娘の居ぬ間にお株を奪う

「それじゃあ祖父ちゃん、待ってるよ」

『あぁ。楽しみにしておるよ』


 楽しみだと電話の向こうから伝わってくるかのようだ。

 今のは祖父ちゃんからの電話で、近々俺の様子を見たいからこっちに来るとのことだ。長く居るわけではなく、数時間程度で帰るみたいだけど俺も久しぶりに祖父ちゃんに会えるのは嬉しい。祖母ちゃんにも会いたかったが、近所のおばさんたちとゲートボール大会の予定がちょうど入ったらしい。


「……残念がってたか。俺もだよ」


 いや、今度は俺から会いに行けばいいか。

 祖父ちゃんも祖母ちゃんも本当に俺には良くしてくれているし、何かお土産でも買っていこうかな。


「隼人く~ん♪」

「おっと」


 電話が終わったのを見計らい、ずっと傍に居てくれた咲奈さんが両手を広げて抱き着いてきた。実は祖父ちゃんと電話をしている時もずっと傍に居たのだが、途中で変わったりもしていた。


 亜利沙と藍那はまだ少ししか話したことはないけれど、咲奈さんはそれなりに良く連絡を取り合っているので祖父ちゃんたちにもかなり気に入られていた。祖父ちゃんに至っては娘が帰って来たようだと少し泣くことも以前にあって、それで咲奈さんが母さんに悪いと慌てていたこともあったか。


「今日は二人が居ないので二人の時間を楽しみましょうね♪」

「ですね」


 そう、今日は珍しく咲奈さんと二人っきりだ。

 以前に俺が友人たちと出掛けていたように、今日は二人とも揃って友人たちと遊びに出掛けている。何事も俺を優先してくれるのは嬉しいが、やっぱり友達付き合いも大切にしてほしいからな。


「咲奈さん、電話で聞いたように祖父ちゃんが来るそうなので」

「分かりました。何か美味しいお茶菓子を用意しておきますね」

「あ、お願いします」


 言わなくてもそこまでしてくれるのか……元々俺が用意するつもりだったし、こういうところも本当に優しいよな。ついつい咲奈さんの頭を撫でると、彼女は気持ち良さそうに目を細めた。うん可愛い。


「……今がやり時ですね」

「やり時?」


 そのやるはヤルってことですか? そんな目を向けていた俺を見て咲奈さんは色っぽく微笑み、ちょっと待っててと言ってリビングを出て行った。一体何をするのかと内心ワクワクドキドキする中、彼女は戻って来た――いつぞや亜利沙と一緒に着たメイド服姿となって。


「……おぉ」

「じゃ~ん♪ せっかく亜利沙が居ないので、今日はあの子のお株を奪おうと思います♪」


 いや別に亜利沙もメイドがお株というわけでは……まあそれは置いておこう。本当にあの時も思ったけどこの人のメイド服は破壊力が凄まじすぎる。


「どうですかぁ?」


 甘い囁き、脳まで蕩けそうになる声に意識を吸い寄せられる。何がメイドだ、こんなメイドが傍に居たら平常を保てる人なんて居ないぞ絶対。俺は目の前でクルっと回った咲奈さんを見つめた。


 亜利沙が着ていたメイド服とほぼ同じタイプだが、その胸元が本当にパツパツである。あの時は服の耐久力がその豊満な胸を収めきれずに弾け飛んだが、今回はまだ耐えていた。


「……その、破壊力がヤバいです」

「ふふ、嬉しいですね♪ 隼人君だけのメイドさんですよ」


 片目を閉じてウインクをした咲奈さんに思わず飛び掛かりそうになったが、俺は必死に自分を抑えるように我慢した。これが亜利沙だとお互いに若さもあってすぐ開戦の狼煙が上がるのだが……。


「隼人君。このメイド服に身を包んだドスケベボディに悪戯したくありませんか?」

「……すぅ」


 もうね、自分の体を見せつけるようにドスケベボディなんて口にする時点でとんでもないエロスを感じさせるのだ。何度も言うが、最近になって咲奈さんの魅力は止まることを知らない。一緒に買い物に向かった際でも……まあ少しキスをしただけで咲奈さんは発情に近い状態になるのだが、その時に振り撒かれる女のフェロモンに色んな男が目を向けてくるくらいだ。


