あの時の秘密が今明かされた

 亜利沙と藍那はモテる。

 それはずっと彼女たちを見ていれば自然と惚れたり、或いは一目惚れという形でその魅力に囚われる者も多い。

 普通の高校生の枠に収まらないほどの魅力を兼ね備えているからこそ、彼女たちは異様にモテるのである。


「三年の新条先輩たちってめっちゃ美人じゃね?」

「ヤバいよなぁ。綺麗なだけじゃなくて体もエロいし」

「それな! 俺告白するわ!」


 そんなこんなで今年の新入生の中でも既に二人のことは話題になっており、こうして告白の算段を立てる生徒が居るのも少なくはない。

 しかし、皆が皆そうだというわけではないのだ。

 亜利沙と藍那の傍に隼人も良く居るのもあるし、彼女たちが隼人に対して全面的な信頼を置いている様子もかなり見られている。


「あのさぁ、特に知り合ってもない先輩にいきなり告白ってどうなの?」

「そうそう。しかも教室で体がエロいとか言うのやめてくんない? アンタたちみたいなのに好かれる先輩が可哀想よ」


 っと、そんな風に言われることもあるので意外と新条姉妹に対するアクションは少なくなった。

 彼らも本気で口にしたわけではないのだろうが、それでもずっと前から見ていた感覚がないからこそ今の彼女たちの雰囲気に分かってしまうのだ――彼女たちは隼人しか見ていない、それを嫌でも理解するからこそ行動に移すことはなかった。


「……変なことして同級生に嫌われるのはなぁ」

「それな。嫌われる以前に変な目で見られるのは勘弁だぜ」

「……取り敢えず一番最初のテストに向けて勉強頑張ろうか」


 亜利沙と藍那は告白が増えたりするのではないかと嫌がっていたが、今年の新入生はかなり物分かりが良いようで心配した事態にはならなそうだ。

 そして何より、隼人の存在がやっぱり大きかった。


「でもさ、堂本先輩ってなんかこう……凄く頼れる雰囲気だよね」

「私少し前に落とし物拾ってもらったんだけど、凄く優しく声を掛けられたよ」

「へぇ……やっぱりあんな美人な人たちに気に入られるってことは性格が良くて優しい人なんだねぇ」


 このように隼人のウケもまあまあだった。

 偶然ではあったが隼人が少しばかり言葉を交わした後輩がこのように喋っていたので、彼の人となりがプラスの意味合いを込めて僅かに広がっていた。

 ただ、同級生に関してはまだ少し安心は出来なさそうなのが隼人や姉妹にとっての面倒ごとにはなるのだろう。







「……はっくしょん!!」


 突然に鼻がムズムズしてしまい俺は大きなくしゃみをした。


「誰か噂でもしてんのか? まあ心当たりはたくさんあるけど」


 どうせ亜利沙や藍那のことだろうなと俺はため息を吐く。

 今の俺は校庭の木の陰に寄り掛かっており、友人たちとクラスメイトがやっているサッカーの様子を見つめていた。


「うちの体育は本当に自由だよなぁ」


 新年一発目の体育ということで、ほぼほぼ自由に過ごしていいとのことだ。

 男子たちはサッカーをしているし、女子たちはソフトボールをやって各々楽しんでいる。

 俺のように休憩をしたりして眺めている生徒も多く、そんな俺たちを見ても担当の先生は何も言わずに審判をしていた。


「……ふわぁ」


 しかし、こうやってジッとしていると眠くなってくる。

 四月ということで寒い時期を乗り越えた後、段々と暖かくなってきた時期だからこその陽気に眠気を誘われてしまう。


「普通に寝てる奴も居るのか……」


 体操服が汚れるのを気にすることなく地べたの上で横になって寝ている奴も居るので少しの居眠りは許容範囲だろう。

 俺の傍には誰も居ないのでこのまま背中を木に預けて眠ることにした。

 とはいってもすぐに眠りに就けるわけでもなく、しばらくはジッと目を閉じていたのだが……二人分の足音が近づいてきた。


「ふふ、隼人君ったら寝てるね」

「そうね。腕を組んでる姿はまるで神様みたい」


 近づいてきたのは亜利沙と藍那のようだ。

 二人とも運動神経は抜群なのでソフトボールでも大活躍をしていたようだが、他の休憩していた生徒と入れ替わってのお休みかもしれないな。


「……………」

「起こしちゃう?」

「やめなさい。私たちも傍でゆっくりしましょう」


 隣に二人が腰かけたのを感じた。

 俺を起こす気は一切ないのか二人とも隣に座っただけで触れたりはしてこないのだが、僅かに風が吹くと二人から放たれる甘い香りに鼻孔がくすぐられる。


「……ふ~ん?」

「姉さん」

「分かってるわよ」


 なんだ?

