下着試着会
「……あ」
「うん? おや君は……」
とある日のことだ。
珍しく一人で街中に買い物に来ていた時、俺は見覚えのなる顔を見かけて声を上げた。あちらも俺に気付いて近づいてきた。
「久しぶりだね。あれからどうだい?」
「お久しぶりです。特に変わりはないですよ?」
「そうか、あんなことがあったわけだからな。引きずってなくて安心したよ」
スーツ姿の彼は朗らかに笑った。
この人は
『お前が不審者か!?』
『……俺は』
『この人は違うんです!』
『私たちを助けてくれたの!?』
『……………』
俺と彼女たちにとって苦い記憶だが、こんなやり取りをしたのも懐かしい。当然不審者のように思われた俺を睨みつけていたものの、三人が俺を庇ってくれたことで不思議なモノを見るような目に変わったっけ。
「その節は色々な意味でご迷惑を……」
「はは、まあ驚いたのは僕だけじゃないからね。流石に警察官としてそれなりのキャリアだが、事件現場にカボチャの被り物をした人が居るのは初めてで驚いたよ」
でしょうね、そんな人は絶対に居ないはずだ。
それにしてもカボチャの被り物……か。あれからもう四ヶ月くらい経ったのか。
「あはは……その、俺剣道やってたんですけど。面を被ると凄く集中出来ていつも以上に頭が働くっていうか……」
「なるほど、それであのカボチャを?」
「はい。お恥ずかしいことに」
みんなを助けることが出来たけど、本当に黒歴史みたいなもんだよな。別にあの時被り物がなかっとしても俺は助けに入っていたとは思う。あんな風に上手く行くかは分からないけどさ。
被り物が俺を突き動かしてくれた、そう伝えると高見さんは笑った。
「あっはっは、そうかそうか。まあだが、あの時僕もだけど他の同僚も君に少し末恐ろしさを感じた部分はあったんだ。被り物から見える眼光とか、雰囲気もそうだが只者じゃなさそうな感じがしたからね」
「……普通な気がするんですけどね」
友人たちにも言われたんだよなそれ。
俺としては普通なつもりだけど、確かに頭がクリアになる気はしていた。本当に不思議な感覚だけど。
「まあ君が元気そうで良かったよ。彼女たちは……あぁそうか、確か伝えないつもりだったんだよね?」
「……それが……その」
高見さんには彼女たちに俺のことを伝えないでくれと言ってそれを実行してくれたのだが、結局その後にバレているの意味がなかったけど。
「あれから彼女たちには気付かれました。今はとても仲良くさせてもらっています」
「あ、そうなのかい? 新条咲奈さんだったかな? 彼女からしつこく君について聞かれていたんだが、バッタリなくなったのはそれが理由かな」
咲奈さんそんなに俺のことを聞いていたのか。高見さんの話ではかなり鬼気迫る様子だったみたいだが、頑なに高見さんは教えなかったらしい。
「ま、今となっては教えても良かったかなって思うけどね」
「ですね」
「はは、それじゃあ僕はこの辺で。これから大事な用があるんでね」
「分かりました。それじゃあ失礼します」
「あぁ。元気で」
爽やかな笑みを浮かべて高見さんは行ってしまった。
警察官と話をする機会なんてそんなにないし、俺の偏見かもしれないが警察官は近寄りがたいイメージがあるのだが高見さんは不思議とそんな感じはしない。あれだけ爽やかな人なら親しみを持たれそうだ。
それから俺は買い物を簡単に済ませ、新条家に向かった。
「ただいま~」
お邪魔しますではなくただいま、もうこう言うのも慣れてきた。靴を脱いだところで咲奈さんが顔を出した。
「お帰りなさい隼人君、今ちょうど二人の下着を新調していたんですよ」
「……下着?」
下着の新調ってどういうことだ?
ニコニコと笑みを浮かべる咲奈さんの手に引かれ、俺はそのままリビングに向かったのだが……そこは桃源郷のような光景だった。
「……おぉ」
「あ、お帰り隼人君」
「お帰りなさい」
リビングに亜利沙と藍那も居たのだが、彼女たちは下着姿だった。俺の記憶が確かなら今までに見たことがないようなもので……あぁそうか、下着の新調ってそういうことか。
「二人とも良い機会なので新しい下着を私の方で用意したんです。それでちゃんと試着をしてもらって、サイズがピッタリか確認をしてもらっていたんですよ」
「なるほど……」
咲奈さんは有名な下着ブランドの経営者なので、彼女がこれが似合うと感じたモノが似合わないわけがなかった。
亜利沙は黒で藍那は赤、それぞれレース下着だが……うん最高にエロい。まず亜利沙が黒というのが単純にエッチだ。藍那も赤ということで単純にエッチだ……あ、語彙力が失われていた。
「ふふ、見惚れてるわね隼人君」
「うんうん。どう~? たんまりと色気が溢れてるかなぁ?」
二人が目の前でとても刺激的なポーズを取った。
いやいや、そりゃ見惚れてるし二人から色気が溢れて止まらないよ。思わずジッと見てしまった自分が恥ずかしくなるが、別に恋人の下着姿を見るのは罪ではないし良いだろう。
「二人とも、暖房が利いているとはいえ冬だから服を早く着なさい」
「は~い」
「分かったわ」
そして当たり前のように目の前で二人が着替えをしていく。
やれやれ……でも、やっぱり二人の下着は基本的に咲奈さんが用意する感じなんだろう。デザインなどもある程度は二人の意見を取り入れ、そして二人が絶対に納得するようなものを作り上げる……凄いよな本当に。
「……ヤバいな」
俺は下半身を見てそう呟いた。
最近彼女たちと世の男に羨まれるような生活を送っているせいか、下着姿の二人を見るとそれはもうムラムラするというものだ。とはいえ気付かれないように時間を潰せば元に――。
「我慢は良くありませんよ隼人君?」
「え?」
後ろからぴったりと咲奈さんが抱き着いてそう言った。
というかなんで分かったんだ、なんて疑問はもう今更か。咲奈さんは俺の耳元で甘い声音で言葉を続けた。
「さあ隼人君、部屋に行きましょうか。思いっきり私を使ってください♪」
「っ……」
甘い、何もかもが甘い……。
俺は咲奈さんの言葉に頷き、彼女に促されるように部屋に向かおうとしたが……当然この場には亜利沙と藍那が居るので、咲奈さんの行動はしっかりと止められた。
「もうお母さん!」
「最近母さんがっつきすぎよ!?」
「あら、だって仕方ないでしょ。目の前に愛おしい人が居て、その人がムラムラしたのならそれを解消するのは役目みたいなものだわ」
そうして俺を置いて三人で言い合いを始めてしまった。
内容としてはとても周りには聞かせられないもので、俺は三人のある意味猥談を聞きながらソファに座った。
「……最近、咲奈さんの色気が本当にヤバいんだよな」
今までもそれは感じていたが、最近になって更に咲奈さんは色気を振り撒く。いつもと変わらない様子だけど……う~ん、ちょっと気になるな。
「お母さんはもう年だから無理をしないで! 私たちに任せればいいの!」
「そうよ! 体を大事にして母さん!」
「……あなたたちの言葉はとても嬉しいけれど、こればかりは譲れないわね」
あ、バチバチ火花まで見えるようだ。
それからしばらく、俺は彼女たちのやり取りを見続けるのだった。
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