「咲奈さん、おいで」

「あ♪」


 咲奈さんに対して敬語を抜いた喋り方をすると、彼女は従順な様子を前面に押し出して俺の前に膝を突く。その姿はそれこそ主人に何かをしたいと考えるメイドのような印象を抱かせる。


「取り合えず、しばらくそのままで居てもらっていいですか? もう少しその状態の咲奈さんを見ていたいので」

「分かりました。好きなだけ見てくださいご主人様♪」


 冗談抜きで本当に破壊力がヤバいんだって!

 隣に座った咲奈さんはジッと俺を見つめてくる。テレビの音が聞こえるがそちらに一切気を割くことなく、彼女はただ真っ直ぐに俺だけを見つめていた。


「……………」

「♪♪」


 そして、目が合っただけで彼女は嬉しそうに微笑んだ。頬に手を添えると瞳に期待を滲ませる色が浮かぶ。ただ、さっきも言ったようにもう少しこの可愛い咲奈さんの姿を眺めていたい。


「咲奈さんはエッチですよ本当に」

「こんな風にしたのは隼人君なんですからね? まあでも、自覚はしていますから私も。でも隼人君が喜ぶことしかしてませんよ?」

「……そうですね」

「うふふ♪」


 やっぱり咲奈さんには勝てないなどこまで行っても。

 俺はそのまま咲奈さんを押し倒し、その豊満な胸に顔を埋めた。悩まし気な吐息を咲奈さんは漏らすが、それでもずっと俺の好きなようにさせている。

 そんな風に咲奈さんと飽きることのないイチャイチャを繰り広げていた時だった。


「……その、最近どうですか?」

「え?」

「私……お腹周りとか少しお肉が……」

「……あ~」


 そう言われて俺は咲奈さんのお腹に手を当てた。

 別に今までと何も変わりはないが、確かに亜利沙や藍那に比べて少し肉は付いているなと思う。でも太っているというわけではない、触ってとても気持ちが良いしむしろこれくらいの肉付きの方が良いんじゃないかとさえ思うけど。


「全然良いと思いますよ。逆にこれくらいの方が……ほら」

「ぅん♪」


 ギュッと抱きしめてスリスリとお腹や背中を撫でる。


「凄く気持ち良いですもん。咲奈さんの魅力はこんなことで失われたりしません。いつも咲奈さんは凄く綺麗です」

「……隼人君♪」

「嘘言ってないですよね? だってほら」

「はい♪」


 まあ……あまりに魅力的過ぎて俺の中の価値観が壊れかけているのはある。咲奈さんだけでなく、亜利沙と藍那もとてつもない美人なのだ。彼女たち以上の存在なんて考えられないし、まあそれだけ俺は彼女たちの魅力に憑りつかれているのだから。


「自分では正直、この体が魅力的なモノだとは思っていません。知らない男性から欲望を煮詰めた目を向けられることを魅力があるからと言われても嬉しくありませんから。でも隼人君だけは別なんですよ……隼人君に見つめられると体が喜びに満ちてしまうんです」

「咲奈さん……」

「だから私……こんなにエッチな体で良かったです♪」


 ぷっつんと、何かが切れた気がした。

 俺よりも遥かに大人で、けれど仕草はとても可愛いメイドさんとなっている咲奈さんに俺はもっと強く覆い被さるのだった。





「……はっ!?」

「姉さん?」

「亜利沙?」

「どうしたの?」


 街中で亜利沙がサッと顔を上げた。

 突然のことに藍那を含めて友人たちは驚き、更にギョッと開かれた両目に若干の恐怖を感じていた。そんな彼女たちにごめんなさいと漏らし、カップに注がれた紅茶を喉に通した。


「……本当にどうしたの?」

「いいえ……なんか、私の特権を奪われた気がして」

「大丈夫? 頭まで隼人君ので染められておかしくなったの?」

「あなたが言うんじゃないわよ」


 ある意味、亜利沙の感じた危惧も正しかったのかもしれない。

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