 気のせいか二人の距離が近くなった気がする。

 別に寝てるフリをする必要はないししたところで何かがあるわけでもない、それでも一度こうすると最後まで貫き通したくなるってものだ。


「この木の陰でこうしてるとあの時を思い出すなぁ」

「あの時?」

「うん。以前にここで隼人君が眠っている時があったの。起きるまでずっと私は待ってたんだよ」


 それは隼人にとっても懐かしい記憶だ。

 藍那とまだ知り合ったばかりの頃にこうして眠っていたのだが、目を覚ました時に物凄い近くに藍那の顔があってビックリした。

 今思えば既にあの頃から俺がカボチャ野郎だと気付いていたんだろうし、好意的に接してきたことにドギマギしていた俺を見て藍那はどう思っていたんだろうな。


「隼人君が眠ってるから言えることなんだけど実は私、ちょっと隼人君の指を使って悪戯したんだよね♪」

「悪戯?」

(悪戯?)


 悪戯とはどういうことだ?

 気になった様子の亜利沙と同じで俺も気になり、眠ったフリを継続しながら藍那の言葉に耳を傾けた。


「こうやって……起きないよね? だって眠ってるんだから♪」


 そう耳元で囁かれ、俺は肩を震わせそうになったが何とか耐えた。

 先ほどまで腕を組んでいたが、だらっと下げた俺の腕を彼女は触ってどこかに導いた。

 それは柔らかな布のような質感で、丸い小さな膨らみと何かを迎え入れるような口のような感触だった。


「こうやって眠っていた隼人君の指で一人でやっちゃったの♪」

「あ、あなたねぇ!」

「……………」


 この感触とその言葉で俺は全てを理解した。

 思えばあの時、俺の指に絡みついたヌルリとした液体は一体何だったんだと疑問に思ったことは今でも思い出せる。

 指と指で擦るとねちゃっとした音が響き、匂いはどこか酸っぱいというか嗅いだことのない香りだった。


「ふふ、あの時の真実を知ってどう思った? 隼人君♪」

「……………」

「寝てるフリをするの? それなら私と姉さんで同じことしちゃうよ?」

「……悪くないわね」

「起きてま~す!」


 俺はすぐに目を開けた。

 相変わらず俺の指の先は藍那の大切な部分に触れており、俺は傷つけることなく優しく指を離した。


「最初から起きてたんでしょ?」

「まあな……別に寝たフリをしようとか思ったわけじゃないんだが……まあ流れでああなったわ」

「そうなんだ。で、どう思ったの? あの時から私、隼人君のことを思ってお股を濡らしたドスケベだったんだよ?」


 耳元でそういうエッチな言葉を喋らないでほしい、雰囲気も相まって俺もちょっと大変なことになりそうだからさ。


「あの時スッキリしたというか、満足した様子だったのはそれが理由なのね。全く油断も隙も無いんだから」

「亜利沙さん? そういう問題では……」


 ここはビシッとこんな場所でそういうことはダメだと怒るところだと思うのだが、というかさっき亜利沙も藍那の提案に頷いてなかったか?

 この二人、俺がこの場でしようって言ったらいかにしてバレないかを考えて普通に要望に応えてきそうだ。


「まだ体育の時間は終わらないし、もう少しゆっくりしようよ」

「そうね。ほら隼人君」

「おう」


 まあとはいえ、彼女たちの提案には賛成だ。

 その後、俺は二人と楽しく会話をしながらクラスメイトたちの運動する姿を見学するのだった。

 しかし……まさかあの時の秘密にこんな真実が隠されていたなんてな。

 やっぱりあの時から俺はどう足掻いても藍那に見つけられる運命だったようだ。

 

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