友人たちから見た亜利沙と藍那
新学期早々、多くの視線を集めるというある意味予想通りの現実に新条姉妹の友人たちは苦笑していた。
「いやぁ流石は亜利沙と藍那だねぇ」
「ほんとほんと、どんだけモテるんだっつうの」
彼女たちは二年の時も新条姉妹と一緒のクラスで、今回も見事に別れることなく同じクラスになった。
二人がモテることはもはや周知の事実だったが、高校生最後の年ということで本格的に彼女たちを狙う男子が本当に増えた。
「まあでも、本当に相手されないのになぁ」
「ね~。今も堂本君の傍だし」
二人が視線を向ける先では隼人と姉妹が楽しそうに会話している。
何を話しているのか気になるが、あの姉妹のことをずっと友人として知っているからこそあんな風に楽しそうにしている姿は微笑ましいものだ。
「ねえ見てよあれ」
「……わお」
隼人たちから視線を外して目を向けた先には悔しそうに見つめる男子の姿だ。
二人をしつこく誘おうとした板橋の姿もそこにはあって、どうやらまだまだ諦めてはいないようだ。
諦めれば良いのにと呆れた表情になるのだが、それだけ気になるという気持ちが強いのだろう。
「アレを見て諦められないのが不思議だよ」
「マジで」
再び隼人たちに視線を向けた。
さっきまでは普通に話をしているだけだったのに、いつの間にか藍那が隼人の背後に回って体を引っ付けていた。
椅子に座っている隼人の背後から抱き着くようにしているので、彼の頭が藍那の豊満な胸を枕にしているかのようだった。
「ああいうのを平気でするんだもん、昔じゃ考えられないわ」
「そうだよね。堂本君に二人が助けられたってことは聞いたけど、具体的に何があったかは知らないし」
数年に及ぶ友人としての勘からあまり深く聞くのはダメだと直感したため、姉妹の身に何が起きたのか詳しいことは聞いていない。
もしも亜利沙と藍那が辛い顔をしていたり、何か思い詰めるような顔をしていたら助けるつもりでいたのだが、隼人が居ることで二人が幸せそうならただ見守るだけで良いと考えている。
「結局、どっちかと付き合ってるのかな?」
「見た感じボディタッチが多いのは藍那だし……藍那?」
「それで言うなら亜利沙とも腕を組んでたけど」
「……じゃあどっちとも?」
「まさか~」
このご時世に二人の女性と付き合うなんてそんなまさかと彼女たちは笑った。
しかし彼女たち、心のどこかでそんなもしかしたらを想像しているのも確かだったわけで、むしろそうでないとどっちかが悲しむからそうであってほしいと願っていたのだ。
「あ、亜利沙も近づいて……ひゅ~」
「おっぱいサンドイッチじゃん堂本君代わってくれないかな」
おそらく亜利沙と藍那の間で何かしらの言い合いが起きたのだろう。
藍那を睨むようにして亜利沙が近づいたが、藍那と向き合うということは間に隼人を挟むということである。
顔の正面から亜利沙の胸、後ろからは藍那の胸に挟まれた隼人の耳が真っ赤になっていた。
「ていうか代わってって何よ」
「だって気持ち良さそうじゃん。二人とも巨乳だし」
「……まあ確かに」
姉妹はその美貌だけでなくスタイルの良さも羨ましがられる一因だ。
友人たちも決してスタイルが良くないわけではなく、高校生という枠組みの中では大人の色気を既に漂わせているのでただ比べる相手が悪かったというだけだ。
「あはは、ピキッてる」
「男の嫉妬って醜いわぁ」
教室でイチャイチャするなと言われても仕方がないほどに、隼人たち三人はあまりにも距離が近すぎる。
それでも女子たちはみんな亜利沙と藍那の二人と仲が良いし、彼女たちを通じて隼人の人柄も知っているので受け入れられていた。
男子に関してはいつも隼人とつるんでいる友人はもちろん、変にプライドの高い板橋のような男子たち以外とは良好な関係を築いている。
「あ、戻ってきた」
「おかえり~」
もう少しで授業が始まるので亜利沙と藍那は戻ってきた。
「何を言い合いしていたの?」
「今日の放課後はどっちが隼人君と過ごすのか」
「うん。偶には二人で過ごしたい日もあるんだよ」
アンタたちもう付き合ってるじゃん、そう二人の心の内は一致した。
そして時は流れて放課後、どうやら本日の隼人と過ごす権利は亜利沙が勝ち取ったらしかった。
