョイと採取。彼の奥様が、送ってきた涙を混ぜて、再び作ってみた、コーヒーバージョン。


 ドリップバッグを旦那様に持って帰って貰って、奥様に試してもらいました。


 結果は、良好。


 奥様が、自分の中で勝手に育てた理想の彼氏が出演中の夢の中、旦那様が現れて、二人で積み上げてきた時間を再現してくれます。


 どんなに、爽やかでも、かっこ良くても、自分たちで積み上げてきた時間には、勝てません。


 翌日から奥様には、納得していただけたようで、冷たい視線は、無くなったの事。


 全国の奥様の視線に耐える旦那様方、ぜひとも当社のコーヒーバージョンドリップバッグをお買い求められて、奥様にプレゼントして下さい。


 翌日から、お互いを大切に思う気持ちが生まれます。

 家庭に、笑顔が、あふれます。


 新婚時代の熱い気持ちが…。


 それは、お二人しだいです。


        終わり

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