亜利沙は吹くらしい
「おいひぃ!」
「ちょっと藍那、口の中にモノを入れたまま大きな声を出さないの」
夕飯の時間だ。
テーブルに並べられた豪華な食事を口に運び、あまりの美味しさに藍那が感動したように大きな声を漏らした。亜利沙がビシッと注意をしたが、藍那の気持ちも凄く理解できる。
「まあ今日くらいは良いんじゃないか? めっちゃ美味いし」
「……そうね。隼人君の言う通りかしら」
基本的に作ってもらった料理を美味しいと俺は感じるが、やっぱりこうやって旅館だからこそ出てくる料理も大好きだ。旅館ならではの郷土料理、特にこの新鮮なお刺身とか最高に美味しい。
「お刺身も良いですが、この煮物も美味しいですよ?」
「食べさせてください咲奈さん」
「は~い♪」
食べさせてください、そう伝えると咲奈さんは俺のすぐ近くに移動した。元々人間一人分の距離を置くように隣に座っていた咲奈さんだが、その間を埋めるように隣に来たことで甘い香りが仄かに漂う。
「はいどうぞ♪」
煮物を箸で掴み、零さないようにと手を添えて俺に差し出した。
「あむっ……美味しいですね」
「私も参考にしたい味ですね。一体どのように味付けしているのでしょうか」
咲奈さんもそうだし、亜利沙と藍那もこの料理に負けないくらいに美味しい料理を普段から作ってくれるからなぁ。この味を再現出来なくても、彼女たちが何かを作ってくれるだけで俺は嬉しいんだ。
「やっぱりいいものですね。こうして隼人君や娘たちと揃って旅行って」
「ですね。俺としても本当に嬉しい限りですよ……ありがとうございます咲奈さん。こんな素敵な時間を作ってくれて」
チェックインの時も言ったことだが、今回の行き先などは全て咲奈さんが予定を立てた。なので今こうして彼女たちと素晴らしい時間を遅れているのも咲奈さんが居てこそだ。
「隼人君……♪」
嬉しそうに笑った咲奈さんは僅かに頬を上気させた。いつも思うけど、本当にこの人の笑顔は色気をふんだんに漂わせながらも可愛らしい。この笑顔は俺だけしか知らないし見れないようなものだが、誰が見ても大学生のお姉さんにしか見えないよな。
「母さん、せっかくだからお酒を飲んでも良いんじゃない?」
「そうね。良い機会だからもらおうかしら」
この旅館はビールもちゃんと出してくれていた。まあ最初から咲奈さんも飲むつもりだったみたいだし、普段あまり飲まないから全然飲んじゃってくださいよ。
「あ、俺が注ぎますよ」
「あら。それじゃあお願いできますか?」
咲奈さんのコップにビールを注ぐと、しゅわっとした音を立てる。俺は当然未成年なので酒はまだ飲めないが、数年もすれば咲奈さんとこうしてお酒を飲む時間も是非作りたいものだ。
「……美味しいです♪」
ゴクゴクとビールを飲んだ咲奈さんが満足そうにそう言った。でも咲奈さん、まだ少ししか飲んでないのに顔が真っ赤なんだよなぁ……お酒は好きだけど弱いことも知ってるから俺たちも気を付けないと。
「それにしても藍那は良く食べるなぁ」
「え~、だって美味しいもん♪」
まあ気持ちは分かるけどな。藍那にそう言ったけど俺も手は止まらない。隣でちびちびとビールを飲むことにシフトした咲奈さんが俺の太ももに手を添えてきたのを感じながらも、俺は特に気にせずに箸を進めていく。
「あぁ……隼人君♪」
……どうやらもう酔っ払っていた。
さわさわと太ももを撫でる咲奈さん、少し暑いのか浴衣の帯を緩めた……いや、緩めたというか完全に外した。するといとも簡単に着崩れ、下着を付けていないその大きな二つの膨らみがぶるんと解放された。
「暑いですねぇ♪」
「……………」
……ねえ咲奈さん、どうしてあなたは存在自体がそんなにもエッチなんですかね。
かろうじて大事な部分は見えていないが、それでも咲奈さんが少し体を揺らせばすぐに見えてしまうだろう。
