第9話

 「あの人、昔テレビに出てたらしいよ。犯罪者として、割とワイドショーのネタになっていたよね。久見木太郎の妻を襲ったって、しかもその人のことが好きで、ストーカーだったって。」

 「怖っ!」

 「怖っ!」

 ありふれたセリフはひどく僕を傷つける。心酔したまま、彼らは語るのだ。他人を傷つけるセリフを、罪の意識も持たずに、それはきっと無礼なことなのに、罪悪がない。

 「助けて!」

 あの時だった、久見木海名に再会した時、彼女はひどく憔悴していた。どうやら事情を聞いてみると、久見木太郎という彼女の夫からひどい暴力をうけていて、もう正気を保っていられない程、損傷しているようだ。体も、心も。冷静な判断ができないくらいに、衰弱していて、昔の彼女を知っている僕からすると、ひどく胸が締め付けられてしまった。明るくて、優しい女の子だった久見木海名。

 泣きわめいて、倒れる。起きた時には記憶を失っているかのようにあいまいな様子で、ひどく苦しい状況だろうに、笑っている。

 壊れてしまった。

 だから、僕は沈黙を選ぶ。

 久見木海名がしたことを、隠すように、だって、不可抗力だろう、久見木太郎が死んでしまったのは。

 傷害罪で逮捕された僕は、そのまま殺人罪で服役することとなる。彼女のために、久見木海名のために。僕は、久見木太郎と、久見木海名を襲った変質者として片づけられる。

 僕たちは二人そろって、盲目だった。盲目にならざるを得えない人生を生きてきた、それは確かだ。僕たちは、まともから乖離するように生きてきたからこそ、盲目を選んだ、選ぶことができたと言っていい。だろうか。だろうか?

 分からない、全く分からない。

 こんな結末で、一体何が良かったのか、分からない。

 きっと僕たちは、何一つ良かったことなんて、最初から無かったのかもしれない。

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二人の行く末 @rabbit090

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