第6話
活字は僕を飲み込む。
持て余した空白を、埋めるために、利用する。だから、だって、いらないんだ。本当は僕なんて、無かったように感じるのだから。
「おい礒橋!」
エピローグ
響き渡る嬌声を傍目に、ただ歩き続ける。でもどこまで行っても出口はないのだから、突き当たる。現実に、そして問題に。だから僕は問う、「ただ幸せになりたいって、人並みを望むのだと。」神様のような存在に、どうせ彼らはいつも助けてはくれないのだから、ただ聞いてくれと投げ捨てるのだ。
今持っている物をすべて失ってしまったような感覚がまとわりつきながら、一歩一歩を踏みしめる。気付けばすべて泡のようなものだったということに、僕は愕然としているらしい。
この暗い地下の道を突き進む、いや、逃げているだけなのだがね、うん、もう僕は25歳。今の自分は、もうまっとうには生きられないらしい、と気づく。
「おい礒橋って!」
ふと我に返る。そうだ、今は中学二年生で、佐藤の授業を受けているんだった。そして、強烈に呼びかけられているらしい。
「お前、最近どうしたんだ?寝不足か?だって、白目むいてただろう、意識飛んでるじゃないか。」と、怒ってるのか心配しているのか分からない、得も言われぬ表情をこちらに向ける。だいたい、僕だって分かっている。自分がおかしいってことくらい。だから、「は?」白けた言葉を、年が10以上離れた大人ということも勘案できず、放つ。これを投げやりというのだなと、知る。
「あ…。」佐藤は多少困った顔をして見せ、周りの生徒も困惑した様子で、僕は全くすべてがどうでも良かった。
星本海名を失ってから、ひどく空虚な心地になっている。そして思う。僕はこれから大人になっても、ずっとこのままなのだろうと。まだ想像できない未来というものに、もう期待を寄せることはできなくなったみたいだ。
ああ、さっきから鳴り止まないのは一体何だろう?どうやってかこうやってか、頭を貫くようだ。
「あ。」
気が付けば僕は学校へは通っておらず、記憶もいまいち濃さを纏わなくなり、ただ必死にもがくよう。だから、もう戻れない、いや戻る場所を失ってしまったみたいだ。誰が待っているというのか、僕は絶対に幸せにはなれない。多分、それは生まれつきとして決まっていることで、覆しようのないことなのだと、ここまで生きてきて、ようやく辟易したんだ。
だから、25歳になった今、こんな迷路のような回路を抜け出そうと苦慮している。いくら、いくら。重ねても重ねても意味がないのなら、いっそ止めてしまおう。
思い出す。
「星本海名。」この響きは甘かった。溶けそうな心地で、僕は融解しているんだろう。でも、きっともう放っておけばいいのだ。そのはずなのに、そう言えば。
でも、そう言えば、消えてしまう前に一度、あの子に、あなたに、思いを伝えてみようか。どこにいるのかも、生存の可すら確認できない空想の生物と言っていい人に、手紙を書くことにした。これは、最近流行りのネット上にアップしよう。
カウントする。僕が死ぬのがいつか、彼女から返事が来るのがいつか、とね。ああ、思う。僕には死ぬという選択肢はなくて、生きるしかないのだ。だが、いくら考えてみても割と絶望的な方向へしか未来は見えなくて、だからこうやって転がり落ちるらしい。
うう、うう。
微かに響くのは、鐘の音?ん、何だろう。西洋というよりは東洋、そんな音だ。
はっ。
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