それからしばらく2人は黙っていた。2年間ほぼ毎日一緒にいる。登下校も学校にいる時も。だから何も話さずただ2人で登校したり、ご飯食べたりということも普通にあることだった。むしろ仲がいいから別に話したいだけ話すという距離感ができているのだと思っていた。元々芽衣は少しぼーっとしているところがあった。男子はミステリアスというけれどこの1年半見てきた私から言わせれば芽衣は本当にただぼーっとしてるだけなんだよなあ。ただ今日はいつも以上に心ここに在らずって感じがする。

「あのさ芽衣」

「何?」

急に呼ばれて驚いたのか芽衣の声が裏返った

「さっきの話のつづきなんだけど」

「さっき?」

「近親相姦の話」

電車の音にかき消されないように思ったよりも大きな声で言ったせいでまた周りの大人の注目を浴びてしまった。

「うちの親多分不倫してんだよね」

そう言ったところでちょうど電車が駅に到着した。

私たちは一旦電車を降りて降りる人たちに道をゆづってからもう一度電車に乗り込む。いつものルーティンだ。

乗車率80%の電車がこの駅を境に10%程度まで落ち込む。この時間にこの先に行くのはせいぜい私たちのような学生か夜勤明けのバイト戦士くらいしかいない。扉に近い角の席に私が座り、隣に芽衣が座った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る