「母さん、まだご飯の時間よ?」
「分かってるわよぉ! 私ぃ、そんなに節操なしじゃないですからね隼人君!」
「どの口が言ってるんですかね……」
「むぅ! そんなことを言うお口はチャックしちゃいますよ!」
むぎゅっと、酒の臭いを漂わせる唇を重ねてきた。
俺の口の中にはまだ料理の残骸が残っているのだが、咲奈さんはそれでも構わないと言わんばかりに口内に舌を縦横無尽に這わせた。藍那はパクパクと料理を食べながら俺たちを見つめ、亜利沙は困ったようにため息を吐いていた。
「……もう隼人君ぅん、ちゃんとご飯は食べないとぉ」
甘ったるい声が脳に沁み込んでくる。とはいえ、食事をする俺にちょっかいを出しているのが咲奈さんなんだけどなぁ。まあ俺もある程度食べたし、ここからは咲奈さんの相手をするか。
「ご馳走様でした。ほら、おいで咲奈さん」
「わ~い!」
「……可愛すぎかよ」
胸に飛び込んできた咲奈さんの頭を撫でながら、俺はそれからの時間を過ごすのだった。しばらくすると咲奈さんはうつらうつらと眠たそうに目を閉じたり開けたりしている。俺が言うのもあれだけど、寝る前にみんなで愛し合うって約束をしたわけだが今すぐにでも眠ってしまいそうだ。
「眠たいですか?」
「……寝ません」
あ、これはすぐに寝るな絶対。
咲奈さんはすぐに寝落ちする、そう思っていたが彼女は必死に耐えていた。一瞬意識を落としそうにしながらもハッと目を覚まし、俺を見つめて微笑んではすぐにまた眠りそうになりを繰り返す。
「……なあ亜利沙、藍那」
「なに?」
「どうしたの?」
「咲奈さんが可愛すぎてヤバいんだが」
俺の言葉に二人は笑った。
料理を食べ終えた二人が俺のすぐに傍に来て抱き着いている咲奈さんを見た。
「お母さんを眠らせないようにするには簡単だよ隼人君、悪戯しちゃおう♪」
「悪戯?」
「まあ確かに、体に快楽が走れば嫌でも目を覚ますでしょう」
あ、そういうことですか。
まあそうは言っても流石にすることはない、だって先にテーブルの上に並んだ食器類を片付けに来る旅館の人たちが居るからだ。何をするにしても、まずは彼らが食器を手に去ってくれないと落ち着くことも出来ない。
「って今の咲奈さんの姿マズくない?」
「本当だね。はい毛布」
慌てる俺と違って二人はいつも通りだ。なるほど、これが俺よりも長い時間咲奈さんを見ていた余裕というやつか。
「失礼します。食器を下げに参りました」
三人ほどの従業員が部屋に来て食器を片付け始めた。
一応咲奈さんに毛布は被せているが、解けた帯が少し見えている時点で彼らが俺をどんな風に見ているのか考えたくもない。
「隼人君……早くエッチしましょうよぉ」
「……………」
出来ればもう少し後に言ってほしかったなそれは!
ギョッとしたような視線を向けてくる彼らだが、俺も彼らと同じ立場なら視線を向けてしまうことだろう。亜利沙も藍那も俺に引っ付いてるし、爆発しろとでも思われているのかな。
それから彼らが去ったところで俺はふぅっと息を吐いた。
取り合えず歯を磨いて少し落ち着きたい気分だ。咲奈さんの頬をムニムニッと触ると幸いにか彼女は目を覚ましたみたいだ。
「みんなで揃っての温泉旅館、やっぱり最後はみんなで楽しく……ね?」
「そうね。でもあまり汚さないように気を付けないと」
「ふふ、それは亜利沙でしょう? 私と同じで良く吹くじゃない」
「黙りなさい母さん!!」
よし、歯を磨いてくるぞ!
……まあでも、やっぱり俺も男だしこういう時は大きな期待をしてしまうものだ。どんなことをしたとしても彼女たちと一緒なら楽しい思い出に変わる。今日もまた一つの思い出を刻むことにしよう、ずっと忘れることのない甘い思い出を。
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