「うちの親不倫してんだよね」

聞こえてなかったかもしれないからもう1度言った。

「どっちが?」

「多分どっちもだと思う。」

「なんか見つけたの?」

「お母さんが不倫してるのは元々知ってたんだけどお父さんも多分ね」

「お母さんの不倫に気づいたお父さんが不倫したってこと?」

「お母さんが先なのかお父さんが先なのかは実際のところ分からん。私が気付いたのがお母さんが先だっただけでお父さんの方が先かもしれん」


お母さんのお風呂中に携帯が鳴った。今風呂お父さんかなと思ってろくに確認もせずに電話に出たら

「みずちゃーん」

って声が聞こえた。お父さんはお母さんのことをみずきとしか呼ばないし第一声が全く違う。

「あの、どちら様ですか」

「昨日もあったのに冗談きついって」

私と母の声は似てきたと父が言っていた。

「母は今お風呂に入ってますけど」

プツッと電話が切れた。

もちろんお母さんにこの話をしたことはないけど履歴を見ればすぐわかるだろう。それでもお母さんから私に何か釈明があるわけでもなかった。

お父さんははっきりしたことはわからないがただ毎週木曜日にだけ同じ香水の匂いがする。甘い匂い。いつからかは忘れたが水曜日が早帰りデーの代わりに木曜日が残業デーだと言っていた。私でも気付く香水の匂いにお母さんが気づかないはずがない。自分もしているという後ろめたさから問い詰めないのかもうそもそもお父さんに興味がないのか。


「不倫っていけないことだと思うけどでもその気持ちがわかってしまうのが辛いんよ」

「じゃあ両親の不倫に理解があるってこと?」

「いや、むしろうちの親をというか人のものを好きになる気持ちってこと。つまりお母さんと不倫してる男とお父さんと不倫してる女の気持ちがわかるってこと」

芽衣はキョトンとしている。

「人のもの、誰かのものに惹かれる気持ちってすごくわかるんよ。ものでも人でもそれを好きなのは私だけじゃない少なくとも自分以外の1人はそれを好きでいるという安心感があるんよ」

「だから人の男を好きになるの?」

芽衣は高校に入って以降だが好きになった男の子のことは全員知っている。その全員に彼女がいたことも。

「別に狙ってやっているわけじゃないけど偶然好きになった人に彼女がいたっていうだけだよ」

芽衣はそうとだけ答えた。

「でも実際問題両親が不倫してると分かっていて日常生活を送る両親を見るとものすごく気持ち悪く見えるもんよ」

私は続けた。

「前日に知らない男と寝たお母さんと知らない女と寝たお父さんがニコニコ笑いながら朝食を食べてる。もし私が何も知らなければ仲のいい両親だなと思うくらいなんだよ。実際は全くの逆なのにね」

それでと芽衣が呟いた。

「それで近親相姦とどう繋がるの?」

「そう、そこなんだよ。」

私は少し興奮していた。

「昨日テスト勉強してる時にふと気付いたんよ。私とお父さんがそういう関係になればお母さんはまたお父さんを好きになるかもしれないと。私ってけっこうお母さんに性格は近いと思うの。ってことは私の略奪愛好きもきっとお母さん譲りなんだよ。てことはお父さんと私がそういう関係になれば私からお父さんを奪うという名目でお父さんをまた好きになるかもしれないでしょ」

「凛子は両親に不倫をやめてほしいってこと?」

「不倫どうこうというか離婚しないでほしいと思って」

「でも娘に手を出すお父さんを見たりしたら余計に離婚になりそうじゃない?」

「もちろん後から理由はちゃんというつもり。それでも離婚ってなるなら私はおそらくお父さんの方にいかされるならそれでいいと思ってる」

「なんで?」

「だって専業主婦のお母さんについてったってどゔせ大学なんていけないけどお父さんだったら大学も行けそうじゃん」

ちょうど電車が止まった。私たちの降りる駅だ。

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