公転するフェティシズム

羊糸羽己

エピローグ

作っておいた合鍵で屋上への鍵を開ける。カチャリという音が響いた。ゆっくりとドアノブを回し屋上へと彼女は1歩を踏み出した。夏とはいえこの地域の夜は少し肌寒い。ブレザーでも着てくれば良かったと彼女は思った。


ふぅっと息を吐いて歩き出す。1歩また1歩と踏み締めるように。早く行きたい気持ちを必死に抑えて。早足にならない様に。


彼女は興奮していた。まるで遠足の前日の子供の様に。はたまた好きな子に告白する直前の様に。もしくは青のコードを切る直前の蘭の様に。いや、彼女の感情はそのどれもを凌駕する。

これから起こることへの期待と、今までの自分への光悦、1度きりという緊張。

あれ以来この屋上にはフェンスが付けられることになっている。つまり今はない。

彼女は夜を背に校舎の端に立った。スマホを取り出しカメラを起動する。カメラをインカメにして自分の顔が映る様に手を伸ばした。興奮して頬が赤くなった彼女とその後ろに街の灯りが写っていた。


彼女は徐々に重心を後ろに持っていきあっという間に夜に消えて行った。地面に着くまでのわずかな時間彼女は必死にスマホに映る自分を見続けた。ゴンという鈍い音が響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る