「w」と笑う後輩

社会人になって4年目の春のことだ。

僕の働く部署にも数人の新入社員が配属されてきた。

その中の草野という子が少し変わった子で、それに気付いたのは歓迎会を開いたときのことだった。


歓迎会は大いに盛り上がった。

お酒が進むにつれて新入社員達の緊張もほぐれ、職場では笑うことの少ない子も声をあげて笑うようになっていた。

そのとき、先輩が


「おい、何だそれ」


と言うので指差す先を見ると草野の下に「ww」とダブリューの文字が出ていた。


「あぁ、先輩の世代は知らないですよね、あれは笑ってるんですよ」


僕らや、それより下の世代ではよく使われる表現だったが年上の人には馴染みがないのも無理はないと思う。

それにしても「w」が出ている人を見るのは、実は僕も初めてだった。

それからもたびたび彼の下には「ww」が出て、酔っ払っているせいかたまに「v」になったりもしていた。


ひとしきり盛り上がったあと、会計を済ませ店を出ると、目を疑った。

店を囲うように生えていた芝生がきれいさっぱりなくなっていたのだ。

僕は、彼が取ったのだと分かった。

彼が笑うときに「w」を使うために芝生を拝借したのだ。

それにしてもよく笑っていたのだなと思った。

先輩たちが2次会の話をしているので草野も行くか?と振り返ると姿が見えない。

おかしいなと店内まで戻ってみると先程まで座っていたテーブルに突っ伏しているではないか。


「おい、草野起きろよ」


揺すってみたがなかなか起きないので仕方なく担ぎ上げる。

やっぱりな。

草野の下には「腹筋崩壊ww」という文字が出ていた。


その後、草野は入院し、半月のあいだ欠勤することとなった。

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