愛地凛子①

愛地璃子は人のものが好きな女の子である。隣の芝が青くみえる、そういう女の子である。兄弟や姉妹はおらず一人娘として大事に育てられてきた。

父親はそこそこの企業のそこそこの役職に就いており、まあまあの収入を得ている。ペットはおらず家族は3人。家族3人普通に過ごすには十分すぎる収入であるだろう。

母親は専業主婦である。それ以上でも以下でもなく、ごくありふれたどこにでもいる様な、専業主婦と聞いて思い浮かぶ絵に描いたような専業主婦である。

家族仲は良い方だろう。父親の帰りが遅ければ2人で、早ければ3人で夕食を囲む。休日も璃子が高校に入ってからは遠出することはほぼなくなったがそれまでは月に最低1度は家族でどこかに出掛けていた。2年に1度は海外に行っていた。中2の夏のイタリア旅行を最後に海外には行っていない。

そんな何不自由なく暮らしてきた彼女である。欲しいものは大体手に入った。それが故に欲しいものはなんでも手に入ると思ってしまった。とはいえ、彼女にも常識はある。家が欲しいだの車が欲しいだのそんなことは望まない。彼女が望むのは比較的手の届きそうなもの。友達の持っているキーホルダーが可愛いと思えば同じものを買ってつける。別に盗むわけではない。ただ買うだけ。よほど特別なものでない限り大抵のものは買ってどうにかできる。彼女はそれで満足だった。昔は。周りの友達も真似っ子する子だなぐらいの感覚でいた。

きっかけは至ってシンプルだった。中学の時に好きになった男の子に彼女がいた。それでも諦められずにその男の子に告白したら付き合っていた彼女と別れて告白を受け入れた。最初は楽しく付き合っていたがそれもすぐに冷めて1ヶ月も経たずに別れた。璃子はまた次の人を好きになった。その人も彼女がいた。またその次もその次も。そしてそれを繰り返して最初に付き合った彼氏のことをまた好きになった。もちろんその時は別の彼女と付き合っていた。そこで彼女は気づいた。誰かのものが好きなのだと。それが手に入るまでの過程を楽しんでいるのだと。彼女に悪意はない。付き合っている2人を別れさせたいという考えは全くなく、ただ単純に偶然にその男を好きになってしまった、というだけなのだ。それは悪意を持って接してくるやつよりもよっぽどタチが悪い。もっと悪意を持って近づけば多少感のいい男であれば気付けるかもしれないが純粋にただ好きという気持ちしかない彼女を見て略奪愛専門家と見抜くのはほぼ不可能である。まして彼女は可愛い。近寄り難い美女というタイプではなくちょっといけるかなというくらいのかわいいタイプの女の子である。好きという純粋な気持ちがそうさせているのか自然と男を惑わす仕草もこなしている様に見えた。時には汚い手を使ったこともあったらしい。

以上が愛地凛子についてである。

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