⑥
学校が見えてきたが、いつもと様子が違う。人だかりができている。よく見ると大半は大人。教師たちとテレビ撮影とかで使うようなカメラを構えた人たちが入り混じっている。その中の1人が近づいてきた。
「君たちこの学校の生徒だよね」
「はい、、」
「ちょっとだけお話聞いてもいいかな」
「はい、、」
その圧迫感に押されてそのままはいと答えてしまった。その人は後ろを振り向いてさっきよりも1オクターブくらい低い声でオイと誰かを呼んだ。さっきの人だかりの中からカメラを持った人が早歩きで近づいてくる。
「佐武陽子さんって知ってる?」
もちろん知っていた。
「同じクラスですけど」
明らかにさっきよりも明るくなった。
「どんな子だったか教えてくれるかな」
どんな子。
「あ、いや、あんまりよくは知りませんから」
そう言って足速に抜けようとした。
「君はどう?」
芽衣はまだそこに立っていてマイクを向けられていた。
「行くよ芽衣」
私は彼女の手を引っ張った。引っ張られるままに芽衣がついてくる。
「少しだけでいいから」
まだついて来る。
突然コラーっという声が響いた。そこにいた人だかりが一瞬でその声の主である体育教師の方を見た。鬼の形相である。そのまま私たちの方に向かって歩いて来る。呆気に取られてそのまま立っている私たちの横を通ってさっきのインタビュアーとカメラマンの前に立った。
「生徒に声かけんでくださいって何度も言いましたよね。まだわからんですか。あんたたちどこのテレビ局か言ってみ。ほら早く」
すいませんと小さく言ってさっきの人だかりの方へと消えていった。
今度はそのままの顔で振り返って人だかりに向かって
「あんたたちも分かりましたか。それともまだ言わなわからんですか」
と叫んだ。すると人だかり、主にカメラマンペアが学校に正対する形で一直線に並んだ。さっきまでの人だかりから学校の部外者が消え、生徒と教師だけになった。
「生徒は全員学校に入るように」
さっきの何倍も優しい口調で体育教師は言った。するとパチパチと誰かが拍手をした。それにつられてあちこちで拍手が起こる。他の教師も拍手をしている。体育教師はいいから早く教室に入りなさいなんて言っているがまんざらでもない様子だ。徐々に拍手も止み生徒が学校へと入っていく。
「私たちも入ろうか」
芽衣は頷いた。
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