残念ながら亜利沙に勝ちを譲った藍那はというと……。
「あそこで私がもう少し吸う力を強くすれば行けたのにぃ!!」
「吸う力?」
「どういうこと?」
悔しそうにする藍那の言葉に二人は首を傾げた。
昼休みに何やら二人で勝負をしたようだが、その勝負の中身に今の吸う力というのが関わっているらしい。
「まあ内容に関しては秘密だけど。よし! こうなったら遊ぶよ二人とも!」
「はいは~い」
「そうこなくっちゃ」
今街中に居るのは藍那を含めて三人だけだ。
実を言うと藍那がフリーということで男子たちがこぞって誘ってきたのだが、藍那は断りなんなら友人たちがブロックするように守っていた。
『……ウザいなぁ』
学校を出てすぐ全く隠そうともしない藍那の一言に友人たちはクスッと笑ったりしたが、時折毒づくのもまた藍那の良いところだと思っている。
最近は藍那も隼人とばかり一緒だったので、友人たちはしっかりと藍那との時間を楽しむように色んな場所を回った。
「……あ、奏ちゃん!」
ふと藍那が声を上げた。
どうしたのかと友人たちが目を向けると、こちらに顔を向けたのはこれまた美少女だった。
亜利沙と藍那に劣らないほどの美貌を持った少女の姿に、二人はつい可愛いと言葉を漏らした。
「こんにちは藍那さん」
「こんにちは奏ちゃん」
そこからは突然ではあったものの奏も合流した。
藍那はともかく友人たちからすれば奏という少女のことは全く分からないので色々と話をするのだが、一番最初に分かったことは奏もまた隼人のことを慕っているということだ。
「……堂本君って本当に何者?」
「リアルハーレム漫画の主人公じゃん」
学校でも有名な美人姉妹、そして従妹に当たるこれまた美人の女の子……これは男子が嫉妬するわけだと二人は頷いた。
「お兄さんはそんなものではないです。鈍感ではなく、ちゃんと理解してくれる素晴らしい方なんですから!」
「どうどう! 奏ちゃん抑えて抑えて」
鼻息荒く声を上げた奏を藍那が落ち着かせるように背中から抱き着いた。
どうやら少しでも隼人のことを悪く……まあ二人は一切そんなつもりはなかったのだが、奏にとってそう思わせることは禁句なのだなと分かった。
「なんか……良い光景よね」
「うん。目の保養っていうか」
二人の目の前では藍那と奏が仲良く歩いている。
類い稀なる美貌を持った二人が寄り添う姿は言葉にしたように目の保養であり、ここに亜利沙が加わると凄まじいことになりそうだと胸が躍った。
「堂本君が三人に囲まれているところが見たいかなぁ」
「いいね。どんな顔をして三人と接するのかな」
毎日良い思いをしていそうだし、時には困った顔くらいは見せてほしいと友人たちは肩を震わせて笑うのだった。
「……はっくしょん!」
「風邪?」
「いや、誰か噂でもしてんのかな」
場所は打って変わり、亜利沙とデートを楽しむ隼人が盛大なくしゃみをした。
思いっきり鼻水が飛び出るほどの強烈なくしゃみだったが、すぐに隼人はティッシュを取り出して鼻を噛む。
「ふふ、可愛い隼人君♪」
本来なら鼻水を垂らす姿など人に見せられたものではなく、ましてや恋人には絶対に見せたくない恥ずかしい姿のはずだ。
それでも亜利沙は全く嫌な顔をせず、逆に可愛いとさえいうほど……もう何をしたとしても、亜利沙が隼人に対してマイナスの感情を抱くことはなさそうだ。
「……あ、隼人君!」
「おっと……」
ぼふっと音を立てて亜利沙が隼人の胸に飛び込んだ。
どうしたのかと思っていると、背後から聞き覚えのある話し声が聞こえてきたのだが、その声は板橋を含めた同級生だ。
どうやら彼らに会うのが心底嫌らしく、こうして亜利沙は隠れたのだろう。
「そんなに嫌なんだ?」
「嫌よ。みっともなく嫉妬をして見当違いのことを考える人なんて大嫌い」
その声は嫌悪をこれでもかと敷き詰めたような声だった。
しばらくして彼らが居なくなると亜利沙はいつも通りに戻り、隼人に対して花の咲いたような笑みを浮かべた。
「デートの続きしましょうか」
「おう」
全くの脈無し、それを彼らが知るのは案外早かったりする。
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